[1335](寄稿)医療あれこれ(その90)ー3

ペンギンドクターより
その3
 
 もうひとつ、本の話と私の昔の葉書です。
 私は、新刊の新書や選書や文庫などを購入して読んでいますが、同時に古い本、書棚・書庫に眠っている本を何とか読むべく努力しています。そのひとつです。
 ●丸山眞男『増補版 現代政治の思想と行動』(未来社 1964年5月30日第1刷発行、1966年8月31日第16刷発行)、585ページの重い単行本です。私はこの本を先日何とか読み終えました。重いので寝転がって読むわけにいかず、検診の仕事のあいまに一日数ページから10ページほど、ゆっくり急がず読み続けたのです。この本は大変有名な本で、政治学の教科書的な扱いでした。私も大学に入ってすぐに購入したと思います。教養学部政治学の講義は出ていませんが、何となく購入したのでしょう。ある程度断片的に内容は知っていましたが、もちろん通して読んだのは初めてです。今読んでもなかなか面白い本です。いや今読むからこそ面白いというべきかもしれません。詳しい内容は別の機会にお話するかもしれません。
 今回は、この本の間から出てきた母に向けた、出さずじまいになった私の葉書の文章をここに記します。多分私が19歳の春
に書いた葉書です。
 
 拝啓、母上様、お元気ですか。
 僕は毎日元気で過ごしています。寒さも峠を越したようです。身体の方は健康そのもの、風邪も腹痛もやりましたが、ほっといたらなおりました。
 精神状態の方はまあまあでしょう。いろんな事を考え、いろんな事をやり、寝床の中で妄想にふけったり、愉快な毎日です。
 試験が近づいて大変ですが、なあにどうともなりゃがれ です。試験の結果云々で汲々としているのは馬鹿なこった。それより酒でも飲んだ方がいいや、でもありませんが、まあまかせておいて下さい。僕は勉強します。医学には別に興味はありませんが、外国語やら何やら、本を読んでいます。医学も先になればやれるでしょう。
 まあ、いらぬ心配はしないで下さい。三月には帰りません。四月初めに帰ります。三月中は勉強したり、本を読んだり、クラスの活動をしたり、コールの練習やら、忙しいことです。
 十日までにはお金を送って下さい。さようなら。
 
 19歳の春の記憶としては、以前お話したクラス委員になったこと、その関係もあり、4月から入ってくる新入生に向けて配布する文集を作る案があり、私が編集長になって、大学前の商店街の飲み屋や麻雀屋のルポを書いたこと、さらにどういう企画をするか考えるためにクラスの有志と山中湖の大学寮に2泊3日で行ったものの、三日間まるまる徹夜でマージャンをして空しく帰ってきたこと、コールアカデミーという男声合唱団に入って練習していたこと、などが思い出されます。
 まあ身勝手な日々でした。家庭教師のアルバイトはしていて、構内の寮にいましたから、月5千円でうまくはないものの三食確保されていて、お金に困った記憶はあ
りません。
 学園闘争(学園紛争)の前ですから、のんびりしていて、政治との関わりといえば、「建国記念日反対」と寮の部屋(合唱団の仲間が同室)の名前で小さな立て看板を作ったことぐらいでしょうか。
 目的意識をもって勉強するという状況では全くなく、その意味では、いわゆる「青春」だったのでしょう。勉強すればよかったと思わないでもありませんが、教養学部の時代は、小中学校、高校時代に次いで懐かしい時代とも言えそうです。医学部に来てからとは全く違います。それより以前の方がいいですね。
 いささかセンチメンタルな文章となりました。流されるままに来たように思いますが、まあ何とか75歳まで来ました。いろいろな人に迷惑もかけましたが、まあこんなものが人生ということだろうと思っています。では。
つづく