[684](寄稿)本の紹介『新薬という奇跡 成功率0.1%の探求』

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ペンギンドクターより
その1

皆様
 秋晴れですが、北風が強く寒い日です。いかがお暮しでしょうか。
 コロナ感染が、突如減少して医療機関も一息ついているところです。毎日チェックしている女房からの情報です。私たちのK市は県全体が大幅に減少している中でも、ちょこちょこと感染者が認められます。相変らず注意しながら検診業務を続けています。
 いつも転送しているMRICの主張もこのところコロナ関係が少なくなっています。このまま収まるとは思いません。この猶予期間を利用して、第6波の準備を勧めるべきでしょう。幸い岸田政権も公的医療機関、特に旧国立病院やJCHOに病床数の20%をコロナ病床に転換するよう指示しているようで、どこまで実現するかはともかく、結構なことです。私が健診の仕事をしているY病院は民間病院で十分なボーナスが出せないことからナースの退職・転職が認められ、市内の日赤に流れたのではないかと、事務長が嘆いています。補助金で十分潤っているそれらの公的病院に大きな剰余金があるということは、現実にはコロナ対応が十分にはやられていないことですし、コロナ病床は動いていても、従業員に還元されていないということです。医師ネットワークでも目いっぱいコロナ対応の仕事をしても、給料は増えないというドクターの愚痴も聞かれました。厚労省の役人の天下り先として、しっかり黒字化してはいるものの現場の苦労に報いていないのは、昔と変わらない現実です。

 本日の転送する内容は、コロナ禍におけるがん患者の受診遅れの現状についての調査・分析です。(編集者註:次回掲載します。)尾崎医師は2010年東大医学部卒です。MRICを主宰する上昌広医師のグループで若いけれども出色の人物です。乳腺外科が専門ですが、5‐6年前でしたか、「若すぎる、専門家とは言えない」と私が彼の論文を引用してコメントした記憶があります。卒後10年を過ぎて経験も増えた以上、私が文句をつけることは、実際の治療内容はともかく、経験年数においては、もうありません。彼は医療界と製薬会社との癒着を糾弾する活動もしているようです。英語の論文も多いようです。現在36歳、活動的で、上昌広医師(1993年卒)の懐刀という感じでしょうか。今後の活動を注視していきたいと思っています。

 さて、本日は新薬の開発の難しさについて本の紹介をします。
 私なりの意見を述べてみたいと思います。
 その前に、ちょっと日常的なことをひとつ、私は毎朝4時半前後に起きるのですが、起床後すぐにパソコンのスイッチを入れて、いくつかの医療クイズに挑戦します。M3やケアネットなどからも毎日届くのですが、日経メディカルのクイズの一部に医師国家試験問題と薬剤師国家試験問題があります。コロナのおかげで遠出ができず、連日欠かさず回答しています。成績は現在累積で医国試が70.6%薬国試が43.1%です。まだ累積1000問には届きませんが、最近は大変真剣に取り組んでいます。つまりケアレスミスのないように注意して頑張っています。半年ほど前は、それぞれ69%台、39%台だったのですが、1-2カ月ほど前から大台に乗りました。間違うと30分ぐらいムカッとするので、緊張感をもってやっています。
 その問題をみて最近特に思うことがあります。それは「医国試」は文系であっても記憶力がありさえすれば何とかなるのと比較して、「薬国試」は科学的な知識の所有者でなければ対応できないということです。要するに物理・化学の知識が絶対的に必要だということです。しかも厖大な科学的知識が必要なので、昔の4年制では不可能であり、6年制となったのは当然だと思います。また、医・薬ともにAIの導入は絶対的に必要だと思います。つまり必要とされる知識量が多過ぎて、人間の頭の中には収まり切れません。記憶に頼っていては、処方ミスなど頻繁に発生すると私は思います。
 よく考えてみれば、私の場合当然です。元外科医で、外科医時代は、例えば「胃がんの手術」でも、多少のヴァリエーションはあっても、100例もやればパターンはわかります。まして私は1000例近くやりましたから、老眼でよく見えなくてもどうすればいいかわかりました。それが、内科医に転身して、薬剤を処方するとなると、薬剤名から相互作用など、完全に素人と同じです。まずは以前処方されている薬剤をそのまま処方しますが、患者さんの前で、クスリの本をチェックすることに躊躇はしません。また、電子カルテですから、インターネットにアクセスして、患者さんに病気の説明や、薬剤の副作用などもむしろ患者さんに納得させるためにネットの医療情報を見せながらお話しています。近い将来、AIがあれば、有能な助手になってくれると期待しています。

 さて、本です。ひと月あまり前に駅ビルの書店で見つけました。
 ドナルド・R・キルシュ、オギ・オーガス著『新薬という奇跡 成功率0.1%の探求』(2021年6月25日発行、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)です。本書は2018年6月に早川書房より単行本として刊行されています。原文は2017年に発行されたようです。裏表紙の宣伝用のコピー文を記します。

 先史時代から人類は自然の中に分け入り、薬の材料となる木の根や葉などを手当たり次第に探し求めてきた。現在でも科学者の創薬プロジェクトが医薬品に結実する可能性はわずか0.1%であり、ペニシリンアスピリンなどの薬、そして感染症に対するワクチンの数々はまさに奇跡の所産なのだ。新薬という夢に賭けた人々の挑戦の歴史を、第一線で長年活躍する研究者が書いた名著。『新薬の狩人たち』改題。解説/佐藤健太郎

 目次を示します。

イントロダクション バベルの図書館を探索する
第1章 たやすいので原始人でもできる
     新薬探索の嘘みたいな起源
第2章 キンコン伯爵夫人の治療薬
     植物性医薬品ライブラリー
第3章 スタンダード・オイルとスタンダード・エーテル
     工業化医薬品ライブラリー
第4章 藍色や深紅色やスミレ色
     合成医薬品ライブラリー
第5章 魔法の弾丸
     薬の実際の働きが解明される
第6章 命を奪う薬
     医薬品規制の悲劇的な誕生
第7章 新薬探索のオフィシアルマニュアル
     薬理学が科学になる
第8章 サルバルサンを超えて
     土壌由来医薬品ライブラリー
第9章 ブタからの特効薬
     バイオ医薬品ライブラリー
第10章 青い死からβ遮断薬へ
      疫学関連医薬品ライブラリー
第11章 ピル
      大手製薬企業の外で金脈を掘り当てたドラッグ・ハンター
第12章 謎の治療薬
      まぐれ当たりによる薬の発見
結論 ドラッグハンターの未来
     シボレー・ボルトと『ローン・レンジャー

 これだけではチンプンカンプンでしょうが、原始人は食料がなくて餓死するしかないとき、そこにある植物を手当たり次第口にして、毒なら死亡、薬なら生き延びるという試行錯誤を繰り返して、薬を発見してきたという歴史が述べられています。しかも、そういう現実は今もそれほど変化してきているわけではないようです。この本の要約ができる能力は私にはありませんが、1年足らずのうちに新型コロナウイルスのワクチンが実用化されてきたのはまさに奇跡だということはわかりました。また新型コロナウイルスの治療薬が、他の病気に使用されている既存のいろいな薬が試されている理由もよくわかりました。急いで使わなければならない薬である以上、既存の薬に頼らざるを得ないわけです。
 この本は一般の方々の読み物としても一級品です。ということで紹介を終わります。

 私は、このハヤカワ・ノンフィクション文庫(ハヤカワNF文庫)を14表題読みました。歴史や未来学、科学関係それぞれに興味深く、納得できる内容でした。早川書房はミステリーで有名ですが、ノンフィクションも秀逸です。

 今日はこのへんで。
 これから、「豚肉の生姜焼き」を作り(下ごしらえは昼過ぎに済ませてあります)、録画の旅番組を見ながら焼酎を100㏄ほどやります。来年4月から週2日の仕事となれば、週3回料理をするつもりです。料理もパターン化すると神経を使わないで出来るようになってきました。コロナが本当に落ち着けば、JR東日本の休日倶楽部会員を利用して、女房と温泉旅行に行きたいのですが、いつになることやら、まだまだ予断は許せません。では。