[1160]春闘、続いた賃上げ低迷についてーその2

 朝日新聞のインタビューのつづきです。

 賃金の低迷について、記者の質問に答えて芳野会長はさらに言います。

 芳野会長∶「組合側も、多くの企業がリストラをしたときに、まず雇用を優先し、賃上げ要求に強気な姿勢で臨めなかった点は否めない。」

 私の意見∶

 この意見は企業経営がいきづまり多くの企業が「リストラ」で危機を乗り切ろうとしたときに、企業の賃金抑制に協力して雇用を確保してもらったということです。「賃上げ要求に強気な姿勢で臨めなかった点は否めない。」と言っていますが、仕方なかったというようにも受けとれますし、反省しているかのようにも受けとれます。

 けれども次の質問にたいする答えを聞けば何も反省していないと言わざるをえません。

 

ーー労使の関係性で見直すべき点はありますか?

 芳野会長∶「日本では個々の企業の存続、成長に向けて労使が協力して力を発揮する。世界の中でもユニークかつ優れた仕組みだ。組合のない企業が多数を占めることに鑑みれば、この仕組みを広げていく努力が必要だ。」

 私の意見∶

 かつて賃上げ要求に強気な姿勢で臨めなかったのは、企業の存続成長に向けて労使が協力して力を発揮したからではないでしょうか。

 もちろん企業なくして労働者は働けず、労働者なくして企業はありません。しかし賃金労働者と資本家は賃上げをめぐって対立しているのです。それは私たちが日常生活のなかで感じていることです。賃金をめぐる対立と闘争は資本主義の社会の動きを根底で規定しています。労働組合が、企業の利益を守ることが労働者をまもることになるという考えに立ってしまえば犠牲を甘んじて受け入れることになります。

 こんにちの連合指導部は思想的には労使運命共同体イデオロギーに陥っています。

 

労使は闘争関係にはない? 

 記者の大橋経団連副会長にたいする質問と答えを見てみます。

ーー労使は闘争関係にはないと訴えています。

 大橋副会長∶「国や社会、働く人を憂える考え方や分析の仕方はほとんど同じだと思う。ともに未来をつくる『協創』のパートナーだ。」

 記者はさらに問います。

ーー労使の緊張関係が失われませんか。

 大橋副会長∶「組合はスト権など様々な権利を持っている。ただ現在は、各社で経営側と組合側が自社の課題を整理しながら、働き方、賃金レベル、競争力などを協議している。緊張感を持ちつつの『協創』だと思っている」

 私の意見∶

 賃金レベル、働き方、国や社会について労使の考えはほとんど同じだという大橋副会長に、記者は緊張関係が失われないかとちょっと疑問の質問をしています。

 大橋副会長は組合はスト権など様々な権利を持っているが、今は(それらを行使することなく)、労使協議で緊張感をもちつつの『協創』をともにやっていると思うと答えました。

 経営者から見る連合はたたかう労働組合ではないと認められています。ストライキをやる権利はあるのにやらないではないかと暗に言われているわけです。

 1991年のソ連邦の自己崩壊以降、賃労働と資本の階級的闘いは古いものとして葬りさられ、労働組合の考え方は全体的に労資協調へと純化してきました。この30年の労働運動は労使協議路線のもとで資本家経営者による賃金抑制、人員削減、雇用形態の非正規雇用化に協力してきました。その結果が労働者の低賃金と非正規雇用の増大に端的に示される貧困化状況です。いま物価値上げにおそわれた私たちは生活費危機で困っています。

 従来の延長線上で春闘を終わらせてはならないと思います。