[1491](寄稿)医療あれこれ(その100)ー2 病理医が足りない

ペンギンドクターより

その2

ひとつ、医療ニュースです。
 ●診断確定に存在不可欠 浜田医療センター常勤病理医ゼロに
 2024年1月9日(火)山陰中央新報

 専門的ながん治療を提供する「地域がん診療連携拠点病院」に指定されている浜田医療センター浜田市浅井町)が、指定の要件となっている常勤の病理医の確保に苦慮している。病理医はがんの診断を確定する上で欠かせない存在でありながら、全国的に数が少なく、具体的な確保策は見えていない。
 日本病理学会によると、2023年10月時点の病理専門医数は2787人。都道府県別では島根11人、鳥取15人にとどまる。島根の場合、さらに県東部の病院に偏在している。
 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、20年時点で医療施設に従事する医師のうち病理診断科は0.7%。慢性的な人手不足で、数少ない病理医で診断を支えているのが実情だ。
 センターは、島根大学医学部からの後任の派遣が難しいことを受け、中国地方の複数の病院に打診した。しかし、どこも定年延長の医師が勤務する状況だったという。
 地域拠点病院の指定要件を欠くと、1年という期間を定めた形で継続が認められる「特例型」となるケースがある。厚労省によると、全国の地域拠点病院357カ所のうち24カ所が何らかの要件を欠く「特例型」。24年度にセンターの常勤医が不在になった場合、島根県を通じて厚労省に報告し、省の検討会で審議後、取り扱いが判断されるとみられる。

 がん治療では、細胞の遺伝子異常を調べて治療法を選ぶ「がんゲノム医療」が進み、病理医の重要性は増している。各臓器の病気を診断する知識を持ち、診療科への助言によって医療の質を高めており、常勤医の不在は多くの診療科の運営にもかかわる。
 センターは、今春にはがん治療に使う放射線治療装置「リニアック」の更新を終え、中断していた放射線治療を再開する見通し。地域拠点病院の指定で、診療報酬の加算に加え、昨日強化費として国からの補助金を年間約1千万円得ているだけに、指定が外されれば経営への影響は必至だ。
 島根県がん対策推進協議会の田村研治会長(島根大医学部教授、同附属病院腫瘍内科)は「がん医療はハード(施設)と専門家(医師)がそろわないと実現できない」と強調。医療体制の「東西格差」の是正を含め、医師確保に関わる県を含めた全体での議論が必要としている。

 ■病理医の不足は今に始まったことではありません。私が健診の仕事をしている300床のY病院も「地域がん診療連携拠点病院」ですが、今は当然、常勤の病理医がいます。この病院は40年余りの歴史がありますが、当初120床ほどの病院時代より私が病理診断を始めました。約18年私がひとりで外科医の片手間に病理診断をしていたという今から思えば「危険な仕事」をしていたわけです。時代の変化は当然私にもわかっていて、たまたま私の後輩で以前から知っていたA医大病理学教授がB大教授に栄転するので、そのお祝いも兼ねて二人で一杯やった時に、彼から「人の仕事を奪わないでください」と言われ、「潮時」と彼と交代しました。グッドタイミングでした。それは、HE染色とAB染色という簡便な染色で診断していた時代から各種の染色方法が登場し、当然費用と時間もかかるわけで、彼に譲ったおかげで、A医大やB大の機器を利用できるようになりました。その後は上述のように、遺伝子診断等が登場してくるわけです。
 病理診断は「がんの診断」の最終診断ですから、ミスがあってはなりません。遺伝子診断ないしゲノム医療の領域ももちろんですが、日常的には一般的な形態学的な病理診断の数は膨大です。乏しい数の専門医を補助するためにAIの活用も模索されています。これにより、病理医の仕事の軽減にもつながりますし、難しいケースでは、遠隔診断も実現しています。人手不足をいかに高度に進化した医療機器で補うか、今後の進化が期待されます。
 上述の記事では、私が今述べたような病理診断の現状というより、とにかく常勤の病理医が不在という事態はさけなければならないということです。しかし、絶対数が少ない場合、島根大学を中心とした病理診断ネットワークをつくり、遠隔診断センターとして浜田医療センターとつなぐ次善の策も必要となるかもしれません。またその方法でなければ、県西部のがん診療が機能しなくなるのではないか、と私は思います。
 きょうはこのへんで。今年もよろしくお願いいたします。