[1336](寄稿)医療あれこれ(その90)ー4 トリチウム水と有機結合型トリチウム

ペンギンドクター
その4
 転送する内容は、専門家ではない整形外科医の主張です。ただし、良く調べている人の主張といえると思います。福島原発事故の汚染水排出について直接言及はしていないものの警鐘を与える内容です。前回の精神科医の意見は排出止む無しという方向でしたが、今回の内容はその反対です。いろいろな意見があるので、何を根拠とすべきか難しいところです。
 私は放射性物質というのは自然界に存在しているはずであり、その濃度と汚染水さらには排出による汚染とがどのように異なるのか、現実にはわからないのではないかと疑問に思っています。できれば排出しないほうがいいに決まっていますが、ではどうすればいいのか、悩ましい問題です。
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 トリチウム水と有機結合型トリチウム(OBT)
 
 大竹整形外科
 院長 大竹進
 
 2023年7月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 私は、高齢の整形外科医なので医学知識もさびついていることは事実です。ただ、トリチウムに関しては、六ヶ所村にある「環境科学技術研究所」の論文などを読んで以下のように理解しています。現役医師の皆さんから、分子レベルのトリチウムの影響について解説していただけることを期待します。
 
 トリチウムには、水(H2O)のうちの一つの水素がトリチウムに変わったトリチウム水(HTO)と炭素とトリチウムが結合した有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)があります。
 
 植物プランクトンやアオサなどの海中の植物は、二酸化炭素トリチウム水から光合成によってトリチウムが入った炭水化物(OBT)を生み出します。(光合成:6 CO2 + 12 H2O → C6H12O6 + 6 O2 + 6H2O)
 OBTの炭素とトリチウムの結合は簡単に水素とは交換されないため、代謝されるまで体内にとどまります。IAEA 報告書では、OBTに関する記述は少なく、分子レベルの説明はありませ ん。また、復興庁の説明はHTOに関するものだけで、OBTについては説明がありません。 
 このOBTについては、六ヶ所村にある「環境科学技術研究所」が長年研究しています。植物プランクトンやアオサで光合成されたOBTをアワビが食べて、甲殻類や小魚へと「食物連鎖」すると説明しています。
 
 実際に、六ヶ所村周辺のヒラメのOBTを測定し、大量のトリチウムが放出された時期のヒラメのOBTは上昇していました。また、六ケ所村から遠く離れた八戸沖のヒラメからもOBTは検出されています。
 
 ただ、OBTの測定は大変難しく、時間もかかります。OBT測定は「有機物を燃焼して得られる水(燃焼水)」を測定しますが、燃焼法の操作は難しく熟練を要し、試料水をすべて回収しなければ正確なOBT量を求めることができません。
 
 また、トリチウムは低エネルギーのβ線を放出する核種なので,液体シンチレーションカウンターで測定します。液体シンチレーションカウンターは,蛍光試薬と界面活性剤を溶かした有機溶媒に試料水を混合し,放射線の作用で発生した蛍光を光電子増倍管で計測します。
 
 トリチウム濃度が低いと測定ができないため、電解濃縮という方法で濃縮してから測定します。2021年9月発表のトリチウム電解濃縮装置「TRIPURE(トリピュア)」は、時間短縮が可能となり、設定可能最大電流値で電解濃縮した場合、「約60時間で1,000mlの試料水を50mlに濃縮することが可能です。」とこれまでの装置より性能がアップしたと書かれています。ただ、改善されたといっても「電解濃縮に60時間」かかるというのが、現在の技術水準です。
 これまでの研究で、トリチウムがDNAを損傷する可能性があることがわかっています。DNAは二重らせん構造で、4種類の塩基のうちアデニンとチミン、シトシンとグアニンがペアとなって水素で結合します。アデニンとチミンが2つの水素結合で、シトシンとグアニンは3つの水素結合で、結合します。
 
 この水素結合がトリチウムで置き換わった場合、周辺のDNAが損傷を受け遺伝子に異常が生じる可能性があります。
 
 藤原進さんが2021年に発表した「置換トリチウムのβ崩壊に伴う高分子・DNA構造変化の分子シミュレーション」という論文から引用します。
 「トリチウム含有化合物が生体内に取り込まれると、化合物中のトリチウムがDNA中の軽水素と置き換わることが、メダカなどを用いた実験で確かめられている。トリチウムから放出されるβ線の飛程は短いため、人体に対しては外部被曝が問題となることはほとんどなく、内部被曝に対する防護が重要となる。とりわけ、β線によるDNA損傷や置換したトリチウムがヘリウム3へと壊変した場合のDNA損傷などが問題視されている。しかし、その損傷の分子メカニズムは、いまだ完全には明らかになっていない。」と述べているように、トリチウムによってDNAがどのような損傷を受けるのかは研究途上といえます。
 
 また、藤原進さんは2022年の日本物理学会誌で、低濃度では確認されていないが「高濃度トリチウム水中では、DNA二本鎖切断が速やかに起こることがわかった」と報告しています。
 まだまだ、わからないことが沢山あります。安全だということを確かめてから行動するべきだと考えています。
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 公益財団法人 環境科学技術研究所
 
 藤原進:置換トリチウムのβ崩壊に伴う高分子・DNA構造変化の分子シミュレーション.分子研レターズ 84 September 2021 
 
 藤原進:トリチウムによるDNA 損傷のメカニズム~二本鎖切断の蛍光顕微鏡観察およびシミュレーション
 
 大竹進:トリチウム汚染水の海洋放出をやめさせよう!~中学校理科の知識で考える
 
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