[1148]『世界』2月号「憲法九条の死」について

 

 元内閣法制局長官の坂田雅裕さんが『世界』2月号(岩波書店)に寄稿しています。私はこの方の名を知りませんでしたが、こういう方が内閣法制局にいたことがあるのかと驚きました。

 『世界』2月号の寄稿文のはじめを抜粋します。

「反撃能力」と国家安全保障戦略

憲法九条の死 

 これは「防衛政策の大転換」にとどまるものではない。ほとんどの国民が気づかぬうちに、75年間日本が守ってきた平和主義を破棄するものだ。

 九年ぶりに改定された国家安全保障戦略において、わが国が弾道ミサイル等による攻撃を受けた場合に、そのミサイル基地等、相手国の領域内への攻撃を行う能力を自衛隊保有させることが決まった。新たな国家安全保障戦略は、これまで敵基地攻撃能力として論議されてきたこの攻撃力を「反撃能力」と名付けている。

 憲法九条が掲げた「平和主義」は、2015年に成立したいわゆる安全保障法制によってすでに危篤状態に陥っていたが、今般の国家安全保障戦略の改定によっていよいよ最期を迎えるに至った。誕生から75年、人間だと後期高齢者となる憲法九条が、その歴史的な使命を終えていま、その姿を消そうとしている。」

以上。

 阪田さんは内閣法制局長官として権力の中枢で働いていた方です。この文章は滅び去った憲法九条にたいする、体制の内部からの痛苦の想いをこめた葬送の辞です。

 終わりの一節は反対運動にたいする批判をふくみ、重い問いかけだと思います。

 「憲法の規定に反する立法や施策を積み重ね、国民の誤信に乗じて国のカタチを変えてしまう昨今の政治は、立憲主義の否定であり、法治国家の名を汚すものといわざるを得ない。その一方、いわば亡骸だけが残る憲法九条を守るべしとする『護憲』も今やその意義か失われつつある。与野党を超えて政治には、そし国民にも、憲法九条と自衛力の実態との大きな乖離から目を逸らさず、この懸隔を埋める道を探求することを願ってやまない。」

 われわれは護憲運動の限界を自覚し、日本の軍事大国化の動き一つ一つを阻止するために共同してたたかうことが問われると思います。