[1238](寄稿)医療あれこれ(その82)ー2

 
訂正があります。〈編集者〉
ペンギンドクターより。
「誤診」が多いというところで、沖中重雄虎の門病院院長(東大名誉教授)の病理解剖での「正診率」が50数パーセントというのは80数パーセントの間違いでした。大幅な数字の変更になります。沖中先生の東大病院退官記念講演でのデータですから、東大病院での病理解剖の結果です。50年以上前の結果です。私のイメージの中に、誤診はもっと多いはずだという考えがあって、記憶がずれていったのだと思います。訂正します。
 「誤診」や「医療事故」などについては、いずれ、さらに詳しくお話したいと思います。
以上。
[1237]の当該部分も正しい数字80%に訂正してあります。〈編集者〉
 
ペンギンドクターより
その2
 以下、転送する内容は、ここに何度も登場させた山本医師の報告です。今回のポイントはアメリカの医療医学研究の底の深さです。社会の変化と医療との関わりの研究は日本が最も遅れている分野だと思います。
 単純にサマータイムの是非ではなく、データに基づいた是非を語るアメリカの研究には敬服します。コロナの経験が日本で生かされるか、原発事故の放射線漏れが実際にどのような長期的影響を与えるのか、これからの学問的検討にかかっていると思います。イデオロギー抜きの研究を期待します。
 
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 この原稿はAERA dot.(2023年3月22日配信)からの転載です。
 
 内科医
 山本佳奈
> 2023年4月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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 日本において新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の一つであったマスク着用のルールが3月13日から緩和され、着用の目安を提示した上で「 個人の判断に委ねられる」ことになりました。
 
 それに伴い3月18日と19日の両日にマスク着用の機会の変化について尋ねた朝日新聞世論調査があります。その結果「マスクを着けることが減らなかった」と回答した割合は74%であり、「減った」と回答した23%を大きく上回ったことがわかりました。「マスクを着けることが減った」と回答した男性は29%、女性は17%と男女差があり、年代別では18~29歳で33%と多めだったといいます。
 
 また、「マスクを着けることが減らなかった」と答えた人に理由をねたずたところ、「感染対策のため」が50%、「花粉症だから」が21%、「マスクが習慣になったから」が15%、「周囲が着けているから」が10%、「顔を隠せるから」が3%であったことも報告されています。
 
 東京在住の同世代の友人に直近のマスク着用の様子をたずねたところ、「(私は)外出時はマスクをまだするようにしているわ。マスクの着用については人それぞれの印象で、渋谷に行った時は心なしかマスクをしていない若い人が多かった気がする……」という回答が返ってきました。
 
 日本にも数年間滞在歴のある米国在住の友人は、「やっぱり(まだ半分の人が)マスクをしているなんて日本らしいね。個人の判断とはいえ、周囲の様子に合わせないといけないという日本独特の雰囲気が想像できるよ」と言います。私がもし日本にいたならば、上述の世論調査でマスク着用の機会が減らなかった10%の方と同様、日常生活をする上で、周囲の様子を気にしながらマスクの着用を選択せざるを得ない状況に多々遭遇していたのではないかと想像しています。
 さて、サンディエゴに長期滞在している私は先日、人生で初めて時計を1時間進めるということを経験しました。デイライト・セービング・タイム(Daylight Saving Time:DST)のことであり、サマータイムとも呼ばれています。毎年3月の第2日曜日から11月の第一日曜日の間、時計の針を1時間進める制度のことで、日照時間が長くなる時期に時間をずらすことで自然光の使用率を高め、電力を節約することが目的とされているようです。
 サマータイムの始まりはSpring Forwardといい、春は針を前に進める、つまり時計を1時間進めることで時間を変更します。サマータイムの終了はFall backといい、秋は針を後ろに戻す、つまり時計を1時間戻すことで時間を変更するという仕組みです。
 
 「そろそろサマータイムになるよ」と聞いてはいたものの、いまいち理解できていなかった私がまず驚いたのは、壁掛け時計とスマートフォンの時間のずれでした。3月12日の朝、部屋の時計は8時を指しているのに、枕元においていたスマートフォンの時計は7時と表示されている事態に、私の頭はしばし混乱してしまいましたが、目が覚めてきてようやく「これが時間を早めることなのか」と理解することができたのでした。
 
 しかし、サマータイムに身体が慣れるのはそう簡単ではなかったのです。起床時間を1時間早めるだけじゃないかと思うかもしれませんが、これが私にとっては想像以上に辛く、移行後1週間ほど、起床することができない状態が続きました。夜も、21時には眠たくなる日もあれば、翌日は23時を超えても眠れなくなるなど、時間を1時間早めるだけでこんなにも身体に影響が出ることを、身をもって体験することになったのでした。
 
 サマータイムに移行することで、暗くなる時間が1時間遅くなります。そのため、勤務後も明るいうちから自由時間を多く取ることができ、外出しやすくなるというメリットがあります。その一方で、サマータイム移行に伴う健康影響は多数報告されており、標準時間と夏時間の移行の問題についてアメリカでは激しい議論が繰り広げられてきたようです。
 
 特にサマータイムへの移行期は心筋梗塞脳卒中、および急性心房細動の発生による入院のリスクを含む心血管疾患の罹患率の増加と関連しているほか、睡眠障害気分障害、および自動車事故のリスクの増加を含む深刻な影響が多数指摘されています。車社会と言っても過言ではないアメリカですが、なんと春における サマータイム への移行後の最初の数日間は、自動車事故による死亡リスクが 最大6% も増加することをコロラド大学ボルダー校のJosef氏らは報告しています。彼らは、概日リズムのずれと睡眠不足が、自動車事故リスクの急激な増加に重要な役割を果たしている可能性があることを指摘しています。
 
 サマータイムへの移行は、公衆衛生及び安全上にも深刻な影響を与えているようです。例えば、メイヨークリニックのBhanu氏らは、過去8年間(2010年から2017年)のインシデントの変化を調べた結果、サマータイムへの移行後の1週間の間に人的ミスに起因する可能性が高いインシデントが18.7%増加していたことを報告しています。
 
 また、カリフォルニア大学バークレー校のSimon氏らは調査の結果、米国におけるサマータイム移行時の睡眠時間の1時間短縮により寄付金が10%減少していたことを報告しています。筆者らは、睡眠の機会が 1 時間減少すると、他の人を助けたいという欲求が減るだけでなく、金銭的な寄付によって助けを必要としている他の個人を助けるという意思決定が損なわれることと関連していると指摘しています。
 
 想像以上に適応することが辛かったサマータイムへの移行ですが、さまざまな健康への影響が報告されていることを知るきっかけになったことは自分自身にとってよかったと今では思えています。11月に時間を戻す時にどうなるのか、また報告したいと思います。
 
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