[1595]1年前の記事 岸田首相メーデー参加

 支持率を少し上げたものの低空飛行をつづけている岸田首相。しかし先日の日米会談で、バイデンに日米会談は世界の「かがり火だ」と言われ、得意満面です。

 今年もメーデーに来るでしょう。昨年を振り返ります。

 

[1596]1年前の記事 岸田首相メーデー参加

 新しい戦前の旗振り役がメーデー会場の檀上から労働者に何を語るのでしょう。

共同通信は次のように伝えています。

 

首相、連合メーデー出席へ 9年ぶり、労組と連携強化

共同通信 

 岸田文雄首相は、29日に東京都内で開かれる連合のメーデー中央大会に出席する方向で調整に入った。政府関係者が22日、明らかにした。首相が参加するのは2014年当時の安倍晋三氏以来、9年ぶり。自民党は今年の運動方針に連合との連携強化を掲げており、選挙で組織票を持つ連合傘下の民間産業別労働組合の取り込みを図る狙いがある。(共同通信)

共同通信の分析は間違いではないと思います。連合指導部もわかっているでしょう。 

 このときに招待するのは、労働組合員を戦争できる国づくりへの協力要請に無防備に投げ出すに等しいです。

 翼賛化した野党=国民民主党を政治的代表として担ぐ大産別組合の幹部が動いたのでしょう。芳野会長は大得意になっていると思います。労働運動は9年前を超える危機の中にあります。憲法改悪問題、ウクライナ戦争加担問題、中国相手の危険な軍事的包囲網づくりの問題。物価問題、そして物価の値上がりと実質賃金の低下に追いつかないわずかな賃上げ、あらゆることで岸田政権と対決しなければならない時なのです。

 連合指導部が岸田首相に抗議するために招待したというならわかりますが。

以上2023年メーデーについて

 岸田首相は今年4月、バイデンと会い共同声明で日米同盟を強化することを明らかにしました。日本の自衛隊も対米防衛義務を担うというように「片務」から「双務」へと安保第5条の解釈を変えました。メーデーでも何か言うでしょう。

 

[1594]1年前の記事

 ロシアの侵略を起点としてはじまったウクライナとロシアの国家間戦争はNATO諸国の介入で泥沼化し、2024年4月現在アメリカの援助再開決定によってさらに長期化するかもしれません。

 1年前の記事で当時を振り返ります。1年前、ポーランドウクライナ産農産物への免税措置が国内の農民の貧窮を招きました。

[1226]ポーランドが農産物禁輸

 

 これまで避難民を受け入れるなどウクライナ支援の先頭に立っていたポーランドウクライナからの農産物輸入を禁止しました。

朝日新聞を引用します。

ウクライナ情勢 ポーランドハンガリーウクライナ農産物を禁輸 自国農業を保護

ブリュッセル=玉川透

2023/4/17 8:04 

中欧ポーランドハンガリーは15日、穀物などウクライナ産農産物の輸入を一時的に禁止すると発表した。ロシアによる侵攻後に大量流入した安価なウクライナ産農産物から、国内農業を保護する目的という。AP通信などが伝えた。 

 ウクライナ産の農産物は、ロシアの軍事侵攻の影響でアフリカや中東への黒海経由での輸出が困難になっている。欧州連合EU)は支援策として関税を免除して輸出を促進しようとしたが、安価なウクライナ産の多くが中東欧の国々にとどまって農産物の価格を押し下げ、地元農家に損害を与えているという。

 こうしたEUの対応にポーランドなどは不満を強めており、ブルガリアも禁輸を検討しているという。 EUの報道官は16日、ポーランドなどの措置について、「通商政策はEUの独占的な権限であり、加盟国の一方的な措置は受け入れられない」と述べた。 また、ウクライナの農業政策・食料省は声明で、「ポーランドの農家が苦境にあることは理解しているが、現状ではウクライナの農家が最も難しい局面にあることも強調したい」と懸念を表明した。(ブリュッセル=玉川透)

 ポーランド政府はロシアとの戦争に応じたゼレンスキー政権のもとで苦しむウクライナの農民を救うために関税を免除しました。

 ウクライナからの農産物が低価格で輸入されればポーランド産の農産物の価格が下落するのは必然的です。ポーランド農民が貧窮したのです。

 もっと困っているのはウクライナだ、という「反論」はポーランドの農民の闘いの火に油を注ぐようなものです。ポーランド政府は自国農民に犠牲を強いる形でウクライナ戦争への加担を続けてきたことが農民の闘いによって明るみに出されました。

 ハンガリーも同様です。ロシアもウクライナも政府支配階級の利害のために労働者農民に犠牲を強いています。

 下からの力で戦争を止めなければならないと思います。

2023年4月17日

以上、1年前の世界の一断面です。2024年4月、ウクライナ戦争はなお続いています。アメリカは9兆円以上のウクライナへの軍事援助を決定しました。ロシア(•中国)ーウクライナNATO諸国家はウクライナ戦争を自陣営を有利に終わらせるための駆引きの手段として戦闘を利用しています。

 

 

[1593]労基法改正案、40年に一度

 労働基準法が大きく変えられようとしています。23日に厚労省で「労働基準関係法制研究会」が開かれました。研究会は経済学者や産業医ら計10名で今年1月にスタートし、この日が6回目となりました。研究会では、働き方改革関連法に盛り込まれた施行5年後の労働時間規制など見直しが議論されています。

 朝日新聞デジタルが伝えています。

労基法「40年に1度」の大改正? 働き方が多様化、進む見直し議論

4/24(水) 9:00配信

「労働基準関係法制研究会」には多くの傍聴者も集まった=2024年4月23日、東京・霞が関厚生労働省

 時間外労働の上限規制が導入された働き方改革関連法の施行から、4月で5年が経った。厚生労働省では、働き方の多様化に対応するため、労働基準法などのより抜本的な見直しも視野に入れた議論が進んでいる。「40年に1度」(同省幹部)とも言われる大改正につながるのか、関心が高まっている。

 「今後の議論を通じ、政策の進むべき方向性を打ち出すことができればと考えている」

 23日に厚労省で開かれた「労働基準関係法制研究会」で、座長の荒木尚志・東大大学院教授(労働法)はこう語った。

 研究会は、経済学者や産業医ら計10人のメンバーで今年1月にスタートした。検討事項の議論は一巡し、この日が6回目となった。働き方改革関連法に盛り込まれた施行5年後の見直しを検討する役割を担い、労働時間規制などを改めて議論。さらに、フリーランスら多様化する働き手の健康管理のあり方や、労働条件を決める労使のルール作りなどを幅広く話し合っている。

以上

 経団連は今年1月、高度プロフェッショナル法の対象業務の拡大を提言しました。研究会はこの提言をも受けて裁量労働制の適用範囲なども含めて今後検討していくことになると思われます。

 2020年に新設された高度プロフェッショナル制度は、指定された対象業務(金融商品の開発、ディーリング、アナリスト、コンサルタントなど)で健康管理時間の把握措置条項を設け、原則として労働時間規制の適用が除外することができることとされています。導入に際しては労使委員会の5分の4の賛成が必要とされています。

 労基法の改悪の動きにたいして労働組合の存在意義が問われています。

 組合の仲間は団結しなければなりません。

[1592]軍事費が増加

軍事費が上がり続けています。

 国家間の利害対立が深くなっていることを意味していると同時に、経済の軍事化が進んでいるということです。

 ウクライナは米国などから軍事援助を受けており、援助を合わせるとロシアの軍事費の約91%に達したそうです。ウクライナはやはり東西対立の白熱点となっているのです。各国の軍事産業は武器を生産し、ウクライナとロシアの労働者階級は戦場で武器を消費させられています。そして消費した武器を補填するために死の商人が武器をつくり売って儲けるという悪循環。

 武器の生産と消費の悪循環は資本家階級の政府によっては断ち切れません。

朝日新聞デジタルから引用します。

世界の軍事費約378兆円、過去最高に

ウクライナは前年比51%増 4/22(月) 20:33配信

 スウェーデンストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は22日、2023年の世界の軍事費(一部推計)が前年比で実質6.8%増加し、総額2兆4430億ドル(約378兆円)だったと発表した。世界の軍事費は9年連続で増加し、統計を取り始めた1988年以降で過去最高となった。

 報告書によると、上位は米国、中国、ロシア、インド、サウジアラビアで、5カ国の合計が世界全体の61%を占めた。上位10カ国はいずれも前年から増加しているという。 欧州、アジア・オセアニア、中東で特に大幅な増加があったとし、ウクライナは前年比51%増の648億ドルで前年の11位から8位となった。

■「中国の脅威により日本も大幅強化」と分析

 ウクライナ単独の軍事費はロシアの軍事費(1090億ドル)の59%だったが、米国を中心に少なくとも350億ドルの軍事援助を受けており、これを合わせるとロシアの軍事費の約91%に達した。

 イスラエルは、2023年10月のイスラム組織ハマスの奇襲に端を発したパレスチナ自治区ガザへの大規模な攻撃が主に支出を促し、24%増の275億ドル。

 日本は11%増の502億ドルで前年の9位から10位となった。報告書は台湾でも11%増えたことなどに触れ、「中国の脅威によって日本や台湾は軍事力を大幅に強化し、この傾向は今後数年でさらに加速するだろう」と指摘した。 SIPRIは「前例のない軍事費の増加は平和と安全保障環境の悪化を反映している」と分析した。

以上

 「前例のない軍事費の増加は平和と安全保障環境の悪化を反映している」のは間違いないが、他人事のように言っている場合じゃない、メディアは警鐘を強く鳴らさなければならない時だと思います。日本政府も武器生産と輸出の規制を緩和し急速に軍事大国化しています。

[1591]哲学や思想は、このどうしようもない現実を変えることができるのか――。斎藤幸平×高橋哲哉でおくる「危機の時代と人文学」−2

 対談で、なんのために哲学するのか、ということを二人は問いかけています。

高橋 三年前に國分さんと対話したときに聞かれたんです。自分も高橋さんもフランス現代思想を読んできましたが、原発についてフランス現代思想は何と語ったでしょう。何もないじゃないですか、と。フランスという原発大国にあって、フーコーデリダドゥルーズ、その他綺羅星のごときフランス現代思想家たちが批判をしていたか。斎藤さんはご存知ですか?

斎藤 していないんじゃないでしょうか。

高橋 そうですね。そうすると、哲学思想って何なんだろうと。だから、我々が学ぶような哲学者、思想家といった重要な存在は、いろんなヒントを与えてはくれるんだけれども、それを絶対化することはできないし、そこに必ず答えがあるとも限らない。現代はグローバルな世界なわけですから、本当の意味でのダイバーシティアーレント的に言うと多様性複数性ですが、市民社会の中からいろんな動きが出てきて、それが思想化されていく形ももっと重視する必要がある。大学で学ぶ古典、現代の古典も含めた代表的な哲学者、思想家の議論だけにとらわれる必要はないと思うんよ。そこに欠けているものも当然ある。

斎藤 それで言うと、最近ちくま新書から出た『現代フランス哲学』という本があって、その中で私がいいなと思ったのが、カストリアディスという哲学者にスペースが割かれていたんですね。実はカストリアディスという人は、まさに原発のような問題についても盛んに議論をしていて、脱成長というようなことも書いている。フランスの伝統をさかのぼると、今の日本ではほとんど読まれませんが、例えばアンドレ・ゴルツやフランソワーズ・ドボンヌといった思想家たちもいます。しかし彼らは90年代になると忘れられていった。でも彼らを今こそ読み返すべきだと思います。私も「どうして今更マルクスを読んでるんだ」とよく言われるんですが、マルクスの思想も1つではないわけです。マルクス自身も考えが変わっていくし、マルクスが言っている内容をどう広げていくか、どこに着目するかというのは、読み手によって全然違う。 

 それこそ廣松渉さんの時代なんかは、スターリン主義批判として出てきた科学主義、社会的科学主義、科学的社会主義があって、それに対してヒューマニストの人たちが批判していた。しかし、廣松さんたちはそれでも駄目だ、疎外論では駄目で物象化論なんだという論を展開していた。

 そんなふうに、人によって時代によって、政治的な関心によって読み方はどんどん変わっていくわけです。私がやったように、資本主義が唯一となった時代にもう一回そうではない社会を描こうとしたときに、気候変動が一つの軸になるのではないか思ってマルクスの今まで読まれてこなかったノートに焦点を当てると、また違う思想が蘇ってくる。                  

 私自身も、思想を勉強すれば何か社会が自動的に変わっていくのかと言えば、現実を見たらそうは言えないと思います。戦争やジェノサイドというべきものが現在進行形で起きていて、人を殺すなとか、地球環境を守ろうとか当たり前の話すら成り立たない世界で、哲学者たちがどれだけ有意義なことを言えるのかを考えると、私たちは単に論文を書いてさえいればいいとは到底思えない。どういう発言をするのか、どういう思想を使ってどういう未来を描いていくのか、どういう現実を批判していくのかというのが本当に大事だと思います。

 それは容易ではないと感じる一方で、環境保護の問題や高橋さんが取り組んでこられた戦後責任の問題などに対して、それらは単に個人の問題ではなくて社会的な問題なんだ、政治的な問題なんだと展開していくには、私はやはり思想や哲学なしにそういったことはできないんじゃないかと思いますし、そこに責務も感じています。

高橋 じつに頼もしいですね。

以上

 私も斎藤は頼もしいと思います。しかし次のような意見に斎藤の越えなければならない壁が露顕していると思います。

「人によって時代によって、政治的な関心によって読み方はどんどん変わっていくわけです。私がやったように、資本主義が唯一となった時代にもう一回そうではない社会を描こうとしたときに、気候変動が一つの軸になるのではないか思ってマルクスの今まで読まれてこなかったノートに焦点を当てると、また違う思想が蘇ってくる。」

 マルクス思想にたいして哲学的に、経済学的に、あるいは革命論的になどアプローチの視角を変えて読むことは必要です。しかしマルクスの既成の「読み方」を批判的に吟味する必要がありはしないか。

 マルクス思想の本質を、読み方の違いによって歪めてはいけないと思います。

 マルクス主義の把握の仕方は確かに人によって時代によって、政治的な関心によって変わっていきました。スターリン主義の破綻はロシア革命が世界的に孤立したという時代背景の中で、スターリン的読み方によってマルクス世界革命論を一国革命主義的に歪めたことに淵源しているのです。スターリンは政策的にではなくマルクスの理論•哲学の本質を壊しました。              

[1590]哲学や思想は、このどうしようもない現実を変えることができるのか――。斎藤幸平×高橋哲哉

斎藤幸平と高橋哲哉の対談を「現代ビジネス」が紹介しています。

 この二人は2024年現代世界の戦乱と混沌の中で、今日の文化理論の頽落をのりこえていくために苦闘しています。二人の思想家の対談を読ませてもらいました。

 1991年のソ連邦の自己崩壊がマルクス主義の破綻として喧伝されるなかで、ロシア革命が目指した社会変革の試みの蹉跌を理論的にも実践的にも越えることが問われています。

 歴史の瓦礫の中から変革の萌芽が出はじめたのかもしれません。その萌芽の仔細を見極め学び発展させることが必要です。

以下現代ビジネスが対談の紹介しています。

 昨年、これまでの自身の研究の集大成として『マルクス解体』を上梓した斎藤幸平さん。今年一月、斎藤さんが多大な影響を受けたという哲学者・高橋哲哉さんとの対談イベントが、代官山蔦屋書店にて開催されました。前編に引き続き、この豪華対談の中身を大ボリュームでご紹介いたします。

 

まず「出来事」がなくては――

斎藤 現実の問題に対して哲学や思想をどうすれば実践的に使えるのか。そのような意識を高橋さんの本から私は感じとっていたのですが、高橋さんもやはりそのようなことを意識されていたのでしょうか。

高橋  はい、そうですね。

斎藤  そうすると、高橋さんは学生時代、思想としてはノンポリだったのでしょうか? 当時、活動家になろうと思ったりはされなかったのでしょうか?

高橋 ノンポリでしたね。私はかなり早くから人文系の研究者を目指していました。それは今で言う「紙の」本が好きだったからで、哲学だけじゃなく、文学や歴史など全般的に好きでした。なので、本を読んで暮らせればいいなと思ったのが、大学に入るときの最初の目的でした。私が入ったときにはもう学生運動は終息しかけていたので、近づく必要もなかった。でも、政治的な関心は、当然ありました。私の世代は生まれてしばらく、まだ戦後のにおいを嗅いでいた世代なんです。戦後のにおいというか、敗戦国としての日本のにおいみたいなものが、私は福島出身ですが、福島のような地方でも感じられたんですよ。

 だから90年代になって植民地支配や戦争の記憶の問題が出てきたときに、これは避けられないと思いましたし、今でもそう思っているのは、そういう世代であることが大きいと思います。戦後日本とは何なのか、戦前から戦後へ日本はどう変わったのかというような問題意識から、政治的な関心は常にあったんですが、それを自分の仕事にするとか、実践的な活動に入っていくつもりはなかったですね。だから大学院でも、特にやっていたのはフッサールでした。ばりばりの超越論的観念論。

斎藤  たしかにフッサールは政治的なことは一番出てこないですね。

高橋  ほとんど出てこない。それをうまく使ったのはサルトルやメルロポンティですが、それらもやはり哲学的に読んでいた。ただ、政治的な関心はあったので、いわゆる哲学研究にだんだん物足りなさを感じ始めました。大学院が終わるくらいの時期ですね。デリダなどに軸足を移していく中で、フランス現代思想が持っている政治的な性格などを受け止めていくようになりました。今でこそ社会問題や政治問題に対して発言する哲学者はいたるところにいますよね。いても全然おかしくない。

 でも当時は、ほとんどいませんでした。私が学生の頃、哲学の世界で社会問題や政治問題について発言するといったら、それこそ党派的な意味でのマルクス主義の人たちだけでした。彼らを除けば、政治的なものに対して一種馬鹿にしているところがありましたね。哲学の世界の閉鎖性、私はそれにだんだん耐えられなくなってきたんです。そして90年代に入って、哲学の非政治性、哲学が排除しているものに少しずつ照準を当てるようになって、最初にまとめたのが『記憶のエチカ』という本でした。 

 そこで最初に私が宣言しているのは、「出来事」に晒されることなしに哲学するのはむなしいということ。これは私の気持ちであり、当時からの私の基本的なスタンスです。斎藤さんから先ほど尋ねられた意識の問題はここに関係してくると思います。私の場合、少なくとも今はっきりと言えるのは、残りの人生を形而上学に捧げようとは思わないわけです。デカルト形而上学、コギト・エルゴ・スムから始めた。形而上学を哲学の根っことすれば、幹に自然学があって、そこから枝が出て機械学や医学などいろんなものが実を結ぶわけです。

 だから形而上学が一番大事だと言っているんですが、形而上学にそんなに時間を使う必要はない。彼は数学者なので、数学を自然に適用するという現実的な関心がやはり強かったんじゃないかと思います。

 私も同じで、哲学を研究する以上、形而上学存在論的な議論に関心はあるけれど、そればっかりをやるつもりはないし、そこから始めるつもりもなくて、やっぱりまず「出来事」なんですよ。自分にとって、これは見逃せない、回避できないと思う「出来事」があったときに、そこから始まるというのが私の思考で、基本的なスタンスなんです。

斎藤  いいですね。この「出来事」というのは、現代思想においてどのように説明すると良いのかちょっと難しいのですが、まさに今までの枠組みを偶然的に変えてしまうような転機としての「出来事」という意味で、福島の原発事故は、私にとっての「出来事」なんです。自分の前提としてきた生活があって、もちろん原発には色んな危険があることは知ってはいたけれど、その問題に向き合わずに来てしまった。

 実は、私がそもそもマルクスに向き合うようになったきっかけは、大学に入って感じたある気づきにあります。それまでは東京の私立の中高一貫に通っていて、そうすると周りも同じようなバックグラウンドを持っている人が多い。それが大学に入ると、もちろん地方から来る人もいるし、都内から来ていても全然違う家庭環境で育った人もいる。35歳ぐらいで理科三類に入り直した同級生もいたりして、そういう人たちに会って話を聞いたりすると、自分が前提としてきた枠組みからは見えなくなっているものがある。それはしょうがないことでもありますが、見なくていいっていうのは一つの特権性でもあるし、気にしなくても生きていける。でもそれによって様々な抑圧に自分が加担してしまっていることに気がついたのが、マルクスに向き合うようになった最初の一つの「出来事」だったんですね。これに対して、自分がどう応答するべきなんだろうか。自分はただのうのうと資本主義の中で、恵まれた環境を最大限自分のために使っていくみたいな生き方をするのか、あるいは、そこに向き合っていくのかということを大学に入った頃に迫られて。

 90年代に入って「慰安婦」サバイバーの方々が出てきたことで、戦後責任の問題がより問われるようになったときに、それにどう応答していくのか。人文学の話というのは、実はそうやって身近なところにまで持ってきて考えることができるものだと思うんです。哲学は一見すると抽象的に思えますが、私たちの生活にまで下ろして考えると、極めて身近なものになってくる。福島の問題もそうですが、今日まだ話してないお話として、例えば沖縄の基地の問題もそうです。高橋さんは沖縄の問題について、いわゆる左派的な人やリベラルな人たちでもなかなかしない提案である、基地を本土で引き受けるべきだという議論を展開されています。

 先ほど高橋さんは社会問題に声をあげる哲学者が今はわりとたくさんいるとおっしゃっていましたが、確かに國分功一郎さんや私を含め、駒場にもそういう先生は何人かいらっしゃいますが、全体としてはそうでもないかもしれません。大学の中では、例えば研究者が気候変動の問題に対して発言をしても、それは直接論文にはならないので学術的には評価されません。そういう活動にエネルギーや時間を使うよりも、論文を書いて国際ランキングを上げようとか、研究費を取れるようにしようみたいな圧力が高まっているように感じます。

 また、若手の人たちにとって就職が困難だったりする状況では、とにかく業績を上げよう、業績を上げるためにはまず論文を書こう、そのためには論文を書きやすいテーマを選ぼう、みたいになりがちです。その流れがどんどん自分たちの内面的な規律になってきてしまっていて、社会問題について声をあげる先生が本当に少なくなっているように感じます。それをちょっとでも何とか食い止めたいなと思って、私は意識的に発言するようにしています。色んなテーマに対して、自分の専門を超えて社会に対して発言をしていく。これはサイードが『知識人とは何か』という本の中で、アマチュアリズム、つまり象牙の塔にこもるのではなく、社会に対してコミットしていくということを言っていて、自分もそうありたいなと思っています。

高橋  昨日だったと思いますが、関東大震災100周年に合わせ、当時の朝鮮人や中国人に対する虐殺について、政府や東京都がそのような事実があたかもなかったかのような、あるいは無視するような態度を続けていることに対して、東京大学の研究員や名誉教授も含めた教職員で署名を出そうというメールが回ってきまして。呼びかけ人に斎藤さんのお名前もありました。

 本当にそうすべきだと思います。政権や行政が、あの事件の公的な記録がないと言うような、歴史修正主義なり否定論のようなことを官房長官が言う状況になっている。日本を代表するアカデミアの教職員がこういう声明を出すというのは、私としては「待ってました」という感じです。期待されるところだと思うので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

 先ほど「出来事」と言ったときに現代思想ではという話が出ましたが、それだけで斎藤さんがフランスのものもよく読んでいることがわかります。応答可能性としての責任というテーマで言うと、『マルクス解体』は学術的な内容ですが、『人新世の「資本論」』を読むと、脱成長はグローバルサウスからの呼びかけなんだということが後ろの方で繰り返し出てきます。その声に応答しなくていいのかと。ここはもう完全に我が意を得たりでした。

斎藤 もちろん意識しています。

引用以上

 高橋は「『出来事』に晒されることなしに哲学するのはむなしいということ。これは私の気持ちであり、当時からの私の基本的なスタンスです。」と言います。斎藤幸平はこの高橋の立場に魅かれ、現実問題に対決しつつマルクス主義の研究をはじめたと言います。

 

つづく

[1589]結局、ロシアの凍結資産没収の動き

 

 

 欧米帝国主義諸国はウクライナ戦争に介入して自国資本家階級の利益を守ろうとしたものの、ここにきてうまくいかず、引きはじめました。しかしついに制裁で凍結したロシアの資産3000億ドル(46兆円)の利子をウクライナ戦争支援に充てようとしています。

 米議会でウクライナ支援予算が決議できず支援も止まっています(今入った速報ニュースによると支援予算が米議会を通過したとのこと)。ウクライナ戦争の戦局がウクライナ劣勢となっているなかで、NATO諸国がロシアの資本家階級の凍結資産を奪って戦争につぎ込む道に活路を求めること自体が末期的です。

日経新聞を抜粋します。

【ロンドン=江渕智弘、ワシントン=高見浩輔】主要7カ国(G7)は凍結したロシア資産をウクライナ支援に使う議論を急ぐ。資産の利子を活用する欧州連合EU)の計画から上積みを模索する。国際法の壁が高い没収にかわり、将来の利子収入を担保にした融資などが浮上している。

17~19日にイタリアのカプリ島で開く外相会合と、17日に米ワシントンで開催する財務相中央銀行総裁会議でそれぞれ協議する。

以上

 ロシアの資産はロシア資本家階級がロシア労働者階級から搾取したり収奪したりしたカネの集積です。EUは銀行に預けられたその資産をウクライナの資本家階級の政府に横流しするというわけです。

 侵略するロシアもロシアですが、預金をネコババするEUEUです。背広や軍服を着た盗賊たちのふるまいを尻押するウクライナのゼレンスキー政権も同じ穴のムジナだと言わざるをえない。戦争で斃れる労働者を背後に残して延命しようとしているのです。

 世界の労働者が団結することだけが戦争を止め将来を切り拓く力です。