[1303]トリチウム水放出は危険

 

 福島第一原発トリチウムを含む処理水は「国際安全基準に合致している」というIAEAのお墨付きをえた政府は、海洋放出を8月にも強行する構えです。政府と東電は2015年、福島漁連に「関係者の理解なくしていかなる処分もしない」と文書で約束しています。どういう理由付けをして約束を反古にするのでしょうか。

 6日の日経新聞は1面トップで「処理水放出 条件整う」と見出しを付け、滝順一編集委員の意見を載せました。

編集委員は次のように言います。

「福島の漁業が復興に向かいつつある中、処理水の海洋放出の問題が具体化し、漁業関係者を苦しめてきた。放出に伴うリスクを科学的に理解しても漁業者としては首を縦に振れない状況だろう。」

 私はここまで読んで、ひょっとするとこの人は放出に反対なのかと思いました。がそうではなかった。滝氏は続けて言います。

「決断の遅れが風評への懸念を長引かせている。政府は議論を尽くした上でもっと早く行動できなかったのか。」

 もっと早く行動すべきだったということです。処理水の海洋放出で廃炉への第一歩がやっとはじまると言っています。滝氏はトリチウム水の放出について、科学者が晩発性障害を起こすと言っていることを真面目に考えてはいないでしょう。滝氏の記事は科学者の警告に反論した上での意見ではありません。

 また、松野官房長官は核汚染水だという中国からの批判に反論して次のように言います。

 東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画について、放射性物質トリチウムの年間放出量は中韓両国を含む海外の多くの原子力関連施設と比べて低い水準にあると。

 原子力規制委は、海洋放出の設備が正常に作動することが確認できたとして使用前検査の合格を示す終了証を7日に東電に交付しました。経産省のウェブサイトによると、海洋放出に関しトリチウムの年間放出量は22兆ベクレル未満を予定。

 しかし、科学者は警告しています。『被曝インフォデミック トリチウム内部被曝ーーICRP によるエセ科学の拡散』(西尾正道北海道ガンセンター名誉院長著2021年3月11日発刊)を引用します。

福島第一原発では2021年現在、毎日平均140トンのトリチウムなどを含む汚染水が発生している。浄化装置で放射性物質を減らした処理水の総量は約124万トンに上り、敷地内の保管タンクは1000基を超えている。処理水のトリチウム濃度は約73万Bq/Lで、トリチウム総量は約1000兆Bq以上とされている。東電は137万トン分のタンクを確保する計画だが、2022年秋には満杯になるため、原発の通常運転で放出していた年間22兆ベクレル以内に薄めて海へ放出するとしている。この方法で処理した場合、30年以上にわたって海への放出が続くことになる。

 世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では、たとえ事故を起こしていなくても、稼働させているだけで周辺住民の子どもたちを中心にした健康被害が報告されている。その原因の一つはトリチウムと考えられる。·············トリチウムは新陳代謝や細胞の再生過程で有機結合型トリチウム(OBT=Organically Bound Tritium)を形成する傾向を持っており、晩発性の健康被害となるのは明らかである。」(同書106~107頁)

 松野官房長官は海外の原子力関連施設もトリチウムを海洋などに放出しているといって、福島第一原発の処理水放出を正当化しようとしていますが、とんでもない理屈です。

 政府関係者は「科学的に」検証したと言いますが、専門家の反対意見には向き合ってはいません。

 海洋放水すれば将来健康被害が広がります。