[942]世界を震撼させた安倍元首相狙撃事件


 安倍晋三元首相を狙撃した山上徹也が5月まで働いていた職場の元上司は「世界を震撼させるような事件にまでにいたるというのは、想像を超えている」と話したといいます。(産経新聞のインタビュー)
 まさに世界を震撼させました。
 事件から一日経って、評論家や作家が発言しはじめました。毎日新聞は「安倍元首相銃撃は『民主主義への挑戦』なのか 参院選にどう臨む」という見出しで事件と参院選についてインタビュー記事を配信しています。
 作家の高村薫さんは次のように言います。
 「政治家は、その理念や信条を体現している存在だ。そのため、政治家への襲撃は彼らの理念や信条に反対を表明する最も直接的な方法であると言える。過去にも長崎市長(中略)······
 しかし、今回逮捕された山上徹也容疑者はどうなのか。真相はまだわからない。ただ、報道によれば、特定の宗教団体への恨みを抱いていたものの、安倍氏の政治信条に反対しているわけではないという。政治家襲撃の動機が、理念や信条によるものではないとすれば、非常に特殊な事例といえるのではないか。
 安倍氏が銃撃されたことを受け、この事件を『民主主義への挑戦』や『民主主義の崩壊』ととらえる人もいるが、私は違うと思う。
 10日に参院選の投開票を迎える。事件の影響は少なくないだろう。······与党勢力圧勝のムードが強い中で、この先に何が起こるのか、いまこそ冷静に一人一人が考える必要がある。·······
 ······何よりも憲法を改正をすべきかどうか。今回の選挙はそれらの方向性を決めるものになるはずだ。与野党の論戦がしっかり行われる国会になることを期待したい。」

 私は高村さんの意見がまったく間違っているとは思いません。今回の参院選は国会が憲法改正が可能な勢力構成になるかどうかがかかっています。ですから改憲勢力改憲の旗手であった安倍氏の死を選挙に利用することには警戒しなければならないと思います。
 けれども、安倍氏を狙撃した山上氏は安倍の政治信条に反対したものではないと言っているようだから、「民主主義への挑戦」や「民主主義の崩壊」ととらえるのは違うというのは、時代の歴史感覚が弱くないかと思います。
 私はこの事件から2008年の「秋葉原事件」を連想します。目的・動機が自分だけのものであり、共通するのは社会秩序にたいする破壊衝動の爆発です。狙撃事件が秋葉原事件と違うのは攻撃対象が不特定多数の人ではなく、日本の支配階級の政治エリート・安倍元首相だったということです。何はともあれ彼は民主主義の中で育ったトップ級の政治家です。その人が遊説の最中に狙撃され殺害されたのです。
 この行為は日本の「民主主義」破壊行為と言っていいと思います。狙撃者本人独自の理由をもった安倍元首相暗殺は戦後の民主主義的統治形態にたいする破壊行動という意味を内包していると思います。
 政治信条に反対するものではないというテロリストの存在を予め知るのは不可能です。狙撃者は戦後日本の「民主主義社会」の申し子と受けとめなければならないと思います。そういう時代になったのです。