[479](寄稿)積極的疫学調査と変異株検査のデタラメ

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ペンギンドクターより
皆様
 またまたMRICからの情報を転送します。
 PCR検査ですが、偽陰性偽陽性があるのは検査では当たり前のことです。しかし現時点で新型コロナ感染症に罹患しているか否かの診断はPCR検査以上の検査はないのです。厚労省一派、さらに当初の感染症学会の幹部たちの、PCR検査忌避は、まさに犯罪と言えるでしょう。こんなことは、すでに一年以上前から、私のような感染症に素人の医者だって、わかることです。黒木登志夫氏と同様に私もインターネットで情報を収集し、多少の厚労省の役人との接触から、彼らに内在する思考回路を絡ませると、厚労省の連中の省益だか何だか知らないけれども、国民重視の視点の欠如した医系技官に対する怒りがわくのは当然でしょう。

 ということで、以下の保健所勤務の保健師さんの意見をお読みいただければ幸いです。保健師というのは看護師免許に加えて所定の保健師養成課程(1年以上)を修了し、保健師国家試験に合格する必要があります。保健師の仕事は広範ですが、「予防医療」が主となります。2017年における東京都の保健師の初任給は22万7800円のようです。もちろん本俸だけでこの金額です。優秀な保健師は医師以上に行政の現場では役に立ちます。そして彼らも疲弊しているはずです。

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積極的疫学調査と変異株検査のデタラメ


首都圏の保健所に勤務する保健師

2021年4月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp

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3月6日一都三県の緊急事態宣言延長が決定された。その後、神奈川県黒岩知事の発言により、知事の間で足並みが揃ってないこと、知事達が自ら調べて自ら考えず、周囲に流される形で宣言延長を決定したことが明るみになった。コロナ感染が拡大蔓延し、さらに、経済が悪化したこの現状に至ったのは、政府、分科会を始め、各自治体の首長等、方針決定をする立場の人達が現状を把握せず、思い込みで方針を決めた人災であると言える。

この文章では実際の事例を交え、感染が拡大した原因を明らかにすると共に、今後、コロナ感染の拡大を防ぎながら経済を悪化させず生活を守っていくための改善策を述べたいと思う。

令和2年4月20日、国立感染研の新型コロナウイルス感染患者に対する積極的疫学調査実施要項が改訂され、濃厚接触者の定義が「発症2日前以降に1m以内でマスク無しで15分以上会話した者」「マスクの有無に関わらず車に同乗した者」「同居者」となった。

厚労省が指示した濃厚接触者をマスクの有無で選別し、PCR検査の対象を搾る方法を行った結果、市中感染が広がり、人口が多い自治体を筆頭に感染制御できない状態になった。感染経路不明者が65%を占め、もはや疫学調査の意義は低下していった。

令和3年1月8日付、厚労省から「新型コロナウイルス感染症に関する保健所体制の整備と感染拡大期における優先度を踏まえた保健所業務の実施について」の事務文書がでた。これにより、保健所による濃厚接触者の取り扱いについては、地域の感染状況を踏まえて各自治体の判断によるところとなった。

神奈川県では令和3年1月9日から一般感染での積極的疫学調査対象者を縮小し、調査対象は「同居家族」「重症化リスクがある者」「クラスター発生リスクがある立場の者」を優先することした。東京都、埼玉県(埼玉県は一部保健所設置市を除く)でも、濃厚接触者の対応を変更した。これにより、職場同僚や友人には調査を行わないこととなった。

以前の調査方法では、Aさんが陽性者となった場合、「職場でのマスクの有無」、「発症2日前以降に友人等と会ったか」、「マスクを外して食事・会話をしたか」を確認していた。が、今回の変更で濃厚接触者が職場の人間や友人の場合、マスクの有無に問わず、保健所経由でのPCR検査対象外となった。 すなわち、Aさんが陽性者となった場合、Aさんの友人Bさんが、濃厚接触者の可能性があれば、AさんからBさんに直接濃厚接触者であることを伝えてもらい、Bさんの判断で14日間の自宅隔離や健康観察、かかりつけ医への相談、PCR検査の施行を行ってもらうこととなり(この場合のPCR検査は公費負担になる)、保健所経由のPCR検査は無くなった。一見、検査対象を大幅に減らしたように思えるが、もともとマスクの有無で選別していたので、職場等でマスクをしていた場合は、以前より検査の対象から外れていた。今回の変更では会食時の友人等が外れた程度である。したがって、積極的疫学調査の業務負担は減ったが、PCR検査対象者が大幅に減っているわけではない。

なぜ、ここまで制御不能になるまで拡大したか?ここで実例をあげる。

まずは集団検査が行われなかった例を2つ取り上げてみよう。

1つは会社勤務員が感染した例である。

会社員Aが体調不良を感じつつ公共交通機関を利用してマスクをして出勤。翌日、38℃代の発熱あり仕事を休み保健所に連絡。保健所からPCR検査ができる医療機関を紹介され、発症2日後にPCR検査施行。翌日陽性と判明した。会社員Aはマスク着用で出勤、昼食時も他社員との同席はなかったため、職場での濃厚接触者なしとのことで社員への集団検査はなかった。

2つ目はパチンコ屋利用者が感染した例である。

咳嗽あるもパチンコ屋に6時間滞在。次の日午前中パチンコ屋3~4時間利用後、味覚障害が出現したため、午後保健所へ相談。発症から2日後PCR検査施行、同日陽性と判明。マスク着用をしてパチンコ屋を利用していたとのことから濃厚接触者なしとのことで集団検査はなかった。

続いて、自治体により「濃厚接触者の解釈」の違いから、同じ状況でも対応が異なる小学校での感染事例を述べる。

集団検査を行った自治体Cのケース。

学童Aが発熱を訴えかかりつけ医を受診。翌日PCR検査を行い、発症から2日後陽性と判定した。陽性判明後、Aの行動調査を行いながら、すぐに同クラスを学級閉鎖し、クラスの学童をPCR検査対象者とし、翌日に検査を施行した。検査は、校庭に停車した車内で検査キットを渡して保護者が採取し、乗車したまま検体を回収するドライブスルー方式で行われた。集団検査の2日後に同クラスの2名が陽性判定。この2名にコロナ症状なし。検査後学童Aのクラスは14日間の学級閉鎖となった。

集団検査を行わなかった自治体Dのケース。

学童Bが学校から帰宅後咳嗽、悪寒を訴え、かかりつけ医を受診し内服薬処方された。翌日発熱がみられ、学校を欠席し再度かかりつけ医に受診。発症2日後にPCR検査を施行し、翌日陽性と判明。行動調査を行ったところ、学校にはマスク着用で登校し学校生活でもマスク着用。給食時も会話なしとのことで、濃厚接触者なしとみなされ集団検査は行われなかった。

こうした学校でのケースについて、前者の自治体はマスクの着用の有無に関わらず検査を実施。一方で、後者の自治体はマスクの着用を確認してから判断していた。マスクの有無の裁量は自治体に任されるのである。

これらの事例で言えることは、「マスク着用の有無で検査対象者を判別する」という政府の方針を忠実に守った自治体では感染が拡大していったということだ。厚労省や分科会による人災とみなすこともできる。

一方、和歌山県は発生当初からPCR検査を積極的に行っていた。会社員が感染した時は社員全員、また病院内で感染者が発生した時は、病院スタッフ全員にPCR検査を行うなど、厚労省の方針を鵜のみにせず、「感染を広げない」という、一貫した保健医療行政を行っていた。そのため、感染拡大を食い止めたのと同時に、感染者における、感染経路不明者は全国と比べてとても少なく、感染制御不能に陥ってはいない。

以上のことから考えると、各自治体の首長は、今までのように、ただ国の方針に従えばいいという受け身の姿勢ではなく、科学的データをもとに、どんな対策をするべきか、自ら調べ考えて、行動する力が求められると言えよう。東京都世田谷区では、区独自の方針で福祉施設職員に対しプール方式によるPCR検査を積極的に行い、それを後から厚労省が国の方針としたという経緯がある。

次はタイプの異なる集団感染事例を紹介したい。

まずは、福祉施設クラスターとなった事例である。

入居者Aが発熱し、翌日受診しPCR検査陽性で即日入院。入居者Aが発症した2日後、別の入居者4名から体調不良の訴えあり即日PCR検査を行い4名とも陽性となる。同日、職員2名も体調不良の訴えがあり、その日に施設入居者、職員等利用者全員に対しPCR検査を実施。翌日、前日に体調不良を訴えた職員2名が陽性と判明。利用者18名、職員10名の計28名が陽性確定。このうち発症した施設利用者6名、職員2名を除いた20名は発熱などのコロナ症状はなかった。入居者Aの発症日から5日後、陽性なった職員の家族にPCR検査を行う。同居家族はすべて陰性であった。

ここで、感染者数だけに注目すると驚くが、この場合の感染者は施設内で留まっており、市中感染とは性質が異なる。職員も仕事柄会食は控えていたとのことで一緒に食事をしていたのは家族のみであった。

もう一つは、保育園で潜在的に集団感染が疑われる事例である。

保育士Aが発熱、全身倦怠感訴え近隣のクリニック受診し、翌日PCR検査を施行した。検査翌日陽性と判明しAの同居者にPCR検査施行した。14日間の行動調査を行うと移動は自宅と職場、および仕事帰りに買い物に寄ったスーパーであった。通勤は自家用車を利用し、接触があったのは職場の同僚、園児、同居者のみであった。同居者は濃厚接触者のためPCR検査を行ない全員陰性であった。保育園では他の職員、園児もマスクをしているとのことで濃厚接触者なしとのことで集団検査は行われなかった。

保育士Aが発症した15日後、別の保育士Bが発熱を訴え、かかりつけ医受診。職場にコロナ陽性者がいたとのことで PCR検査を行ない、翌日陽性と判明した。行動調査では自宅と職場の移動のみで、仕事帰りにスーパーに寄り、 通勤は自家用車とのこと。Bの同居者にPCR検査施行。結果は全員陰性。 園への対応は保育士Aの時と同様で、濃厚接触者なしと判断し集団検査せず。

保育士Bが発症してから20日後、調理員Cが体調不良を訴え、かかりつけ医受診。翌日PCR検査を行う。検査翌日陽性と判明。行動調査では保育士A、Bと同様、自宅と職場の往復のみで自家用車で通勤。 買い物も宅配を利用しているとのことで発症前14日間はどこにも出かけていない。Cの同居者にPCR検査を施行。結果は全員陰性。保育園は前回と同様、濃厚接触者なしとのことで集団検査せず。

この保育園では3人の陽性者が出ているが、保育園ではマスク着用、職員の発症間隔が14日以上空いているとのことで、集団検査対象になっていない。

しかし、発症者の同居人は全て陰性であることや、保育士AとBがそれぞれ異なるスーパーを利用していることから、保育園内潜在的に感染が広がっている可能性が高いが、職員および園児全員検査をしないため断定はできない。

この二つの事例から言えることは、集団の中で陽性者がでた場合、とにかく、迅速に検査をすることが感染拡大を防ぐことであると言えよう。「一人の感染者がでてから、日数が経過しているから濃厚接触者ではない」などと悠長なことを言っていると、どんどん感染が拡大するのだ。

また、施設でのクラスター発生で感染者数が増えた状況をみただけで、科学的根拠に基づかない、思い込みで分析して飲食店に制限をかけるのは愚策ということだ。

本日、「感染者減少の鈍化」、「リバウンド」が心配などと述べ、一都3県では緊急事態宣言が延長された。

2月16日から3月1日までの東京の感染状況のデータをみると、感染経路で多いのは、病院施設等と同居者である。

年代別でみると、80才代が約200人弱で最も多い。感染経路をみると施設が最も多く、次に同居者となっている。また、各年齢の感染経路においても「同居」が最も多くなっている。実際、保健所経由の濃厚接触者のPCR検査は同居家族や重症化しやすい高齢者、医療福祉施設となっているためこのようなデータになっていると推測する。

小池都知事は「行動抑制が最も効果的な感染拡大方法」だと述べていたが、これはデータに基づかず、科学的根拠のない思い込みからくる方針で到底納得できない。むしろ、行動を抑制し、全ての飲食店に制限をかけることは、経済が悪化し、生活困窮者や自殺者を増やすリスクが高まるだけだ。

データに基づいて対策を講じるならば、まずは80才代の感染者を減らすことだ。このためには病院や施設職員のPCR検査を繰り返し行うことが重要だ。職員が感染を持ち込まなければ、施設利用者が感染することはない。これにより、全体の感染者数も減り、重症化や死亡者も減らすことができ、さらに、病床圧迫も防ぐことができる。筆者が在籍する保健所でも、死亡や重症化していたのは、施設入居者や加齢にともない身体活動能力の低下したフレイルの人であった。

政府や一都三県の知事を見ていると、コロナの感染者を減らすことしか考えておらず、生活困窮者やコロナによって引き起こされた精神疾患者や自殺者のことは全く考えていないように見える。「国民の命を守る」というのなら自殺者が増えていることも見過ごしてはいけない。

国民の生活を守り、経済悪化を防ぎながらコロナ対策を考える必要がある。政府や知事は、思い込みや一部の世論に流されず、科学的根拠に基づいた政策を行うことが求められる。まずは病床逼迫の状況について事実をしっかり把握する。その上で、病床をしっかり確保し、逼迫を未然に防ぐことが急務である。そしてエッセンシャルワーカーには繰り返しPCR検査を継続的に行い、感染拡大時に備え医療現場や保健所での人員を確保するための協力体制を構築しておく。今から対策を講じておけば、再び緊急事態宣言を出して国民に負担を強いることは避けられる。

今後も感染を無くすことは難しい。そのような状況で飲食業の営業短縮や国民に行動制限をかけるだけの今のやり方では感染制御できないと同時に自殺者、生活困窮者も増やすだけだ。

国民の命と生活を守るために、政府や知事は改めて対策を検討してほしい。

最後に、今懸念されている変異株について現状を伝えつつ、各自治体の首長に今後求められる能力について述べたい。

変異株のゲノム解析はほぼ全て国立感染研と一部の地方衛生研で行われている。

現在、PCR検査の95%以上は民間委託になっているが、これら民間で検査した検体は地方衛生研や国立感染研に検体が回らないため変異株ゲノム解析をしていない。施設で集団感染が起こり、たまたま衛生研がPCR検査した場合、衛生研、もしくは国立感染研に検体が回り、変異株検査が行われている。自治体によっては民間で検査した検体の一部を独自の検査組織で簡易検査し、陽性となったものを国立感染研に回してる場合もあるが、民間でPCR検査したケースの90%以上は変異株検査をしていないのが現状だ。

厚労省は全体のPCR陽性者のうち5%~10%検査をすれば全体の変異株の広がりがわかると述べた。その後、田村厚生大臣は40%まで増やしてスクリーニングすれば全体像がわかり感染拡大を抑えられると話していた。

国立感染研の2/25付発表によると国内感染の93%は海外渡航歴のない人であったとの報告から見ても、おそらくすでに変異株は感染蔓延状態になっているであろう。このような状況で全体の陽性者のうち40%検査したところで感染を防ぐことができないことは、コロナの初動対応で、PCR検査を抑制したことで感染拡大させてしまったことを鑑みればまた同じ間違いをするのは明確だ。

神戸市は市独自で市内医療期間と連携して全陽性検体の60%を神戸市環境保険研究所でゲノム解析を行っている。また、大阪府は大阪健康安全基盤研究所(大安研)や医療機関、検査会社などが協力して簡易検査を行っている。変異株陽性が判明すると、調査範囲を広げて濃厚接触者でなくても疫学調査を実施している。二つの自治体とも国の指示を待たず、独自の保健行政指針を掲げ感染蔓延予防に力をいれている。このように、変異株の対応は地域によって温度差がある。

現在数種類の変異株が存在している。中には、英国の論文で死亡に至る変異株があると発表されているものもある。また、ウイルスが変異することは、昔から変わらない公知の事実であることから、ゲノム解析を民間で迅速に検査できる体制を早急に整備しておくことが必要だ。

新型コロナウイルス発生当初のように感染制御不能になるような初動ミスが二度と起こることがあってはならない。

今の政府が事実を把握する力もなく、分析を見誤り、メチャクチャな方針で政策を行っている中、各自治体の首長はいつまでも国に頼る姿勢でいてはその地域に住む人達の生活を守ることはできない。変異株、ワクチン対応、経済対策等、彼らにはあらゆることに対し、地域の現状を正しく把握、分析し、科学的根拠を元にした政策決定と共に地方から国を変える気概とリーダーシップが今後は求められる。

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