[794](寄稿)コロナ診療の実際

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ペンギンドクターより
その1
 
 西高東低の晴天続きに南岸低気圧が来て、昨日から雪が舞い始めました。私は昨日の午後は傘をさして公園散歩に出かけました。うっすらと積った雪の表面には、陸に上がったオオバンミツマタの枝のような無数の足跡がついていて奇妙な感じでした。
 毎週一度出かける「城沼」には、100羽以上の白鳥が飛来しています。城沼を一周すると約4キロ、いつもの私の散歩は一人ですが、この時ばかりは夫婦二人で約一時間散歩します。カモの鳴き声はガーガーと煩いのですが、白鳥はクークーとちょっと品のいい響きです。4~5羽の白鳥の家族?が飛び立ち上空を旋回して、西に向けて離れた「餌場?」に飛び去って行く姿には、ある種の感動を覚えます。一方、すぐ目の前で長い白い首を水底に突っ込み、少し深い時にはお尻を空に向けて意外に長時間水草を食べている姿には、優雅さの欠片もなく、生きるためのなりふり構わぬ動物の本性があらわれています。泥水で首が黒んずんだ姿はむしろ妙な愛嬌があって面白い。先日は植物を食べているはずの一羽のオオバンがフナと思われる小魚をつかまえたのはいいのですが、ちょっと大きすぎたのか、丸呑みはできず、ついばんではとり落し、あわてて潜って回収しまたついばむ、その繰り返しに笑ってしまいました。

 さて、今日は、クリニックでの「コロナ診療の実際」をまず報告します。PCR検査や抗原検査の不足の現実です。私は水曜日だけのパート医ですので、陽性患者さんの対応は院長がしてくれていたのですが、その後の状況で私との接点があったので、経過を聞いたわけです。現在の市では、抗原検査で陽性になると、医療機関から保健所に連絡して以後の対応は保健所に任せます。それが前提と思ってください。ただし、以前陽性で自宅待機の肺気腫の男性がいたのですが、パルスオキシメーターで96%以上あった人が、急速に低下し救急車での緊急入院となった例があり、当クリニックで陽性と出た患者さんには毎日一度クリニックから様子を聞くことにしています。なお、抗原検査陽性と出たら、さらにPCR検査も追加することはしません。また抗原検査キットも不足していて、2月9日(水)時点で、あと10キット余りしかない状況です。したがって、先日は電話で検査の依頼があったケースは一例断ったとのこと。

 1例目は41歳の男性です。恐らくブラジル国籍ですが、奥さんは日本人です。仕事は中古車のブローカーのようです。発熱のため来院し、抗原検査で陽性だったので、保健所に連絡しました。患者さんには「コロナに感染しています。年齢から言っても入院の対象にはなりませんし、自宅待機してください。解熱剤をあげます。保健所から電話連絡がありますから、その指示に従ってください」と話して帰宅としました。2月2日(水)奥さんから電話があり、「熱は下がらず、辛い。腎臓梗塞(片方?)の既往があり、このまま治療を受けなければ、自殺するしかないと本人が言っている。入院は食事のことや言葉の問題があり、できない。コロナの治療薬を使ってほしい」とのこと。院長が奥さんに連絡していろいろ話したら、納得してくれたようです。「治療薬の対象にはならない。酸素飽和度も下がっていないから・・・・・」などと伝えたようです。その後については知りませんが、話題になっていないので、解熱し落ち着いたのでしょう。

 2例目は11歳の男の子です。1月30日に発熱、抗原検査で陽性、保健所に連絡。両親との3人暮らし。両親にはよく話して「どうせ自宅待機だから、お元気だし濃厚接触者の抗原検査もしないでいいでしょう」。感染経路は不明。その後数日で解熱し、元気でした。私との接点は、2月9日(水)に来院し「明日何ともなければ登校可能だが、ちょっと顔を見せに来た。右耳が年末に赤くなって皮膚科で「しもやけ」の薬をもらっていたが、最近ひどくなってきたので見てほしい」と母親と来院でした。コロナワクチン三度目の接種で待合室は人がいたので、私はナースと駐車場に待機している患者さんの車まで出張しました。手には薬の本を持参しました。皮膚科でもらった薬(いわゆるゾロ、後発品ジェネリックだと多過ぎてよくわからない)は、リンデロンVGのジェネリックでした。男の子の耳は赤くなっていたところに少し浸出があり、耳たぶの下の右頚部には点状の皮疹がありました。お母さんには、「もらった薬は副腎ホルモンのかぶれ止めと、ゲンタシン=抗生物質の混合した塗り薬です。耳たぶの下のボツボツは最近出てきたので皮膚科の先生は見ていませんね。今の状態は単なる「しもやけ」ではなく、何らかのウイルス感染かもしれません。皮膚科の先生に受診したほうがいいですね。お役に立てなくてすみませんが」。母親はよくわかった人で、「いえいえ、いろいろありがとうございました」とのことでした。両親ともに発熱はなかったようです。

 3例目は85歳の女性です。クリニックの隣の老人保健施設(クリニックとは無関係ですが、建築会社が同じで建物の色や造りなどよく似ている。関連施設のように見える。隣の運営団体は意図的にそれをねらった?)で、2月8日職員にコロナ感染が発生した。今後の対応は翌日の2月9日(水)に保健所の指示があるとのことだが、入所している上記の女性が発熱したので、抗原検査を希望して来院。往診中の院長に検査の可否を連絡して了解を得たのでナースが施行して陰性でした。私は発熱外来(感染症室)にて、付添いの職員に「陰性でした。ただし、偽陰性ということもある。解熱剤を処方する。高齢だしコロナ以外の病気の可能性もある」と伝えた。本人は認知症がかなりの程度に進んでおり、コンタクトはとれない。職員いわく「以前胆嚢炎の既往があります。手術はしていません。ちょっとおなかが痛いようなそぶりもするんですが・・・・・・」。ナースいわく「採血しておきましょうか?CRPも」私「そうしよう。白血球数や肝機能など一般の検査も含めて」。その後、職員が尿量が少ないので点滴してほしいとのこと。糖尿病の既往があり、普通の輸液ではなく、生理食塩水500㏄を処方し、隣の施設に持ち帰ってそちらでしてもらうことになりました。クリニックのナースなどみなそれなりに優秀で私はこちらから「どうしている?」と彼らに聞くことも多いのです。

 以上3例ですが、オミクロン株は感染力が強く、無症状・軽症が多く、病院や福祉施設などでも入所者や入院患者さんから感染が始まるというより、職員からクラスターが起こることが多くなっています。実は市の基幹病院でも、若い職員から感染経路不明の感染が始まっているようです。院長は私の同級生ですが、彼によれば、「お手上げだ。今まではコロナ患者に対してマスクやガウンなど防護体制をし十分注意して対応していれば、クラスターを避けることはできたが、今回はどこからやってくるかわからない・・・・・」と、医師会との連絡会議でぼやいていたそうです。

和田医師の主張が、すべて正しいとは思いません。(編集者註:和田医師の主張は次回紹介します。)保健所の関与をすべてなくしていいのか(クリニックの院長としては、一応保健所に対応を任せることは助かる、それとは別にクリニックが関わった患者さんには毎日連絡をとることは続ける形でやっている)、患者と医師だけの医療にしてしまうのは、検査体制・治療体制・治療薬の問題など、克服すべき問題は山積みでしょう。2類を5類にという提言ではなく、2類も5類もよく知らないで語っている政治家が多いのが問題でしょう。要するに現場です。具体的にどうするか、それが重要です。危機管理というのは、日本人が最も不得意な分野かもしれないと最近思うようになりました。
 高齢者や弱者は死んでも仕方ない、命の選別をすることは、ファシズムにつながるという議論もすぐに出てきますが、限られた医療資源をどうするかという時に、トリアージは必要です。この人があの人より世の中に必要かどうか、何をもって判断するのか、難しいことは事実ですが、議論はするべきです。結論は出ないでしょうから、永遠に議論を続けつつ、その時々で判断していくしかないと私は思います。
 東日本大震災でも「原発の事故は起こらない」という前提のみで対応し議論しなかったのが問題でした。原発は今あります。でも石炭火力発電所の稼働も問題です。いずれにしても、ごまかしのない統計が必要です。その意味で、統計不正とか公文書廃棄とか文書の書き換え(捏造)における政府の罪は大きい。今私が言えることはこのぐらいですね。では。
つづく