[945](寄稿)舌のピリピリする痛みと味覚異常と倦怠感「コロナ感染?」

ペンギンドクターより
その3

 以下の山本佳奈医師の文章は「亜鉛不足」に関する文章で、微笑ましい現実を率直に述べていいなと思います。参考になれば幸いです。当初のCOVID‐19における味覚異常は顕著でしたから、彼女のコロナ検査は当然でしょう。では。

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 舌のピリピリする痛みと味覚異常と倦怠感「コロナ感染?」
  検査してわかったこととは

 この原稿はAERA dot.(6月15日配信)からの転載です。

https://dot.asahi.com/dot/2022061400054.html

 ナビタスクリニック(立川)内科医
 山本佳奈

 2022年6月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 私ごとで恐縮ですが、今回は5月末に自分自身の身体に起きた出来事を共有させていただきたいと思います。

 急に、ピリピリと感じる舌の痛みと、口の中にずっと残る苦味を感じるようになりました。「気のせいかな」と思い、数日様子を見ていたのですが、一向に良くならず、ピリピリとする舌の痛みは強くなり、苦味もはっきりと感じるようになりました。舌の違和感や味覚の異常を自覚してから4日目には、ひどい倦怠感を自覚し、寝込んでしまいました。
 熱はなく風邪症状もなかったものの、味覚異常があったことから、「もしかするとコロナかもしれない」と思い、自宅にあった新型コロナウイルス迅速抗原検査を実施するも、結果は陰性。翌日、味覚異常をきたす疾患である亜鉛欠乏症の可能性を考慮し、勤務先のクリニックで採血検査を行ってもらったところ、亜鉛が正常値より低値であることがわかり、「亜鉛欠乏症」と診断されたのでした。

 亜鉛欠乏には亜鉛の補充が欠かせません。亜鉛欠乏であると判明してから内服による亜鉛補充を行ったところ、3日後にはピリピリと感じていた舌の痛みは消え、口の中にずっと残る苦味も次第に感じなくなりました。舌の痛みや苦味を感じてからは食欲が落ちていたのですが、苦味を感じることがなくなった今は食欲も戻り、味覚の大切さを改めて実感しています。

 味覚や嗅覚の異常といえば、新型コロナウイルス感染症を思い出される方も多いのではないでしょうか。冬から春にかけて流行したオミクロン株では、味覚や嗅覚を訴える方は少なかったのですが、デルタ株の感染が拡大した昨年の夏は、「味覚や嗅覚がなくなった」「臭いがわからない」「味がしない」と訴える方がとても多く、味覚や嗅覚の消失や異常を訴える多くの方でコロナ陽性を認めました。

 2022年6月12日時点での新型コロナウイルス感染症の陽性数は、人口100万人あたり119.66件であり、第6波もようやく落ち着いたような印象です。外来でも、1日あたりの検査数も10件から15件と減っており、陽性が出ないという日も増えてきています。そんな状況下での、突然認めた味覚異常と強い倦怠感だったので、「万一コロナだったらどうしよう……」と思い、コロナの迅速抗原検査を実施したのでした。

 結果的にコロナは陰性でしたが、採血から「亜鉛欠乏症」であることがわかり、その日から、食生活の改善とともに、亜鉛の補充を始めました。一人暮らしを始めた大学生の頃からだったと思います。「亜鉛が不足しないように、ホタテや牡蠣を食べなさいよ」と母にはよく言われていたのですが、「まさか、亜鉛なんか不足しないよ」なんて高を括っていたら、本当に亜鉛不足に陥ってしまったのですから、母の偉大さを感じずにはいられませんでした。
 亜鉛欠乏症とは、ヒトの必須微量元素の一つである亜鉛が欠乏することにより発症する疾患です。亜鉛は、タンパク質や脂質、核酸代謝や遺伝子の転写に広く関与に広く関与し、生殖、免疫機能、創傷修復など広範囲な役割を担っています。そのため、亜鉛が欠乏すると、味覚異常や肌荒れ、脱毛、免疫力の低下、男性の性腺機能低下、成長遅延、食欲不振など様々な症状をきたすことが報告されています。

 世界人口の約17%が、亜鉛の摂取不足に陥っていると推定されており、低所得国と中所得国の国では亜鉛欠乏症の有病率が20%以上を記録している国も多く、大きな健康問題の一つになっています。一方、高所得国の一部でも、亜鉛欠乏症の有病率が10%に達する可能性が指摘されており、特に菜食を中心とした食生活や肉の摂取量の不足は、亜鉛欠乏につながることがわかっています。

 亜鉛が欠乏する要因は、摂取量の不足、吸収不良(クローン病など)、需要の増加(妊娠や授乳など)、過度な損失(火傷や溶血、下痢など)の大きく4つが考えられています。胃腸疾患や糖尿病、肝疾患や感染症の存在と、亜鉛の摂取量の不足や吸収障害が組み合わさって、亜鉛欠乏をきたしている例も報告されています。亜鉛は、肉、魚、豆類、ナッツ、牡蠣など様々な食品に含まれており、特に野菜を中心とした食生活や肉の摂取量の不足は、亜鉛欠乏をきたしやすいことが知られています。

 私が「亜鉛欠乏」をきたしてしまった要因は何だったのか。やはり、摂取量が不足していたことは否めないと考えます。特に、コロナの流行が始まってから、外食する機会が激減したことの影響は大きいと感じます。和食にしろ、洋食にしろ、少なくとも自宅での食事よりも品数は断然多く、結果的にいろんな栄養を摂取できていたように思います。

 私の場合、外食が減った代わりに自炊が増えたかといえばそうでもなく、恥ずかしながら、炭水化物中心の適当な食生活を送っていたことは否めません。それに加えて、元々偏食がちであったこともあり、食べたいものを飽きるまでずっと食べ続けられる性格なのも、要因の一つであったと考えます。
 
 亜鉛欠乏であることがわかってからは、内服による亜鉛補充と共に、炭水化物中心の食生活ではなく肉や魚を意識して摂取することから始めています。それに加え、スーパーマーケットで冷凍の牡蠣を購入し、ストックするようにしました。一人暮らしのせいか、どうしても適当になりがちだった食生活ですが、痛い目を見てようやく大切さを自覚した、そんな経験となりました。

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