[1599](寄稿)医療あれこれ(その107)ー1 前立腺がんについて

ペンギンドクターより

その1

皆様

 本日は朝から雨模様ですが、雨が上がると暖かくなるようです。
 私の「前立腺がん」の件ですが、高齢の男性にとっては、最も頻度の高いガンですから、診断までの経緯をお話しておきます。私は毎年4月に人間ドックをしています。この4-5年PSA(前立腺特異抗原)は1台後半でした。昨年も1.8でした。70代男性の正常値は4.00以下です。今年は7以上に跳ね上がったので、これは明らかに異常です。一般にPSAは自転車に乗ると上昇します。サドルのところで前立腺を圧迫するので数値が上がるというわけです。
 また人間ドックでは、腹部エコーをしていますが、昨年は前立腺のチェックはしていません(通常、上腹部のエコーのみが行われています)。一昨年と今年は同じ50代の女性技師で丁寧に下腹部までチェックしてくれて、一昨年は異常なし。今年は「影」があったので、健診センターの責任者にすぐ連絡して血液検査室に問い合わせてPSAの上昇を確認してその日の午後に私の家に連絡したというわけです。その技師は50代で昔からよく知っているので、いつもついでに頸部や心臓のエコーをしてくれているのです。
 さて、私の「前立腺がん」の状態はどの程度かという問題になります。私は18年間の病理診断の担当で、もう昔になりますが、前立腺がんの生検診断の経験もあります。前立腺がんは一般におとなしいのですが、低分化で進行の早いものもあります。私の場合がそれに相当するかどうかは、今後の生検によるわけですが、急速な値の上昇から見てより悪性のものの可能性もあります。またエコーで「影」があるので、発育は早いとも言えるでしょう。周囲への浸潤があれば、ロボット手術の対象から外れる場合もあります。
 私は在宅医療中心のクリニックで、79歳で前立腺がんの治療を開始し、5年後の84歳で死亡した男性を診察して来た経験があります。彼は手術はしていません。ホルモン治療と抗がん剤の治療で、一時的にはPSAがゼロとなりましたが、その後上昇、別の薬に変えて一旦低下したものの再上昇・・・・・・の繰り返しで亡くなりました。足腰も弱って通院が難しくなったので、「そろそろ在宅医療を予約しようか?」と聞きながら、外来診察をしていました。奥さんと二人暮らしでしたが、ちょっと頼りなくて本人(慶応大学経済あるいは商学部?の卒業生でしっかりした人でした)がもっと頑張るとのこと、結局在宅医療にして2週間ほどで自宅にて亡くなりました。お互い、いろいろよもやま話が出来て懐かしい人でした。 
 前立腺がんの患者さんで最も有名なのは、日本のノーベル賞受賞第一号、湯川秀樹博士です。また前立腺がんのホルモン療法を初めて実用化したのは1941年?だったか、ハギンス?博士で彼もノーベル賞を受賞しています。受賞したのは1966年です。
 ということで、前立腺がんは予後のいいがんですが、すべてのガンと同じく、いろいろパターンがあります。ただし、治療を始めた場合の5年生存率はほぼ100%ですから、全体の癌の中では最も予後のいいがんと言えるでしょう。泌尿器科の医師のうちには、「PSAが4以上というだけで紹介しないでくれ」と診察・検査を敬遠するドクターも結構います。
 また私が評価している元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏も「腎不全」で奥さんから腎移植を受けようと準備していた時に「前立腺がん」が見つかり、腎移植は延期、血液透析となり、その後、前立腺がんを切除し、転移もないので、晴れて腎移植手術を受けて、体調が完全回復したと最近の対談などで、述べています。

以上で、前立腺がんは終わります。

つづく