[1392](寄稿)医療あれこれ(その94)−4 診断エラーについて

ペンギンドクターより
その3
 転送するのは前回に引き続き中村祐輔氏の意見です。内容の数字の正否はともかく、医療による死亡や後遺症があることは確かです。何より大学がこのような数字を公表したことを私は評価します。このような発表を見る時にいつも感じることですが、衰退の道を歩んでいるアメリカもまだまだ捨てたものではないと思います。  1999年12月に米国医学研究所(IOM)が発表したTo err is human(人は間違うものだ)という本が出て、米国では医療ミスにより44000~98000人の死者が出ているという報告も衝撃でした。しかし、もっと衝撃だったのはそれから20年近くたってから、日本外科学会総会において理事長講演に上記の報告が取り上げられたという日本の現実です。遅すぎます。日本の外科手術の個別の技術の巧みさは定評がありますが、それとは別にミスをまとめる、失敗をまとめて次の進歩に役立てるという思想が欠如しているのではないかと思います。事実を直視しないのは我々日本人の弱点なのかと考え込んでしまいます。
 今朝の朝日新聞にコロナ対策に活躍した尾身茂氏の発言「コロナ提言 データには限界 歴史の審判受けるしかない」という興味深い記事が出ていました。彼の言うように、新型コロナの経験を次に生かすべく、十分な検証をしてもらいたいものです。
 一方、中村氏の文章にあるようにアメリカと比較して日本の安価な医療費には感謝です。国民皆保険の有難さをつくづく思います。ただ、超高額な医療費を要する稀少疾患の薬剤も登場して話題になっています。医療費の増加対策はみんなが真剣になって考える必要があると、今さらのことですが、繰り返さざるを得ません。
 本日はこのへんで。
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 米国では診断エラーによる死亡や後遺症が年間80万人?
 この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2023年7月26日配信)からの転載です。
 
理事長 中村祐輔
 
 2023年8月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 ビッグモーターの不祥事はあきれるばかりだ。やっていることはどこから見ても詐欺だ。そして、社長会見時の「ゴルフボールを靴下に入れて振り回して水増し請求する。ゴルフを愛する人への冒涜です。」にはズッコケた。どう考えても、まず、謝罪すべきはゴルファーに対してではなく、「車の持ち主に対する」冒涜だろう。ここまで感覚がずれているのは最近では珍しい。

 故意で車を傷つけるのはもってのほかだが、CNN Healthのニュースとして紹介されていた「Diagnostic errors linked to nearly 800,000 deaths or cases of permanent  disability in US each year, study estimates」の内容にも驚きだ。
 
 診断間違いが毎年80万人もの死、あるいは、不治の後遺障害を残すとジョンス・ホプキンス大学が報告したことを紹介したものだ。これによると診断エラー(初診時に症状がはっきりせずに見逃すことは、ミスというよりも、その時点での情報不足のために診断が難しい例も含まれているのでエラーと呼ぶのは厳しいと思う)によって死に至った例は約37万人、脳のダメージ、視力障害、手足の切断などの不治の障害を残したのが42万症例に及ぶと推測されている。
  
 2021年にDiagnosis誌に報告された「Rate of diagnostic errors and serious 
misdiagnosis-related harms for major vascular events, infections, and cancers: toward a national incidence estimate using the “Big Three”」というタイトルの論文にも紹介されていたが、脊髄膿瘍は初診時に正しく診断されなかった割合は62%で、見過ごされて重篤な状況に陥ったのは36%だ。やはり、稀な疾患の診断は難しい。ただし、稀と言っても、米国では年間14,000例が新規に罹患しているので、約5000人が死亡や重篤な後遺症につながっていることになる。
 
 脳卒中でも初診時に8.7%が正しく診断されていなかったと、2021年の論文に報告されていた。しかし、これに対しては、元日本医師会幹部が、日本ではCTが普及しているので、もっと少ないはずだと言っていた。検査代が異常に高額な米国では検査そのものが絞られてしまうが(大腸内視鏡検査は約100万円)、日本では救急車も簡単に手配できるし、保険診療でCT検査が受けられるのでこの数字はかなり低くなると思う。虫垂炎で1週間入院すると500万円もかかる米国と比べて、救急車や公的医療保険など日本は本当にありがたい国だ。
 
 膨大な情報があふれる中、すべてを人間の記憶力に頼るのは限界がある。常識的に考えても無理だという現実を直視すれば、AIやデジタルの活用は医療の質を維持するために、不可欠だとつながるはずだ。患者さんや家族が種々のデジタルツールを駆使すれば、自分の病気に対してかなり詳細な情を持つ患者さんと相対することになり、医療現場の物理的・精神的負担はますます過度になる。医療側が、AIやデジタルを活用して患者さんと共に医療の質の向上に努めていくことが重要だ。一般の方もリテラシーの低いメディアも、100%の正確さを求めること自体が非現実的であることを理解した上での対応が求められる。
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