[693]若き中野重治の『歌』

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こんにちは。
 ペンギンドクターからの寄稿[691]に中野重治の「歌」の一部が引用されています。インターネットで全文を読みました。迫力があります。
 私はははじめて読みました。

「歌」

お前は歌ふな
お前は赤まゝの花やとんぼの羽根を歌ふな
風のさゝやきや女の髪の毛の匂ひを歌ふな
すべてのひよわなもの すべてのうそうそとしたもの すべての物憂げなものを撥き去れ
すべての風情を擯斥せよ
もつぱら正直のところを
腹の足しになるところを
胸先を突き上げて来るぎりぎりのところを歌へ
たゝかれることによつて弾ねかへる歌を
恥辱の底から勇気をくみ来る歌を
それらの歌々を 咽喉をふくらまして厳しい韻律に歌ひ上げよ
それらの歌々を 行く行く人々の胸廓にたゝきこめ


 いい詩ですね。90年前、社会変革の闘いの荒海にこぎ出しはじめた青年の息づかいがきこえます。中野重治20代前半の詩です。私はこんなに潔くはなかったけれども、学生時代の時空間がよみがえるような、よんで心にしみる詩です。プロレタリア文学は好きになれませんでしたが、いまこの詩を読むと豪速球で気分がいい。