[758](寄稿)「HPVワクチン定期接種に9価ワクチンの早期導入を望む」

ペンギンドクターより
その2

濱木医師の意見です。

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HPVワクチン定期接種に9価ワクチンの早期導入を望む

ナビタスクリニック新宿
濱木珠恵

2021年12月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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子宮頸がん予防ワクチンとしてしられるHPVワクチンは、日本でも小学校6年~高校1年生の女性に対する定期接種の対象に含まれている。にもかかわらず2013年から定期接種の積極的勧奨が差し控えられていた。公費での定期接種を受けられる年代の方への案内が止められたのだ。そして今年11月12日、ようやく積極的勧奨の再開が決まった。しかしながら、これで問題が解決した訳ではない。アメリカやデンマーク、オーストラリア、スイスなどの先進国では9価のワクチンが定期接種に用いられているにもかかわらず、日本国内での定期接種は4価のままだからだ。

私達のクリニックでも以前から積極的にHPVワクチン接種を行なってきているが、定期接種として公費で接種する方もいれば、任意接種として自費で接種される方もいる。頻繁に尋ねられるのは「4価でもいいですか、9価がいいですか」という質問だ。

2020年まで国内で承認されているHPVワクチンは2価のサーバリックス、4価のガーダシルの2種類だった。一方、米国では2014年にFDAが9価のガーダシルを承認し、オーストラリアや中国、ドイツ、イギリスでも9価が用いられるようになった。ナビタスクリニック新宿の利用者にも9価を希望される方がいたため、当院では2017年12月からガーダシル9を個人輸入して使用している状況であった。しかし今年2月、ようやく国内でも9価のシルガード9が発売となり全国どこでも9価のHPVワクチンを接種できるようになった。名前は異なるが海外でガーダシル9として使われているワクチンと同じ製品である。
私達のクリニックでHPVワクチンを接種する方の大半は中国人留学生だが、ほとんどが9価を選択する。一方、日本人女性は、最初から定期接種対象ではなかった年代と、積極的勧奨差し控えにより定期接種の機会を逃してしまった20歳前後が多い。以前は定期接種と同じ4価を選ぶ方も多かったが、日本国内でシルガード9が承認されてからは「自費でうつなら、より効果の高いものにしておきたい」と9価ワクチンを希望される方が増えた。

HPVは100種類以上あることが知られている。よく知られているのは皮膚の疣贅(いぼ)を起こすタイプであるが、様々な性器感染症を引き起こすHPVもある。ワクチンで予防したいのは後者のタイプだ。HPVは一度感染しても多くは自然に排除されるが、一部は感染が持続し病気を発症させる。HPVの6型と11型は、性行為で感染し、陰部や陰茎、肛門に尖圭コンジロームというイボをつくる。これらは体の外側に出来るので見えやすくたいていは症状がないが、ときに強い痛みやかゆみを伴うことがある。この尖圭コンジロームの9割は6型と9型が原因である。
一方、16型や18型は、陰部に感染するが、粘膜表面に平らなイボを作るので肉眼では見るのは難しい。これらは通常は症状があまりないが、数年~十数年後に子宮頚がん、膣がん、肛門がん、直腸がんのリスクを高めるため治療が必要になる。このHPV16/18型をカバーしたのがサーバリックス、HPV 6/11/16/18型をカバーしたガーダシルだ。さらに9価のシルガード9では、4価がカバーする6/11/16/18型に加え31/33/45/52/58型も含んでいる。

欧米ではHPV関連子宮頸がんのうち16/18型が関与しているものは70-80%といわれる。さらに31/33/45/52/58型を加えて80-90%をカバーする。一方、アジアでは52/58型の比率が高い。日本では16/18型が65.4%、42/58型が15.7%に関与している(Sakamoto J et al. Papillomavirus Res. 2018; 6: 46-51)。さらに31/33/45型を含めると88.2%をカバーする。当初に出されていた2価、4価のワクチンでも子宮頸がんの予防効果はある。しかしそれだと欧米と比べると日本では効果がやや低く、むしろ9価のワクチンを用いることで欧米と同等の予防効果が得られるのだ。

日本では2012年に16/18型の感染を予防するHPVワクチンの定期接種が開始されたが、前述のように2013年から積極的勧奨が止まった。その後、HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果を示す論文が次々と発表された。2014年にガーダシル9が開発されてからは、諸外国では次々と4価から9価のワクチンへ乗り換えている。たとえば国を挙げて対策に取り組んでいるオーストラリアでは、子宮頚がん検診の受診率は女性の8割を超える。HPVワクチン接種は2007年に12-13歳の女子への定期接種(4価)が始まり、2009年まで14-26歳にも追加接種を行った。さらに2013年には12-13歳の男女ともに定期接種の対象となり、男子にも追加接種を行った。2016年の15歳の接種率は男女ともに70%を越え、2018年からは9価ワクチンが使用されている。この結果、オーストラリアでの子宮頚がんの発症率は2020年頃には希少がんと同等にまで減少し、今後20年でほぼ根絶できると見込まれている(Hall MT et al. Lancet Public !
Health 2019; 4: e19?27 )。しかし日本では4価ワクチンで議論が止まったままだ。

HPVワクチンの若年者への定期接種は重要だ。10代への接種は、それより上の年代への接種よりも子宮頸がん予防効果は高い( Lei J et al. N Engl J Med. 2020; 383: 1340-1348.)。8年ぶりに積極的勧奨が再開することは朗報ではあるが、それで満足してはいけない。より日本人の子宮頸がん予防に効果のある9価のワクチンを定期接種にも導入すべきである。

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