[795](寄稿)防疫ばかりに重きを置く偏ったコロナ政策が医療を苦しめている

ペンギンドクターより
その2

(和田医師の主張。MRICより)

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防疫ばかりに重きを置く偏ったコロナ政策が医療を苦しめている

わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2022年2月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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1.濃厚接触者の待機期間で迷走する行政

濃厚接触者の待機期間、科学的な根拠とは無関係に政治的な判断だけで、猫の目のようにころころと据かえられている。新たな通達内容をやっと読み込んで、今日患者さんに説明したことが、もうその夜には変わっている。我々医療現場の人間でさえ覚え込むのに一苦労なのに、もう一般市民はわけがわからなくて当然だ。そうなると、もう誰もきちんと基準を守る人はいなくなるだろう。

防疫のために設定された濃厚接触者などという概念自体をやめてしまえば済むものを、法律(感染症法)を変えないがために解釈をどんどん好き勝手に変更していって、匙加減一つでいいように適当にさばいているのが現状だ。学校や保育園でのオミクロン株の感染の拡大に伴って、濃厚接触者となった大人たちが自宅待機を強いられて、社会活動が停滞し始めている。このような社会情勢を鑑みて運用を修正していかざるを得ないわけが、これまで何も準備をしてこなかったことの付けが今回ってきている。

厚労省は、感染者の家族の自宅待機期間を7日間に短縮するとして、都道府県に通達を出した(*)。一次感染者の発症日から起算して7日間ということになると、感染者の隔離期間が(最短で)7日間で濃厚接触者も同じ7日間ということになり、「みんな一緒に同じ期間だけ休みましょう」というようないかにも都合だけで決められた感じの決定内容だ。

これに先立ち、厚労省は頻回に通達を出して濃厚接触者の待機期間を従来の14日間から、10日間、7日間へとなし崩し的に短縮してきた。細かく通達内容を見てみると、濃厚接触者の待機期間は、原則は今でも最終暴露から10日間なのだが(**)、感染急拡大地域に限って最終暴露から7日間としており(***)、そして今回さらに家族濃厚接触者限定で、感染者の発症日(もしくは最終暴露のいずれか遅い方)から起算して7日間と微妙な変更を加えたのである。すなわち感染状況によって濃厚接触者の待機期間が3通りも存在するというトリプルスタンダードになっているのだ。

特に家族濃厚接触者だけを特別扱いするというのはほんとうに奇妙な基準で、同じウイルスなのに家族濃厚接触者とそれ以外の濃厚接触者の待機期間が違うということはあり得ないことであり、科学に裏打ちされた基準決定では到底ないことがわかる。今や全く信用を失った分科会を切り捨てて、政治家だけの政治的な判断だけで押し切っているように見える。このような規制を設ける本来の目的がコロナ感染拡大の抑制であるのだから、科学的な根拠に基づいて基準が作られるべきであり、理想とは程遠いところで迷走し続けている。政府内に適切な助言ができるエキスパートがいないことが致命的だ。

2.医療を圧迫している元凶が防疫に著しく偏ったコロナ政策であることに気付いていない

同じコロナウイルスを相手にしていながら、医療と防疫とでは月とすっぽんほど全く異なる視点でウイルスに対処する。まず対象としている相手は医療では一人の人間であって複数の人間をまとめ治療することなど決してないが、防疫は社会全体を対象としている。コロナ対策の柱であるワクチン、検査、治療薬にしても医療と防疫では全く違った見方をする。

防疫では多くの人にワクチンを打たすことに視点を置くが、医療ではその個人がメリットがあるかどうかの視点で考える。防疫では社会全体の感染率を導き出すために検査をするが、医療ではその個人が感染しているかどうかを調べるために検査をする。医療では当然その個人の病気を治すために治療薬を投与するが、防疫では多くの人が治療することで社会全体の感染拡大抑制に役立つかどうかの視点で治療薬をみる。医療ではその個人の治療のために患者さんを入院させ、病気がよくなれば退院させるが、防疫では感染者を隔離するために感染者を入院させて、その人がほかの人に病気を移さなくなったどうかで退院を決める。すべての人に共通する入院基準とか退院基準などというものは医療の世界ではありえないのだ。このように考えていくとき、今の日本がどちらの視点でコロナを見ているかは明白だろう。

大阪府知事のH氏は、最近のコメントの中で、「検査を増やして多くの人がコロナ検査を受けることにどれだけの意味があるのか、一定の人たちの検査をすればそれで感染状況はわかるだろう」とコメントされていた。彼の検査に対する考え方が防疫の視点だけのもので医療の側からの視点がまったく欠落していることがわかるだろう。医療サイドから見た検査の必要性は対象となる人の診断のためであって、我々が求めているものは「検査が必要な人が検査できる体制を整備すること」なのである。

実はコロナ検査の目的は2つではなくて3つの側面があり、その一つはH氏の示唆したような感染状況の把握のために街中のスポット検査で実施されるモニターリング検査、そして老人福祉施設などで実施されている感染防止のためのスクリーニング検査であり、二つ目が医療における診断のための検査、そして最後にもう一つ、社会を動かすための陰性証明を得るための無症状者に対する検査がある。これは医学的に見れば陰性であることの証明などはできるわけがないナンセンスな検査であり、防疫の観点からも全く必要のないものである。それでも免疫パスポートとして社会を動かしていくきっかけとなるならば、あってもいい使い方である。

岸田総理が肝いりで始めた無料PCR検査は大いに期待されたのだが、結局は無症状者限定で症状のある人は受けられず、さらには症状のない濃厚接触者まで排除していて、医療にも防疫にも役立たない第三の検査利用法と化しているが、今足りていないのは医療に向けての診断のための検査であることを理解していない。市民は感染率を調べるためにボランティアで検査を受けているのではなくて、自分が罹患しているかどうかを調べたくて検査を受けているのである。

3.行き詰ったコロナ禍の事態を改善するための提言

濃厚接触者だとか、入院基準・退院基準だとか、感染率だとか、重症病床使用率でさえ、医療とは全く無関係の防疫の指標の話なのだ。仮に今、防疫のために実施しているすべての施策をすべてやめてしまったとしたら、その後に残るもの何だろうか。それは当然医療である。医療を行うためにがんじ搦めに縛られた様々な拘束から解き放たれた本来の医療である。必要な検査を必要な時に実施して、入院適応は個々の患者さんの病態によって決め、有効と思われる治療は縛られことなく実施して、病態が改善すれば速やかに退院していただく。診療所と病院とは医療連携で密に連絡を取り合いながら患者さんの受け渡しをしていく。それらの医療行為に保健所が直接介入する必要性もなく、医療行為の良し悪しは医師と患者さんの話し合いと合意によって決められる。

それはコロナ以外の診療で現在我々が実施していることそのものなのである。それを拒んでいるものは、医師会でも民間病院でもなく、防疫に特化したコロナ行政と数々の規制である。そもそも防疫は未知の新興感染症の侵入とまん延を防ぐために行われるものであり、コロナがすでに日本中で市中感染を起こしていることが明らかになった2年前にその役割を終えるべきものだった。今からでも遅くはない。第6波が収束したら直ちに行うべきことは、防疫に関わる人には退陣していただいて、根詰まりの原因となっている法律の整備に取り掛かることである。おかしなことにいつの間にか防疫の目的が医療の逼迫を回避することに置き代わっているのだが、皮肉なことにその防疫偏重のコロナ政策を続けていることがかえって医療を苦しめているのだ。

付記:このウイルスの感染はもはや人為的に操作できるものではないことを世界は認め始めている。日本の対応は周回遅れで、実施していることすべてが常に1年ぐらい遅れていることに気付いてほしい。

(*)事 務 連 絡 令 和 4 年 1 月 5 日 令 和 4 年 2 月 2 日 一 部 改

新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応に ついて

濃厚接触者である同居家族等の待機期間について(抜粋)
上記の検査陽性者の濃厚接触者であって、 当該検査陽性者と生活を共にする 家族や同居者の待機期間は、
・当該検査陽性者の発症日(当該検査陽性者が無症状( 無症状病原体保有者) の場合は検体採取日) 又は
・当該検査陽性者の発症等により住居内で感染対策を講じた日 のいずれか遅い方を0日目として、7日間(8日目解除)とする。
ただし、当該同居家族等の中で別の家族が発症した場合は、 改めてその発症日(当該別の家族が無症状の場合は検体採取日) を0日目として起算する。
ま た、当該検査陽性者が診断時点で無症状病原体保有者であり、 その後発症した
場合は、その発症日を0日目として起算する。
なお、同居家族等の待機期間が終了した後も、 当該検査陽性者の療養が終了 するまでは、 当該濃厚接触者においても検温など自身による健康状態の確認や、 リスクの高
い場所の利用や会食等を避けること、 マスクを着用すること等の感 染対策を求めること。

(**)事務連 絡 令和3年 11 月 30 日 令和4年2月2日一部改正
B.1.1.529 系統(オミクロン株) の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接
触者並びに公表等の取扱いについて

B.1.1.529 系統(オミクロン株)の濃厚接触者の待機期間 については、いずれの場合であっても、最終曝露日(陽性者との接 触等)から 10 日間とします。

(***)事務連絡 令 和 4 年 1 月 5 日 令和4年1月 28 日一部改正
新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応に ついて

B.1.1.529 系統(オミクロン株)の患者として取り扱われる検査 陽性者の濃厚接触者の待機期間については、最終曝露日( 陽性者との接触等)から7日間(8日目解除)と する。
社会機能維持者の方は、 2日にわたる検査を組み合わせることで、5日目に解除 。
無症状患者(無症状病原体保有者) の療養解除基準についても、検体採取 日から「7日間」 を経過した場合には療養解除を可能。

検査は事業者の費用負担(自費検査)により行い、 4日目及び5日目 の抗原定性検査キットを用いた検査で陰性確認後、 5日目から解除が可 能であること。 抗原定性検査キットは薬
事承認されたものを必ず用いる 。

10 日間が経過する までは、検温など自身による健康状態の確認や、 リスクの高い場所の利用や 会食等を避けること、 マスクを着用すること等の感染対策を求めること。

また、社会機能維持者に対して、10 日目まで は、当該業務への従事以外の不要不急の外出はできる限り控え、通勤時 の公共交通機関の利用をできる限り避けるよう説明すること。

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