[1523](寄稿)医療あれこれ(その102)−2

ペンギンドクターより

その2

添付ファイルは、不妊治療とは無関係ですが、20年ほど前の私の文章です。前に何度かお見せしたかもしれません。「恩寵の時間シリーズ」として、公的病院から民間病院へ移る空白の時間に、週2篇の文章を綴っていた頃の文章です。その頃シングルマザーについて私が感じていたことがわかって私自身にも面白く、添付しました。


恩寵の時間―その41
 妊娠、シングルマザー、日本の女性の生き方は変わるべきなのではないか? 

 数年前のことだった。ある日の午後、私がU病院に行くため、電車に乗っていた時だった。Aから一人の女子高校生が乗ってきた。たまたま車両がB止まりだったので、私一人しかその箱にはいなかった。少し離れた斜め向かいのボックスに座った彼女の声が聞くともなく耳に入った。携帯電話で男友達と話しているようだった。「あのさあ、医者に行ったんだ。3ヶ月だって。あたし、産むよ。親父がやくざでよかったよ。そこらのサラリーマンだったら、ぎゃあぎゃあ大騒ぎだよ。家も借りてくれるって。高校はやめる。うん、そう、、、、」 

 電車は、Bに着いた。彼女は携帯で話しながら降りていった。美人ではなかったが、大柄な目鼻立ちのはっきりした大人びた高校生だった。 

 私は、なぜともなく「ああ、いいな」と思った。爽やかさではない。したたかな強さといったほうがいいだろう。「親父が、やくざでよかったよ。」が気に入った。やくざといっても、暴力団とは思えない。きっと自営業か建設業なのだろう。親父は、子供が好きなのだろう。18歳で彼女は母親になる!相手の男の子は、いい父親になるだろうか?いや、きっと彼女は一人で子供を育てることになるだろう。きっと、おじいちゃんが、一緒に面倒をみてくれるだろう、、、、、想像は広がっていった。 

 18年前、千葉の病院で、私は30歳の女性の乳癌を手術した。胸筋温存だが乳房は切除した。おとなしくかれんな20歳はじめとも見える女性だった。ふと、「彼女は結婚できないかもしれないな」と思った。それと前後した頃、女子高校生が腎盂腎炎で入院してきた。すぐに熱は下がった。男友達と遊んだのが原因のようで、悪びれずに若い主治医に甘えたように話していた。私は、二人を見て、自分の2歳と0歳の娘のことを思った。やはり、無軌道であっても、男と遊んで腎盂腎炎で入院するほうになってほしいと思った。乳癌という病気になる、ならないということではなく、娘たちには、さまざまなことを経験してほしいと思ったのである。 

 日本の特殊出生率が、1.29だと聞いたのは、今年だったか?私には二人の娘がいるが、3人以上産まないと人口は増えない。このままでは、人口が減少する。私の周りにも独身の女性が多い。彼女たちは、はつらつとして働いているように見える。しかし、子供をもって働いている女性ほどには私は魅力を感じない。人一倍妙な想像をしがちな私は、一人暮らしの女性の遅く帰ったアパートの「侘しさ」や、親と住んでいる独身女性の心の「荒涼」をついつい想像してしまう。勿論、男性にも同様であるが、母と祖母に育てられた私は、女性のほうについ想像がひろがってしまうのは仕方ない。 

 子供を産んだ女性を、私は心から応援したい。子供は社会で育てたい。もっと、人々がシングルマザーを認知し支援する心の連帯を築くべきだと思う。 

 あの女子高校生の子供は元気に育っているだろうか?