[1359]トリチウムについて毎日新聞の解説ー2

前回のつづき

毎日新聞をつづけて引用して私の意見を述べます。

 

海に流して大丈夫?
 国の基準では、トリチウム水1リットル当たりの濃度が6万ベクレルを下回らなければならない。なぜ6万ベクレルか。この濃度のトリチウム水を生まれてから70歳になるまで毎日約2リットルずつ飲み続けても、被ばく線量が1ミリシーベルトに達しないからだ。1ミリシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)が許容している1年間の被ばく線量だ。

 しかし、海に流すと風評が懸念されるため、東電は国の基準の40分の1(1500ベクレル)未満になるよう大量の海水で薄めてから海に流す。経済産業省によると、世界保健機関(WHO)の飲料水のガイドライン(1万ベクレル)よりも低いレベルだ

 

私の意見:ICRPの安全基準を仮に正しいとして論じます。危険性があるのはトリチウム入りの飲み水(自然水)ではありません。恐いのは体をつくっている脂肪やタンパク質などに有機的に結合したトリチウムによる内部被曝です。飲んだ2リットルの水の中のトリチウムは尿や汗として体外に排泄されますが、有機結合型トリチウムはより長く体内に留まりβ線を出し続けます。放射線治療医の西尾正道氏の著書『被曝インフォデミック』では次のように言われています。

トリチウムの化学的性質は水素原子と変わりなく、体内動態は水素であり、どこでも通常の水素と置き換わる。成人の体重の約60%を占めている通常の水(H²O)は『HHO』であるが、トリチウムを体内に取り込んだ場合はトリチウム水(HTO)の形で体内に存在する。経口摂取したトリチウム水は尿や汗として体外に排泄されるので、生物学的半減期が約10日前後であるとされている。また、気体としてトリチウム水蒸気を含む空気を呼吸によって肺に取り込んだ場合は、そのほとんどが血液中に入り細胞に移行し、体液中にもほぼ均等に分布する。問題なのは、トリチウムは水素と同じ化学的性質をもつため体内では主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物に結合し、化学構造式の中に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウム(OBT)となり、トリチウム水とは異なった挙動をとることである。この場合には一般に排泄が遅く、結合したものによってトリチウム水よりも20〜50倍も長くなり、結合しているものによっては年単位で結合した部位でβ線を出し続ける。エネルギーの高いβ線よりも電離密度が高く、より深刻な分子切断が生じることになる。」「人間は若いほど体内の水分成分が多いため、若いほどよりトリチウムの影響は強くなると考えられる。人間の年齢による水分含有率は、胎児∶90%、新生児∶75%、子ども∶70%、成人∶60%、老人∶50%である。」(108〜109頁)

 また年間被曝線量1ミリシーベルトというのは6万ベクレルの線量を全身被曝線量に延べて換算したものです。内部被曝のように局所的な被爆を表現する単位ではありません。例えば「ICRP主張では7SVの全身被爆が致死線量とされている。しかし放射線治療ではその10倍の線量を病巣に照射するが、死ぬことはない。」(『被爆インフォデミック』25頁)シーベルト内部被曝の危険性を隠蔽するためのキーワードにされています。

 

トリチウム放出は福島第1原発だけ?
 世界の原子力施設でも、トリチウムは海や河川に放出されている。カナダや中国で使われている重水炉や、使用済み核燃料の再処理施設では、発生するトリチウムの量が桁違いに多い。第1原発の年間放出量は22兆ベクレル未満だが、中国の秦山第3原発では143兆ベクレル、フランスのラアーグ再処理施設では1京ベクレル(京は兆の1万倍)に上る。日本に建設中の日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)は年間上限が9700兆ベクレルで、第1原発の400倍以上だ。ただ、第1原発の水は直接燃料デブリに触れており、発生原因が他の施設とは異なる。

 

私の意見:膨大な量のトリチウムが海洋に流されています。毎日新聞は中国やカナダ、フランス、六ヶ所村の再処理工場の方が福島の処理水のトリチウムより多いということによって、福島第一原発処理水の放水の危険性を相対化して容認する方向に読者を誘導しています。

 こういうことをメディアが広報していては、ますます自然環境を放射能で汚染することを助長し、がんをはじめとした健康障害が必然となります。