[1524]医療あれこれ(その102)ー3不妊治療について

ペンギンドクターより
その3 
 さて転送する内科医山本佳奈さんの文章は以前にも何度か紹介しました。山本医師は34歳だとのことですが、実際35歳を過ぎると不妊治療での出産率は減少してきます。山本医師の文章は現状を正確に把握しています。
 紹介する本を示します。
 ●浅田義正・河合蘭『不妊治療を考えたら読む本<最新版> 科学でわかる「妊娠への近道」』(講談社ブルーバックス、2023年8月20日第1刷発行)
 ■浅田義正:医学博士、医療法人浅田レディースクリニック理事長。1954年愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。同大医学部産婦人科助手などを経て米国で顕微授精の研究に携わり、1995年、名古屋大学医学部附属病院にて精巣精子を用いたICSI(卵細胞質内精子注入法)による日本初の妊娠例を報告する。2004年に愛知・勝川で開院し、2010年に浅田レディース名古屋駅前クリニック、2018年には浅田レディース品川クリニックを開院。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。
 ■河合蘭:出産ジャーナリスト。1986年より出産に関する執筆を開始し、写真家としても活動。東京医科歯科大学聖心女子大学等の非常勤講師も務める。著書に『未妊――「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断――出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。
 裏表紙のコピーを記します。次いで帯のコピーも記します。
 
科学的根拠からみた「妊娠に必要なこと」とは
 日本は「妊娠できない不妊治療の件数」が世界トップクラス――長らくこの状況が続いています。
 不妊治療をしても妊娠できないのはなぜなのか?
 限られた「時間」と「お金」を有効に使って結果を出すには?
 生殖医療の第一人者である専門医と出産ジャーナリストが、科学的根拠のある「妊娠のコツ」を徹底的に掘り下げ、丁寧に解説したロングセラーを改訂。
 治療に行き詰まっている人はもちろん、子どもを持ちたいと思う全ての人に必要な最新知識が詰まっています。
 
最短で結果を出すための必須知識が満載!
保険診療か自費診療か? 選ぶ際のポイント
着床前検査(PGT-A)を受けるメリット・デメリット
医師から自費診療を勧められたけど、その真意は?
「AMH検査」で卵子の在庫を調べるプレコンセプションケア
英国で非推奨の「妊娠率が低い治療」が日本で数多く行われている
「検査で異常なし=すぐ妊娠できる」は間違い
胚を凍結したほうが妊娠率は上がる
もっとも妊娠しやすいのは「排卵日2日前」
40代の胚で妊娠率を上げるコツ
男性不妊への対処法
良い胚を見極めるAI判定が始まっている
 
 この本を購入したのは2024年2月7日(水)です。4日後の本日読了しました。この本は信用できると思いました。医師の単著ではなく、ジャーナリストとの共著ですので、文章が分かりやすく、一般人が疑問に思う点を取り上げていて、内容は難しいなりにわかってもらおうという努力が見られます。いい本です。2016年に旧版が発売されたのですが、2022年4月には「生殖補助医療」の保険適用が拡大されたので、急遽改訂版「最新版」を発行することにしたようです。
 いろいろ門外漢の私には勉強になることが多かったのですが、こんな文章もあって感心しました。232ページです。
 
……保険適用はありませんが、2022年には東京都が、卵子凍結を希望する健康な女性への助成案を示し、話題を呼びました。2015年には千葉県浦安市がこれを実施しています。ただ、採卵という処置を必要とし、毎年、高額な保管料を支払い続けるにもかかわらず、実際に、凍結しておいた卵子を使って出産に至った人はきわめて少ないという現実もあります。なかなか凍結卵子で出産できないおもな理由は、技術的に無理だからではありません。パートナーを見つけるのが難しいのです。
 浦安市は、卵子凍結の費用の助成を少子化対策だとしていましたが、少子化対策としては、長時間労働の改善や若いカップルへの経済的支援など結婚の促進につながる対策のほうが圧倒的に重要でしょう。……
 
 その通りでしょう。私の下の娘(まもなく38歳)の出産までに要した費用(4年間計8回の治療に要した費用)は額面で500万(わずかですが一部は助成金利用)を超えたと言います。結婚し、夫婦ともに正社員として働いているから、費用が捻出できたのですが、保険診療化で助かったという面も大きかったようです。また医師ネットワークでは、保険診療化で市民の知識レベルが向上し、自費診療の場合、いい加減なレベルなのに高額の医療費を要求した施設が淘汰される良い面もあるという報告もありました。今後どうなるか、期待を持って見守りたいと思います。
 今日はこのへんで。
 
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不妊治療の番組に出演してアメリカと日本の体外受精成功率の差から女医が思うこと
 
 この原稿はAERA dot.(2023年10月04日配信)からの転載です
 
内科医
山本佳奈
 
2024年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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先日、日本のある番組(※1)にサンディエゴからオンラインで出演しました。テーマは、2022年に保険適応となった「不妊治療」についてでした。
 
 実は、世界一の不妊治療大国である日本。国立社会保障・人口問題研究所調査(2021年)によると、日本では約 22%の夫婦が不妊治療の経験があると言います。
 
 また、日本産婦人科学会の調査によると、2021年における体外受精の治療件数は、年間約49.8万件(※2)。13人から14 人に 1 人は体外受精で誕生しているため、小学校の30 人ほどの 1 クラスに 2人から3 人はいることになり、決して稀ではないのが現状と言えます。 
 
 ●成功率60カ国中最下位の日本
 しかし、不妊治療大国でありながら、日本における体外受精の成功率は、世界60ヵ国の中で最下位なのだといいます。不妊治療の先進国として知られているアメリカでは、年間約33万件(2020年、CDCのデータより/※3)の体外受精治療件数。そのうち、約 8 万 4000 人が誕生しているため、約 25%の割合で誕生していることになります。一方の日本(2021年)はというと、年間49.8万件(※4)の体外受精治療件数から約7.0万人が誕生していることから、約14%の割合で誕生していることになるというわけです。
 
 その要因として考えられていることの1つが、不妊治療を開始する「年齢」です。卵子は、加齢とともに数も質も低下していきます。つまり、年齢が高くなればなるほど、良質な卵子の数も少なくなっていれば、妊娠する能力も低下してしまいます。その結果として、高齢になればなるほど不妊の傾向が強まると同時に、体外受精の成功率も徐々に低くなってしまうというわけなのです。
 
 実際に、不妊治療を開始する平均年齢は、アメリカが約34歳であるのに対し、日本は約40歳というデータがあります。この年齢差は、日本における体外受精の成功率の低さに大きく影響している可能性があるというわけなのです。
 
 要因の2つ目として、他の欧米諸国と比較すると、性や妊娠する能力(妊孕性)に対する教育が不十分であることが考えられています。妊孕性に対する理解や知識が不十分であるがゆえに、高齢でも妊娠できると誤認されているのではないかという指摘もあるといいます。
 
 ●今年で34歳になり思うこと
 今年で34歳となった私。「いつか子どもが欲しい……」そう思っていたものの、これまでパートナーに恵まれなかったという現実に加え、「不妊治療が必要なカラダだったらどうしよう」という漠然とした不安、さらには「キャリアを優先しなければならない」「成功している女性は、高齢出産が当たり前」(※5)「不妊治療でも子どもは産める」という上司の教えから、子どもを持った将来について、意識的に考えないようにしてしまっていました。
 
 幸いにも、アメリカ人のパートナーに出会うことができ、結果的に日本を離れたわけですが、すぐに子どものことを考えられるかと言えば、そう簡単にはいきません。もちろん、妊娠する能力(妊孕性)を考慮すると、今すぐにでも検討したほうがいいのでしょう。
 
 しかしながら、アメリカでかかる高い生活費、アメリカでかかる養育費、将来的な経済面などを考慮すると、私自身の年齢面だけを優先するわけにはいかないのが現状です。さらに、不妊治療が必要だとしたら、加入している民間の医療保険のプランにもよりますが、高額な医療費が必要になってくる可能性があります。こればっかりは、実際にどんな治療が必要かにもよるので、未知数です。
 
  今回の番組出演をきっかけに、日本やアメリカの不妊治療についての現状を知るだけでなく、年齢的な面で、自分自身の置かれている「リアル」を知ることにつながったと感じています。また、妊孕性について理解していたつもりでも、自分ごとに落とし込めていなかったことにも、気づくこともできました。
 
 「意識して考えないようにしていた妊娠や出産、子育てについて、そろそろ真剣に自分自身と向き合っていこう」今はそう思っています。
 
 
【参照URL】
 
 
 
 
 
 
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 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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