[1528]言いにくかった停戦ー佐藤優 その1

2月6日朝日新聞の「交論」「戦争の語られ方」を紹介します。一部を抜粋します。

言いにくかった停戦 現実とズレ

佐藤優さん 聞き手 編集委員・副島英樹 2024/2/6 

戦争の語られ方

 約2年前、ロシアがウクライナに侵攻し、日本でもにわかに関心が高まったが、様々な角度から成熟した議論をかわすのは案外難しい。主権を踏みにじられたウクライナへの同情的な声が圧倒的な中、即時停戦の必要性を説く作家で元外交官の佐藤優さんに話を聞いた。

 開戦から2年。祖国を守るウクライナに対する支援の機運が最近は変わってきたように感じます。

佐藤「世論や西側の対応は現実的になってきました。『ウクライナの必勝を確信する』と頑張っていた軍事専門家と称する人たちも、ウクライナの苦戦で、どのラインで戦争を終わらせるべきなのか苦慮している。でも私に言わせると当初から明白な話じゃないかと」 

――この間、即時停戦を言いにくい雰囲気を感じていましたか。

「言いにくいのは確かでした。でも早くやめないと、ウクライナ黒海に面した領域が全部ロシアにとられる可能性がある。米国の軍事支援が先細り、ウクライナは完全に弾切れを起こしています」 「今秋の米大統領選でトランプ前大統領が当選するような事態になれば、完全にはしごを外された形になる。ロシアは手加減しないでしょう。だから早く停戦に持っていかないと」

 

私の意見∶停戦をすべきだと私も思っています。ですがこのまま戦争をつづけると黒海に面したウクライナ領土をロシアにとられる可能性があるという理由からではありません。

 ロシアの越境侵攻を切り口としてはじまったウクライナ戦争は多くの労働者が犠牲になっています。戦争はアメリカをはじめとする西側帝国主義国家それぞれの思惑をこめた支援を受けたゼレンスキー政権と、中国や一部のグローバルサウスの国に支援されているロシアとの争いです。

 東西国家の利害対立がぶつかり合い、戦火が広がっているこの戦争は、ウクライナ、ロシアの労働者階級と家族の生活と生命の犠牲の上に泥沼化しています。

 この現状を拡大させないために、まず両国の労働者階級が政府に声を上げて停戦させなければならないと私は思います。

 どちらの国家権力が土地の領有権を得るかということ自体が労働者階級にとって問題なのではない、戦争のない暮らしができるかどうかということだと思います。民族的感情はあります。それは尊重しなければなりません。しかし根本的には民族意識は当該国の支配階級の利害に根ざすものではないでしょうか。

つづく