[1578] 『ゼロからの資本論』ー6

人間の労働は何が特殊か
 次に地球上の生き物も自然との物質代謝を行なっているが、「けれども、人間とほかの生き物との間には決定的な違いがある、とマルクスは言います。それは、人間だけが、明確な目的を持った、意識的な『労働』を介して自然との物質代謝を行なっているという違いです。」と斎藤は言います。
 斎藤はこれを「人間は単に本能に従って、自然とかかわっているのではありません。本能的な欲求を満たすための工夫はほかの動物でも行います。」と説明します。自然とのかかわりあいが本能的かどうかということが人間と動物の違いだということです。人間だけが本能的な欲求を満たす以外の目的のために自然に働きかけることができる。確かに斎藤は間違っているわけではありませんが、マルクスは人間の自然への働きかけの独自性を本能的な目的にもとづいているか否かという意味で述べてはいません。
 マルクスは『資本論』第五章第一節「労働過程」で次のように言います。
 「蜘蛛は織匠のそれに似た作業をなし、蜜蜂はその蝋房の構造によって、多くの人間の建築師を顔色なからしめる。しかし、最悪の建築師でも、もとより最良の密蜂にまさるわけは、建築師が密房を蝋で築く前に、すでに頭の中にそれを築いているということである。労働過程の終わりには、その初めに労働者の表象にあり、したがってすでに観念的には存在していた結果が、出てくるのである。彼は自然的なものの形態変化のみを引起すのではない。彼は自然的なもののうちに、同時に、彼の目的を実現するのである。彼が知っており、法則として彼の行動の仕方を規定し、彼がその意志を従属させなければならない目的を、実現するのである。」(岩波文庫 向坂逸郎マルクス資本論』(二)10頁)
 労働者が労働対象を加工=変革する際に、労働対象に自身の労働力とともに意識のなかに形成された目的を対象化するということです。これが動物の「労働」と人間労働の決定的な違いです。
 斎藤が言うように、人間は確かに「よりきれいな服を作る」という目的のために、染料で服を染めたりします。あるいは土器なら、食事をするための器があれば事足りそうですが、催事や芸術など本能的な欲求を満たす以外の目的のために人形を作ったりしてきました。「人間だけがほかの生き物よりもはるかに多様でダイナミックな〝自然への働きかけ〟ができるのです。」人間は食べるためだけではなく、自然への働きかけにおいて意識の中に生じる喜怒哀楽を絵や音楽、言葉などで表現します。しかしそれは実践に多様性があるということであって、人間労働そのものにおける目的意識性という問題とは次元が違います。
 人間労働の独自性に関する把握の位相のズレがこれ以降の理論展開にどのように影響するかここではまだわかりません。

つづく

[1577]『ゼロからの資本論』ーその5

「物質代謝」としての労働

 斎藤の文章に入る前に確認しておきます。
 マルクスは『資本論』「第三篇絶対的剰余価値の生産 第五章 労働過程と価値増殖過程 第一節 労働過程」で「使用価値または財の生産は、それが資本家のために資本家の統制のもとで行われることによっては、その一般的本性を変じはしない。だから労働過程は、さしあたり、どの規定された社会的形態にも係わりなくなく考察されるべきである。」(青木書店版『資本論』1 329頁)
 

 私たちは資本主義社会では資本家・経営者に雇用され生産過程で協同労働をしています。労働者は他の労働者と労働関係をとりむすびつつ労働対象への働きかけを行っています。労働について考える場合に私たちは複数の労働者による統合体の労働対象への働きかけと労働者間の相互の働きかけを一挙に同時に論じることはできません。だから労働することを理論的に考えるためには協同労働から人間と自然の関係を抽象することが必要です。

 また資本制的労働はものを生産するだけではなくサービスをも生産します。労働対象の違いによって労働の種類も様々であり、質も違います。これらはそれぞれ分けて論じなければなりません。したがって労働という行為を考えるためには論じる対象を論理的に限定して論じなければなりません。

「『労働』という行為」とは資本制生産の資本制という規定性を捨象し人間の対象的自然への働きかけという関係に論理的に限定して考えなければなりません。つまり「労働一般」について考えていくということです。
 以上のことを踏まえて斎藤の意見を考えます。

「人間は、他の生き物と同様に、絶えず自然に働きかけ、様々な物を生み出しながら、この地球上で生を営んできました。家、洋服、食べ物を得るために、人間は積極的に自然に働きかけ、その姿を変容し、みずからの欲求を満たしていきます。こうした自然と人間との相互作用を、マルクスは生理学の用語を用いて、『自然と人間との物質代謝』と呼びました。」

 マルクスは元来、化学・生理学の用語である物質代謝という考え方を『資本論』に取りいれ〈人間と自然との関係性〉を分析したと斎藤は言います。そして次のように言います。
マルクスが、『資本論』に託したメッセージの核心に迫るうえで、この概念はとても重要です。本書は、物質代謝論を土台として、『資本論』を読み進めていくと言っても過言ではありません。それは、私がマルクスにならって、労働という行為を重視しているからです。
 というのも、人間が自然との物質代謝を規制し制御する行為が『労働』なのです。例えば、『資本論』第1巻の第5章第一節『労働過程』で、マルクスは次のように『労働』を規定しています。

「労働は、まずもって、人間と自然のあいだの一過程、すなわち、人間が自然との物質代謝を自らの行為によって媒介し、規制し、制御する一過程である。」

 斎藤は上の『資本論』の引用を受けて次のように言います。
「『労働』といえば労働者の搾取の話だ、などと思っていると、こういった箇所を見逃してしまうかもしれません。でも、搾取はまだ先の話。ここでマルクスは、もっと一般的な話をしていて、労働と物質代謝が切り離せないことを指摘しています。
 実際、都市で暮らしていると忘れてしまいがちですが、インスタントラーメンもパソコンも、自然に働きかけることなしに作ることはできません。自然との物質代謝は人間の生活にとって『永遠の自然的条件』だと、マルクスは述べています。」
 
 マルクスは「労働過程は、使用価値を作り出すための目的に合致した活動であり、人間の欲望のための自然的なものの取得であり、人間と自然との物質代謝の一般的条件であり、人間生活の永久の自然的条件」(向坂逸郎岩波文庫版(二)19頁)であると書いています。
 斎藤の展開では「物質代謝」を主語として「自然との物質代謝は人間の生活にとって『永遠の自然的条件』だとマルクスは述べているとまとめられています。マルクスは「労働過程」を主語にして「労働過程は……人間と自然との物質代謝の一般的条件であり、人間生活の永久の(永遠の)自然条件」であると言っています。
 斎藤は物質代謝を労働過程との関係において論じており、マルクスは労働過程を物質代謝との関係において論じている。このちがいが後の展開にどのように影響するかいまはわかりません。
 労働過程は人間と自然との物質代謝の一般的条件だと言うマルクスの展開にふまえるならば、労働過程は自然と人間との物質代謝の社会的形態と言っていいでしょう。

 斎藤は「……自然との物質代謝は人間の生活にとって『永遠の自然的条件』だと、マルクスは述べています。」につづけて言います。「つまり、どれほど技術が発展したとしても、私たちはけっして、自然との物質代謝を離れて生きることができず、その限りで労働もなくならない、ということです。」
 この一文はわかり難いです。
 ここで使われている「技術」という概念は労働過程において労働手段となるものをさしているのでしょう、物理学者武谷三男は『技術論』のなかで「技術とは生産的実践における客観的法則性の意識的適用である」と述べました。技術は、実践概念であり、労働過程においてその諸契機(労働者・労働手段・労働対象)となるものの交互作用のうちに現象するものです。確かに労働手段は自然物をそのまま労働手段として利用する場合をのぞいて、生産的実践の産物であり、技術の一つの現象形態ですが、技術という概念を労働手段となるものに実在化するのは誤りです。
 斎藤がここで言いたいことは、労働手段がどれほど技術化(たとえばAI化)されても、自然との物質代謝として意義をもつ労働過程は人間生活の永遠の自然的条件であるということでしょう。
「その限りで労働もなくならない、ということです。」というフレーズは少しわかり難いのですが、AIが改良されて労働過程が自動化されていくとAIが人間の労働の代わりをするように見えるという仮象がうみだされます。斎藤は究極的なAIは人間労働にとってかわると思っているのでしょうか。

つづく

[1576]佐藤優のイスラエルの攻撃についての態度

雑誌『プレジデント』のWEB記事に次のような見出の対談が載っていたので読みました。

佐藤優が"筆を断つ覚悟"で断言「ガザの病院を隠れ蓑にハマスがテロ行為を行っている蓋然性は極めて高い」

 

 佐藤優は、病院の地下にハマスの司令部があったのだとして、国際法違反だと言います。佐藤は地下司令部があればイスラエル軍の攻撃も仕方のないことだという意見のように受けとらざるをえません。。

 これまで佐藤優の文は時流に流されない好評論だと思っていました。ガザの戦争についてはイスラエルの病院攻撃を免罪するような感じがします。

 今ガザ攻撃を無差別的に行っているイスラエルに思想的に一定の共感を持っているのであれば明確にすべきではないかと思います。

 自分のイスラエルについての考えを隠さず明らかにすべきでしょう。

 

 

プレジデントオンラインより

 

 ※本稿は、手嶋龍一・佐藤優イスラエル戦争の嘘 第三次世界大戦を回避せよ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

 

■アル・シファ病院の地下に司令部はあるのか  

【手嶋】市街地に作戦用の地下トンネルがあるのか。しかし、それだけが問題ではありません。病院など医療施設の地下にも軍の施設があるのか。なかでも、ガザ地区で最も大きな病院、アル・シファ病院の地下にハマスの司令部があり、武器も隠されているのか。イスラエル軍がこの病院を包囲するなかで、国際社会の耳目を集めることになりました。  【佐藤】戦時国際法は、負傷者や病人を治療する病院への攻撃を禁じています。ただ、同時に防御陣が病院を盾に使うことも禁じていますね。国際法は、赤十字を掲げながら、その背後で軍事行動をしたり、休戦旗を掲げながら攻撃を仕掛けたりして、相手を欺く行為を認めていません。武装組織ハマスがアル・シファ病院の地下に司令部を置いていた場合は背信行為となります。この場合は、病院は軍事拠点に使われているのですから、理論上は攻撃対象となり得ます。  

【手嶋】それが事実なら、ハマスイスラエルの攻撃を避けるため、一般市民を盾にしていることになります。いずれに大義があるのか。実際の戦争では、正邪を判断することは容易ではありません。ハマスは病院を軍事作戦に使っている事実はないといい、イスラエルは病院の地下に軍事施設があると主張し、鋭く対立しました。

 

■“インテリジェンス大国”も間違えることはある  

【佐藤】この期に及んでイスラエル政府が軍事作戦を遂行したのは、「病院の地下に軍事施設あり」という事実にかなり確信があったと私は考えています。国際社会が注視するなか、明らかに間違っていたとなれば、国家の威信が大きく揺らいでしまう。私自身は病院を隠れ蓑にしてハマスがテロ行為を行っているという蓋然(がいぜん)性は極めて高いと考えています。  

【手嶋】とはいえ、イスラエルのような“インテリジェンス大国”も間違えることはあり得ます。とりわけ、情報機関がノーマークで不意打ちを食らった時には、対敵情報は、どうしても過大に評価されます。私はワシントンの政治統帥部が重大な誤りを犯した事例を目の当たりにしています。ですから一層そう思います。イラク戦争の開戦にあたって、ジョージ・W・ブッシュ大統領はサダム・フセイン率いるイラクが生物・化学兵器など大量破壊兵器を製造・貯蔵しているという確かなインテリジェンスを得たとして、2003年に開戦に踏み切った現場に居合わせました。実際はどんなに血眼になって探しても、大量破壊兵器は見つかりませんでした。

 

■強権的な国家の指導者は意外と嘘をつかない  

【佐藤】確かにそうでしたね。でも、国家の指導者は、それも強権的な国家の指導者は、意外にもあまり嘘をつかないんですよ。シカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーという国際政治学者が面白い実証研究を発表しています。  

【手嶋】ミアシャイマーは、ロシアによるウクライナへの侵攻を招いてしまった責任は、いたずらにNATOの東方拡大を急いだ欧米にも責任がある――と指摘して論争を巻き起こした安全保障の専門家ですね。  

【佐藤】そのミアシャイマーによれば、国家指導者は他国に対しては嘘をつかないというんです。国家指導者が他国に嘘をついてしまうと、当然、周囲の国の不信感を招きます。とくに安全保障に絡んだ嘘は、結果として国益を損なうことにつながるというんです。  

【手嶋】ミアシャイマーの実証的な研究は、一般的な常識とは異なる意外なものですね。  

【佐藤】一方で、民主的な指導者は、自国民との間に信頼関係があるため、自国民に嘘をつきやすい。損なうものよりも、嘘をついて得になるものが多いからだというのです。もっとも、ネタニヤフ首相が国際社会に「地下にハマスの軍事施設あり」と発信したのは嘘をついたのではなく、かなりの確信があってのことだと考えます。  

【手嶋】しかし、ハマスが実効支配する市街地の地下には網の目のようにトンネルが張り巡らされているのは事実にしても、果たして病院が軍事作戦の隠れ蓑として意図的に使われたのか、真相は依然として深い霧のなかだと思います。

 

■専門家には自らの立場を鮮明にしなければならない時がある  

【佐藤】確かにイスラエルには挙証責任があります。  

【手嶋】繰り返しですが、イラク戦争を戦ったブッシュ大統領は「サダム・フセインイラク大量破壊兵器を隠している」とアメリカ国民ばかりか、諸外国にも伝えて、イギリスとスペインを誘ってイラクへの攻撃に踏み切りました。しかし、生物・化学兵器は遂に見つからなかった。このため、スペインは翌年首都マドリッドで列車爆破のテロに見舞われ、アスナール政権は総選挙に敗れてしまいます。イギリスのブレア首相も「名分なき戦争」に与したと英国民の怒りを買い、退陣を余儀なくされました。ガザの地下トンネルに関しては、佐藤さんは一貫してイスラエルの主張は信憑性が高いと認めてきました。まさしく旗幟(きし)鮮明です。インテリジェンスの専門家として、時に自らの立場を鮮明にしなければならない時があると述べていますが、まさに今回がそうですね。

【佐藤】その通りです。事実の報道、分析、そして論評を生業にする者は、眼前の出来事を扱うに際して、まずは客観的な事実をしっかりと押さえ、それらの事実に立脚して如何に認識し、そのうえでどう評価するか。三つのステップを一つひとつ踏んでいく必要があります。確かに、アル・シファ病院の地下に軍事施設があるか否か。双方の意見が真っ向から対立しています。

 

佐藤優「病院内にハマスの軍事施設がある蓋然性は極めて高い」  

【手嶋】こういうケースでは、地下施設はあるかもしれないし、ないかもしれないと両論併記でお茶を濁すメディアがあります。しかし、これは決して「客観報道」などではない。公正さを装ってリスクをひたすら回避しているにすぎません。  

【佐藤】まずは「両論併記」で逃げ、事実が明らかになった段階で、「じつはそう考えていたんです」と穴倉から顔を出す。これでは後出しジャンケンです。情報の分析家としては失格です。私自身は手に入る限りの事実を検証し、イスラエル側の発表や動き、テロ組織としてのハマスの動向を勘案し、その末に、やはりイスラエルの主張の通り、病院内にハマスの軍事施設がある蓋然性が極めて高いと判断したのです。それが司令部であるかどうかは本質的な問題ではありません。  

【手嶋】そこまでなら、同じ主張をする論者はいるかもしれません。でも、佐藤さんはさらに一歩踏み出しました。  【佐藤】ええ、もしアル・シファ病院の地下に軍事施設が何もなく、武器も出てこなかったなら、私は情報を扱う者として、以後は少なくともパレスチナ問題に関しては発言権を失うという覚悟で臨んでいます。  

【手嶋】パレスチナ問題に関しては筆を断つというのですね。  

【佐藤】ええ、そう申し上げています。

 

■少なくとも病院施設には隠れた部屋やトイレがある  

【手嶋】インテリジェンスの専門家として、佐藤さんの非常な覚悟が伝わってきました。承っておきます。イスラエル軍は遂にアル・シファ病院に突入しました。病院内からは、ハマスのものとみられるライフルや拳銃、手りゅう弾、防弾チョッキなどを複数発見したとイスラエル側は発表しました。11月15日のことです。さらに23日には、イスラエル国防軍(IDF)の主張によると、アル・シファ病院脇の施設跡から、地下施設が発見されたとして、その動画が公開されました。

【佐藤】アル・シファ病院を俯瞰するシーンから始まり、地下施設の入り口へとアップになり、そこから先へと進む動画になっています。

【手嶋】果たしてこれが軍事施設かどうかは判別しにくいのですが、少なくとも病院施設には見えない複数の部屋やトイレがありました。

【佐藤】人が一人通れるくらいのコンクリートで固められた通路が縦横に走っている様子が映像からわかります。

【手嶋】ハマスは強く否定していますが、イスラエル側はアル・シファ病院がハマスにとって何らかの拠点となっていた証拠だと主張しています。イスラエル側の偽装工作の可能性も若干残っていますので、さらなる証拠の検証が必要です。

【佐藤】イスラエルの言う司令部であったかどうかは別にして、地下施設とトンネルは見つかったわけです。またあの病院の中から銃を撃ってきたのも事実です。

以上。

 佐藤は病院の地下にハマスの司令部があったかどうかは別にして、中から銃をうってきたのは事実だとしています。その事実を自分がどう思うのかについてのコメントはありません。

 私はたとえハマスの拠点があったとしても患者もろとも破壊する攻撃はだめだと思います。国際法に違反しているから攻撃していいというのは攻撃を免罪するための理屈に過ぎないと思います。

 

 

[1575]岸田首相10日訪米、武器共同開発議題に

 

 武器生産の規制撤廃のペースが速いです。裏金国会ではこの問題は何の波風も立てられることもなく、武器の日米共同開発・生産の合意がなされようとしています。つい先日英豪と共同開発した戦闘機の輸出が閣議決定されたばかりです。

 

日米、防衛装備品で協議体 共同開発、首脳間合意へ 2024年4月4日 20時50分 (共同通信

 日米両政府は、防衛装備品の共同開発や生産に向けた協議体を新設する方針を固めた。岸田文雄首相とバイデン大統領が10日の首脳会談で合意する見通し。5月末にも外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開催し、装備品の対象など具体的な協議に入る予定だ。複数の日米外交筋が4日明らかにした。 日米の安保協力を防衛産業分野でも強化し、軍事力増強で影響力を拡大する中国に対抗する狙いがある。 首脳会談では、日米が「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を維持・強化するパートナーだと確認し、防衛協力の深化を申し合わせる方向。                 

 林芳正官房長官は4日の記者会見で「防衛装備品の共同開発などにおける日米の連携強化は非常に重要な論点だ」と述べた。 キャンベル米国務副長官は3日、ワシントンのシンクタンクでのイベントで講演し、首相の訪米が日米同盟の深化へ歴史的な機会になると指摘。「両国関係が根本的に新しい段階に入り、双方に新たな能力と責任をもたらすことになる」と強調した。

以上

反対運動が放置していてはどんどん進められてしまいます。

[1574]『ゼロからの資本論』ーその4

 

第1章「商品」に振り回される私たち

南の島の漁師の小噺

 冒頭で「都会であくせく働く人と南の島の漁師の小噺」を紹介して斎藤は次のようにいう。
「私たちはいったい何のために、毎日つらい思いをしてこんなにたくさん働いているのでしょうか。」
「もちろん、今の仕事が大好きで、待遇や労働条件に満足している人もいるでしょう。そんなあなたはとてもラッキーです。だって、少し周りを見渡せば、仕事に不満や苦痛を感じている人を見つけるのは簡単なはず。パートの配偶者や非正規雇用の同僚にも、そんな人たちがいるかもしれません。」

 斎藤は本文のはじめに労働する諸個人を対象にして日常の仕事にかんする体験的事実について語り、読者のなかに『資本論』に向かう必然性を呼び起こそうとしているのでしょう。仕事に不満や苦痛を感じている人がいることの背景に「階級」対立の問題を見るが、ここでは本書の展開に通底するであろう資本主義の問題性への伏線的問題提起として措くにとどめています。
 斎藤はオルガナイザーとして意識的に読者に働きかけていると思います。

「とはいえ、いきなり階級の違いを強調するよりも、まずは私たちの間の大きな共通点に注目していきましょう。漁師も、サラリーマンも、みんな生きるために働いているわけです。」

 

 マルクスも『クーゲルマンへの手紙』や『ドイツイデオロギー』で次のように言います。
「一年と言わず、数週間でも、労働が停止されたなら、いかなる国民もみんな死んでしまうだろうことは、どんな子供もよく知っている」(『クーゲルマンへの手紙』)「たえざる感性的な労働と創造、この生産こそが、まったく現に存在しているような全感性的世界の基礎である」(『ドイツイデオロギー』)

 私もそう思います。労働によって生活手段や生産手段を生産するというのは、どんな社会であっても生活の基礎です。
 私たちの現在の生活と人間の歴史と史的唯物論の論理的出発点は人間生活の物質的生産にあります。それは人間労働によって実現されます。いま資本主義社会の中でも私たち労働者は生きるためには労働力を資本家に売って資本家の監視のもとでものやサービスを生産しなければなりません。農漁業者も働いて作物をつくったり魚を獲ったりしなければなりません。生産物は基本的にすべて商品化され流通過程で売買され消費者によって消費されます。

 斎藤は「そこでまずは、私たちが毎日行っている『労働』という行為について考えることを通じて、徐々に資本主義に迫っていきましょう。」と呼びかけています。

つづく

[1573]『ゼロからの資本論』についてーその3

 斎藤の問題提起に戻ります。
斎藤は「資本主義を真正面から批判し、資本主義を乗り越えようと主張する人は、日本には相変わらずほとんどいません。なぜでしょうか?」と問いました。

彼はこの設問を考えるきっかけとしてソ連の「社会主義」についてのある有名なジョークを引用しています。

「ある男が、東ドイツからシベリア送りとなりました。彼は、検閲官が自分の手紙を読むことを知っていました。だから、友人にこう言ったのです。『暗号を決めておこう。もし、俺の手紙が青いインクで書かれていたら、手紙の内容は真実だ。だが、もし赤いインクで書かれていたら、それは嘘だ』。1か月後、彼の友人が手紙を受け取ると、すべてが青いインクで書かれていました。そこには、こう書かれていたのです。『ここでの暮らしは大変すばらしい。美味しい食べ物もたくさんある。映画館では西側の面白い映画をやっている。住まいは広々して豪華だ。ここで買えないものと言ったら、赤インクだけだ』」。

 斎藤はこのジョークはソ連の「社会主義」についてのものだが資本主義での暮らしにそのまま当てはまるでしょうと言い、「今私たちが享受している『自由』や『豊かさ』がこの青いインクで書かれた手紙の世界にほかなりません」と言う。「ウーバーイーツで美味しいものを注文したり、ネットフリックスで好きな映画を見たり、ルンバの自動掃除機を買うこともできる。そんな世界では、私たちの望む自由がすべて実現されているように見えるかもしれない」が、そのように見えるのは、この社会の不自由を描くための赤いインクがないからではないか」と言うのです。実際には、給料も安く、仕事もつまらない、気候危機は悪化し、世界経済の先行きも不安、日本では円安、人口減少などでこれからも資本主義が続くと言われても、未来に希望をもてる人はどんどん減っている。にもかかわらず「資本主義のもとでの経済成長や技術革新が明るい未来をもたらすと信じて、歯を食いしばって働き続けなければいけないとしたら、世界を批判的に描く赤いインクがないからなのではないかと言うのです。
 斎藤はつぎのように言います。
「今、私たちに必要なのは、赤いインクです。そして、私たちが一度は捨ててしまった『資本論』こそが、赤いインクなのです。なぜか?それは、『資本論』を読むことで私たちはこの社会の不自由を的確に表現できるようになるからです。さらにそれは、失われた自由を回復するための第一歩になるでしょう。」
 斎藤幸平は確信に満ちています。『資本論』は難解なので自分の書いたこの本を、“ゼロから〟の入門書として役立ててほしいと読者に呼びかけています。その際、「『資本論』をまったく新しい視点で――”ゼロから〟読み直し、マルクスの思想を21世紀に活かす道を、一緒に考えていきます。そうすることで、資本主義ではない別の社会を想像する力を取り戻すことができるようになるはずです」と宣言しています。
 意気込みが伝わってきます。これはすごい若者があらわれたと私は思います。
社会主義」がこれまでうまくいかなかったことは一旦おいて、マルクスを新しい視点で読み直すという筆者の展開をたどってみます。 

つづく

[1572](寄稿)医療あれこれ(その105)ー2トリチウムについて

ペンギンドクターより

その2

 坪倉先生の放射線教室では、その5がトリチウムについて言及がないので、一回飛ばしてその6をお送りします。

坪倉先生の放射線教室(6)
この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。https://www.minyu-net.com/
福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授坪倉正治

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。
●水や食品にもトリチウム(2023年06月03日配信)
 私たちの周りには、さまざまな種類の自然界の放射線が存在し、そこから日常的に私たちはある程度の放射線を浴びています。日本で自然から受ける放射線のうち、最も多くの半分弱を占めるのが、食品中に含まれる放射性物質によるものです。
 食品からの放射線は、自然界に存在するさまざまな放射性物質が影響していました。代表的なものが魚介類に含まれるポロニウムで、その次に多いのはほとんど全ての食品に含まれている放射性カリウムによるものでした。この二つで、食品からの放射線量のおおよそ90%を占めています。その残りの1割以下の部分は、ほかのさまざまな天然と人工の放射性物質によります。
 その中にトリチウムも含まれます。トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でした。トリチウムによる健康影響は、身体の外から放射線を浴びる外部被ばくは問題とならず、あったとしても内部被ばくです。
 トリチウムもわれわれの生活の中で水や食品などに含まれ、それによる放射線量はゼロではありません。しかし、トリチウムを口から取り込んだ際の身体への影響はとても小さく、私たちの食品からの放射線量全体の10万分の1にもならないことが知られています。

●空気中に含まれるラドン(2023年06月10日配信)
 私たちの周りには、さまざまな種類の放射性物質が存在します。これまでもいろいろな名前が登場しました。原発事故に伴って放出され、食品の検査や除染などで主に対象となる「セシウム」、水素の仲間で出す放射線が非常に弱い「トリチウム」、私たちの身体やほとんどの食品に含まれる放射性「カリウム」、魚介類に多く含まれる「ポロニウム」など、たくさんカタカナが並びます。
 空気中に含まれる放射性物質として、重要なのが「ラドン」でした。なぜなら、私たちが天然から受ける放射線の「量」の多くの部分を、このラドンとその周辺の放射性物質が占めるからです。日本だと天然の放射線全体の約4分の1を、世界平均では約半分を占めます。
ラドン温泉」という言葉が示すように、温泉地に多い傾向にあります。水にもある程度溶けており、井戸水などの地下水に比較的多い傾向にあります。
 このラドンは、一般的に花こう岩が地下に多い地域では、地下水に高めの濃度で含まれていることが知られています。これは、花こう岩に含まれるウラン鉱物からラドンが出て、地下水に溶け込むためです。ちなみに、阿武隈山地は国内で花こう岩が多く含まれる地域の一つです。

●事故要因、井戸汚染なし(2023年06月17日配信)
 私たちの周りには、さまざまな種類の放射性物質が存在します。これまでもいろいろな名前が登場しました。空気中に含まれる放射性物質として、重要なのが「ラドン」でした。なぜなら、私たちが天然から受ける放射線の「量」の多くの部分を、このラドンとその周辺の放射性物質が占めるからです。
 このラドンは、花こう岩が地下に多い地域では、地下水に高めの濃度で含まれています。花こう岩に含まれるウラン鉱物からラドンが出て、井戸水などの地下水に溶け込むためです。
 阿武隈山地は、国内で花こう岩が多く含まれる地域の一つでした。そのため阿武隈山地の井戸水を調べると、場所にもよりますが、ラドンが検出されます。「ラドン温泉」などの温泉水にも含まれます。水に溶けているため、煮沸をするとラドンは数十分の1に減ります。
 その一方、今回の原発事故に伴い、2011年から井戸水のモニタリングは継続して行われています。これまでの調査で、井戸水から放射性セシウムや放射性ヨウ素といった放射性物質は、浜通り中通り会津、どこでも一度も検出されていません。地下水なので、そこに放射性物質が到達しないのです。井戸水の汚染はありません。

●原子炉の形で違う発生量(2023年06月24日配信)
 先日、他国の原発からトリチウムが放出されたというニュースが報道されました。中国が国内で運用する複数の原発が、今夏にも始まる福島第1原発の「処理水」の海洋放出の年間予定量と比べ、最大で約6・5倍の放射性物質トリチウムを放出しているというものです。
 トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間で、核実験や原子力施設で作られる放射性物質です。原子炉の中では電気をつくる反応を起こす途中に、さまざまな過程でトリチウムができるのでした。そして、原発でできたトリチウムは基準値を確認し、これまでも主に海へ放出されていました。そのため、初めてトリチウムが放出されたかのように表現するのは正しくありません。
 また、原子炉の形は、世界中でいくつかの種類があり、原子炉の形によって、トリチウムの発生量が異なります。放出されるトリチウムの量が原子炉の形によって、数十倍から数百倍異なることが知られています。
 特にトリチウムの放出量が多いのが、使用済み核燃料再処理施設です。フランスの再処理施設では、毎年、事故前の福島第1原発から毎年放出されていたトリチウムの、合計で数千倍のトリチウムが液体や気体の形で放出されていたことが知られています。
 トリチウムの放出に関して、他が放出しているから、何も問題ないかのような主張はよろしくないと個人的には思いますが、実際にこれまでもいろいろな原子力施設から安全を確認後に放出されてきたことも事実です。

 

 ご覧になる環境により、文字化けを起こすことがあります。その際はホームページ(http://medg.jp)より原稿をご覧いただけます。 

◆◇お知らせ◆◇◆◇◆◇MRICの英語版として、MRIC Globalを立ち上げました。MRICと同様に、医療を超えて、世界の様々な問題を取り上げて参りたいと思います。配信をご希望の方は、以下のリンクからメールアドレスをご登録ください。https://www.mricg.info/
◆ご投稿をお待ちしています◆◇◆◇◆◇投稿規定はこちらからhttp://expres.umin.jp/mric/mric_hennsyuu_20211101.pdf 登録情報の変更はこちらからメール配信停止はこちらからMRIC by 医療ガバナンス学会編集長 上 昌広