無見識さを露呈した「トリチウム汚染水は安全だ」と宣う福島県議。
このレベルの人らに安全性を判断させていいのか?
福島第一原発事故が起こってから、実に9年半という月日が流れ、人々の頭の中からはすっかり「放射能」の文字が消えつつあるわけですが、このタイミングで東京電力は、大量のタンクで保管している汚染水を海洋放出しようと準備を進めています。
「汚染水」と言っても、一応、ALPS(多核種除去設備)という装置を使って、ほとんどの放射性物質を取り除いたとされていて、残る核種は「放射性トリチウム」だけ。他の核種はだいたい取り除けても、トリチウムだけは簡単に取り除けないということで、この「トリチウム汚染水」を海に流すかどうかが議論されているわけです。(※この「トリチウム汚染水海洋放出」の問題は東電の隠蔽・捏造体質という問題も孕んでいます。その点については、牧田寛氏による過去記事をご覧ください)
タンクで保管するのはコストもかかるし、このままでは敷地も足りなくなってしまうということで、この汚染水を海に流すことができたら、ナンボも管理が楽になるわけです。しかし、そうは言っても放射性物質ですから、簡単に海に流すわけにもいきません。だから、東京電力は「トリチウム汚染水は安全だ」というキャンペーンを繰り広げ、とにかく「海に流しても大丈夫そうだ」という世論を作り上げたいと思っているのです。
空間線量を測って安全宣言する議員たち
11月25日、福島県議の渡辺康平さんが福島第一原発を視察した時の様子をSNSで報告していたのですが、この写真を見た瞬間、「ずこーっ!」と言いながら後ろに倒れそうになりました。きょうび、この程度の見識しかない人物が、歴史上例を見ないほど酷い原子力災害に巻き込まれた福島県の県議会議員をやっていて大丈夫なのかと思うレベルです。
あんまり詳しくない人が見れば、渡辺康平さんが汚染水が入っているボトルに、何やら機械を押し当ててニッコリしているので、「汚染水は安全かもしれない」と思ってしまうのかもしれませんが、福島第一原発事故の後、少しでも放射性物質や放射線量の測定について学んだ人たちが見れば、すぐに「こいつは何をやっているんだ?」と気づくはずです。
渡辺康平さんは「私達が測っているのは、トリチウムを含む処理水が入ったボトルです。放射線量が極めて微力のため薄いプラスチックボトルでも、放射線量に変化はありません」とツイートしているのですが、押し当てている機械は、日立アロカ製のガンマ線サーベイメーターです。簡単に言うと、空間線量を測るための機械です。
実は、「放射線」と一言に言っても、アルファ線、ベータ線、ガンマ線と大きく3種類ありまして、この機械はその中でも「ガンマ線」という種類の放射線を検知して、空間にどれだけの放射線があるのかを測るものです。皆さんも一度は耳にしたであろう「セシウム」という核種はガンマ線を出すので、この機械で空間線量を測れば、どれだけ汚染されているのかがわかるというわけです。ところが、「トリチウム」が出すのは「ベータ線」という放射線で、しかも非常に微弱なものです。つまり、ガンマ線を検知して空間線量を測る機械を押しあてたところで、機械が反応するはずがないのです。もし反応したのだとすると、それはもうトリチウムではない何か別の核種で汚染されている可能性があり、別の問題が生じます。つまり、ものすごくドヤ感を出して、トリチウム汚染水の入ったボトルに空間線量を測るための機械を押し当てていますけど、ものすごく意味のない、ものすごく頭の悪いことをしているのです。だから、「放射線量が極めて微力のため薄いプラスチックボトルでも、放射線量に変化はありません」というのは、そもそも間違いです。
そして、何より一番の問題点は、「処理水の安全性について、その場にいた全県議が科学的に確認することが出来ました」としているところです。そもそも測定のやり方を間違えているので、この方法で安全性を確認することはできません。大切なことなので、もう一度言いますが、「この方法で安全性を確認することはできません」。
放射線には3種類あって、それぞれ届く距離が違うことについては、全国の原子力発電所に併設されているPRセンターでも確認することができます。アルファ線やベータ線は、短い距離しか飛ばないので、例えば、危険度が高いとされるプルトニウムが放つアルファ線が紙1枚で止められるというのは有名な話。ただし、距離は短くてもエネルギーは強いので、例えば、肺に入って内部被曝するようなことがあると大変です。ベータ線も同様で、プラスチックボトルの厚みを超えることはできません。さらに、水そのものに遮蔽する効果があるため、これではガンマ線を出すセシウムで汚染された水を測ろうとしても、正しく測ることはできないのです。つまり、さまざまな観点から、これは正しくないのです。
おそらく渡辺康平さんは、いちいち議員の紹介とともに所属会派を紹介していましたので、自民党だけでなく、共産党や県民連合の人たちも安全を確認したんだと言いたかったのかもしれませんが、このツイートによってバレてしまったのは、自民党だけでなく、共産党や県民連合の人たちも、原発事故後の放射性物質がもたらす人体への影響などについて、今日までろくすっぽ勉強しておらず、「無知だった」という恐るべき事実です。トリチウム汚染水を測るのに、ガンマ線の空間線量計を持ってこられて、「待て待て待て!」と言わない時点で、安全性をジャッジする立場として全く相応しくないレベルです。
これはもう、原発事故後も勉強していない集団の自己紹介でしかありません。なにしろ、原発事故が起こるまで、原子力発電の仕組みが核と核がぶつかり合ったら電気が生まれるのかなと思っていたレベルの人間(原発事故が起こって地元が放射能の「ホットスポット」と呼ばれるようになってしまったことで勉強せざるを得なかった一市民)が簡単に気づいてしまうようなことを、地元が福島の県議のくせに気づかないのです。そして、その程度の見識しかない県議が揃いも揃ってデタラメを流して、県民に「トリチウム汚染水は安全だ」という宣伝を始めているのです。
本来、こんな機械を持ち出して安全性を証明しようという東京電力に「ナメとんのか、ワレ!」と言わなければならない人たちが、まんまとプロパガンダに参加している現実。その先頭に立っているのが、日頃から福島の風評被害がどうたらこうたらと述べている渡辺康平さんです。しかし、どうして風評被害が広がるのかと言ったら、こうやってデタラメの科学で安全性を主張してしまうものだから、ちゃんと安全かどうかを確認したい人たちからすると、逆に「不安にしかならない」からです。自分たちが無知で無能だから人々を不安にさせているということに、ちゃんと気づいていただきたいです。
トリチウム汚染水を飲めると豪語する人たち
トリチウム汚染水にガンマ線サーベイメーターを当てて「みんなで安全性を確認した」と言ってしまう渡辺康平さんなので、今度は東京電力に「処理水ボトルの水は飲めるのか?」という質問をしました。
だいたい原発推進系の御用学者たちは「プルトニウムは食べても安全」とか「プルトニウムは重たい原子なので遠くに飛ばない」とか言ってしまう人たちなので、何を言うのかと思えば「煮沸すれば飲める」という斬新なお答え。
もし本当に「煮沸すれば飲める」というのであれば、こんな朗報はございません。それが本当ならわざわざ海の流さなくても、万事解決する方法があります。こんなものを海に流そうとするから、みんなが心配しちゃうのであって、みんなで煮沸して飲めばいいじゃありませんか! まずは「飲める」と言っている東京電力の社員とその家族から。次いで、その話を聞いて「なるほどガッテン」をしている渡辺康平さんをはじめ、その周辺の議員と家族から、煮沸すれば飲める健康にも何も問題がないというトリチウム汚染水を飲めばいいのです。みんなで飲めば、わざわざ海に捨てなくてもタンクの水を減らせるじゃありませんか! さあ、今日から飲みましょう!
間違いを指摘されて逆ギレする渡辺康平議員
渡辺康平さんの、 ちなみに、「処理水ボトルの放射線量は、0.12マイクロシーベルト、対比する市販の家庭用ゲルマニウム温浴ボール1.38 マイクロシーベルトでした。」という、間違っているツイートに対し、連日、東京電力の記者会見などを取材している「おしどりマコ」さんが 0.12μSv/hはBGでH3のβ線は測れていません/ゲルマ温浴ボールは水だけではなくボールが入ってます?/ラジウム岩盤温泉もけっこう高いですよね/で、問題はそこじゃ全く無いんです/原発事故で放出された核種が環境中に制御されず散らばってることが問題なんです/無意味な比較にいつまで騙されるのでしょう”と、その間違いを指摘しました。
ちょっとだけ専門的なので解説しますと、渡辺康平さんがツイートしている0.12マイクロシーベルトというのはバックグラウンド(その場所の空間線量のこと)であって、H3(三重水素=トリチウム)のベータ線は測定できていない。ラジウム岩盤温泉しかり、自然界にも放射線を出すものは存在し、空間線量が高くなるという現象も見られますが、問題は自然界にあるものではなく、原発事故によって自然界には存在しない核種がばら撒かれ、それが人体に影響を及ぼすかもしれないことだという話です。
おしどりマコさんのこの至極真っ当な指摘に対し、渡辺康平さんが言ったことは「福島の食べ物について『食べて応援は自殺行為』と自らの講演の告知に書いたのは事実か否か、はいかいいえでお答え頂けますか?」です。会話が噛み合っていません。
そもそも告知を作ったのはイベント主催者側で本人ではないだろうし、この「食べて応援は自殺行為」という文言も、政策についての話であって、「福島の食べ物」をピンポイントで言及するものではありません。
だいたい食品の放射能汚染は福島限定で起こっているものではなく、遠く離れた長野県や静岡県でもキノコなどは100ベクレルを超えるものが見つかります。本当は東日本全体の問題なのに、福島の議員がわざわざ「福島の食べ物」と括ってしまう。それで「風評被害だ!」と言われても、「風評被害を作り出しているのはオマエなんだよ!」という話にならないのでしょうか。
「はいかいいえでお答え頂けますか?」とか言っていますけど、もし主催者が書いたことに加え、福島の食べ物について語っているものではないということで「いいえ」と答えたとしても、きっと渡辺康平さんは「そうは言っても、ここに書いてあるじゃないか! ここに揺るがぬ証拠があるのにシラを切る気か!」と言ってくるのではないかと思うのです。
そんなことより、県議である自分が無知なのか確信犯なのかわかりませんが、デタラメ科学を吹聴し、トリチウム汚染水の大安全キャンペーンを繰り広げていることの方がよっぽど問題だと思わないのでしょうか。
ちなみに、実際のやり取りについては、おしどりマコさんが「発言したこともありませんし、私の講演動画はWebに数多く上がっておりますが、一度もそのような内容はありません。また私が関わったとする虚偽の記事をWebに書かれたライターの方もおられましたが、虚偽の内容だと抗議したところ、講談社からは事実確認が取れていない内容とご迅速に対応頂きました」と、講談社の回答書まで添付して説明。これに対して渡辺康平さんがどうリアクションするのかなと見ていたら、「質問と回答が違います。はい、いいえ、で答えられる質問です。何か答えられない理由でもありますか?」でした。
そんなわけで渡辺康平さんには、マジでその方法でトリチウム汚染水の安全性が確認できると思っているのかどうかを「はい」か「いいえ」でお答えいただきたいと思います。
選挙ウォッチャーの分析&考察
東京電力からガンマ線の空間線量計を渡されて、トリチウム汚染水の入ったボトルに押し当てて「科学的に安全が確認された」と言ってしまう福島県議の視察団。
知識のレベルが素人以下という無知無見識な軍団が、何も勉強することもなく、何もわからないまま、トリチウム汚染水を海に流していいのかどうかを決めようとしているのです。トリチウムがベータ線を出すことすら知らないということは、「トリチウム」と「鳥貴族」の区別すらつかない可能性もあるんじゃないでしょうか。どいつもこいつも雁首揃えて誰もツッコまないどころか、まんまと東京電力のデタラメ科学プロパガンダに利用されるだけの福島県議会議員団。事故のあった建屋を見下ろせる高台で、のんきに記念写真を撮ってる場合じゃありません。今すぐ勉強して出直してくるべきでしょう。
<文/選挙ウォッチャーちだい>
ハーバー・ビジネス・オンライン 2020/11/29からMSNに掲載された文を引用しました。
※※※ 石川木鐸(ぼくたく)のコメント
新型コロナの「罹患者・死者の爆発的増加」の最中ですが、12月5日には「大飯原発」に関して地裁は、「審査すべきところを審査していない」と原子力規制委員会の姿勢を厳しく批判し、関西電力大飯原発3,4号機(福井県)の設置許可を取り消しました。政府が「世界一厳しい」と自負し、再稼働のよりどころとする新基準に基づく審査を地裁は否定したのです。2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標の梃子(てこ)にしている原発の活用をもくろんでいる政府&業界に「少し」打撃を与えました(202012・5北海道新聞の報道より)。「少し」と言うのは、たいてい、控訴され、高裁・最高裁では、政府の言い分が通ることが9割9分以上だと過去の事例から予想するからです。
女川原発の再稼働も、地元の町が原発がある2市町のうち女川町では9月、町議会が再稼働に賛成する陳情を採択。もう一つの石巻市は半月後、市長が再稼働に同意する考えを表明し、県議会も10月、再稼働賛成の請願を採択する形で早期の再稼働を「容認」しました。
地元に落ちる「お金」が馬鹿にならないからなのは、北海道の「寿都(すっつ)町」などと同じです。もしものことがあって「避難」する道幅の狭きことなどお構いなしで、再稼働に賛成しました。(2020.11.11 朝日新聞論説より)
福島で菅首相が、ペットボトルの中の「トリチウム入りの濾過水」を飲む「パフォーマンスス」をして見せたのは、「トリチウム入り」の水が、ここに書かれている記事の筆者のように、放射能が基準値を超えてこないと事前に福島市の職員から聞かされて、分かっていたからです。もし、プルトニウム入りの水が入ったペットボトルなら、菅に汚染水入りのペットボトルを持たせなかったでしょう。
話は逸れてしまいましたが、この記事の核心は、原発推進系の御用学者たちは、「プルトニウムは食べても安全」とか「プルトニウムは重たい原子なので遠くに飛ばない」とか言ってしまう人たちがいると揶揄されるほどの「工作」を、やってのけてしまうということです。(むろん、賄賂工作はお手の物です…)
これから2050年までに「温室効果ガス排出量を実質ゼロ」にするという「空想的な」目標を目玉商品にして掲げている菅政権は、六ケ所村のMOX燃料や核のごみ作りにも専念することでしょう。しかしながら、六ケ所村の工場は、また、故障する可能性の方が極めて高いと思いますが。
ともかくも、原発の再稼働に反対するために、読者の皆様、労働者の皆様、学生の皆様、一致団結して、反対の声を上げていきませんか!!
新型コロナ感染爆発の中、自粛している間にも、原発や放射能について基本的なことを学ぶには適していると思うのですが、いかがでしょうか!! 小出裕章(こいでひろあき)氏の諸著作を読んで勉強しましょう!!