[1288]ドイツ安保戦略を閣議決定

 ドイツが初の安保戦略を発表しました。

以下毎日新聞を引用します。

 ドイツ政府は14日、外交・安全保障の包括的な指針となる初の「国家安全保障戦略」を閣議決定した。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを「地域の平和と安全に対する最大の脅威」と位置づけ、国防費を国内総生産GDP)比で2%に引き上げる方針を明記した。中国については「既存のルールに基づく国際秩序の再構築を試みている」と警戒感を示した。

 戦略は、防衛▽レジリエンス(回復力)▽持続可能性――の三つの柱で構成。サプライチェーン(供給網)の見直しからサイバー・宇宙分野での防衛力強化に至るまで安全保障上の優先事項を取り上げた。

 ウクライナ侵攻により「時代の転換点(ツァイテンウェンデ)」を迎えたことから、特に重要なのは防衛力に対する投資だと指摘。北大西洋条約機構NATO)同盟国や自国を防衛する連邦軍を強化するため、GDP比1・5%程度だった国防費を「複数年の平均で2%」にするとした。

 ドイツは第二次大戦への反省もあり、軍備増強には慎重だったが、昨年2月のウクライナ侵攻を受けて国防予算を大幅に増額する方針を表明。「紛争地に武器を送らない」という原則も転換してウクライナへの武器供与を決めていた。

 中国については「パートナーであり、競争相手」と定義した。中国の覇権主義的な行動を「我々の利益や価値観と矛盾する」と批判する一方、気候変動対策などを念頭に「中国なしには多くのグローバルな課題を解決できない」と重要性にも触れた。独政府は、中国に特化した詳細な外交戦略を近くまとめる見通しだ。【ベルリン念佛明奈】

 

 シュルツ首相は昨年2月27日の連邦議会演説で「2月24日はわれわれの大陸の歴史の中でツァイテンウェンデとなった」と述べました。ロシアのウクライナ侵攻によって「時代の転換点」を迎えたという認識をもったということです。

 ツァイテンウェンデ(Zeitenwende) とは時代を意味する「Zeit」、方向転換を意味する「Wende」からなるドイツ語。この言葉は広く使われ、22年12月にドイツ語協会による恒例の「今年の言葉」に選ばれたそうです。

 というのは、2014年以降ウクライナ東部で続いたウクライナとロシア派住民との内戦をめぐって、ドイツ・メルケル政権はフランスとともにロシア、ウクライナの和平交渉の音頭をとり停戦にこぎ着けたのです。(ミンスク合意)註

 シュルツはウクライナNATO加盟問題でも調停にのり出したけれども、2022年2月24日にロシア軍は越境侵略に踏みきってしまいました。その侵略行動はロシアとウクライナ(≒NATO)との対立関係に従来の延長線を超えた転回点を打つものでした。シュルツはそれを時代の転換点=ツァイテンウェンデ(Zeitenwende)と規定しました。エネルギー源をロシア産の天然ガスに求めているドイツはロシアとの経済的的政治的な関係を維持したかったのですが、それはもはや困難と見て、NATOの一員としてロシアに軍事的に備える道に踏み出しました。

 けれどもNATOは一枚岩ではなく、アメリカも昔日のパワーはありません。ウクライナの「反転攻勢」も行き詰まっています。ウクライナ戦争は世界的に食料、エネルギー危機を惹起しており、影響を受けているグローバルサウスの国々の政府が停戦に向けてゼレンスキー、プーチンとの会談をはじめています。

 歴史の地殻変動は予定調和を許しません。

これからもドイツは揺れ動くことでしょう。

註:

ミンスク合意 2014年に始まったウクライナ東部紛争を巡る和平合意。ロシアとウクライナ、ドイツ、フランスの首脳が15年2月にベラルーシの首都ミンスクでまとめた。ロシアを後ろ盾とする親ロ派武装勢力ウクライナ軍による戦闘の停止など和平に向けた道筋を示した。大規模な戦闘は止まったものの合意後も断続的に戦闘が続いた。

 合意実行に向けた争点となったのが、親ロシア派武装勢力が占領するウクライナ東部の2地域に幅広い自治権を認める「特別な地位」を与えるとの内容だ。ウクライナは事実上のロシアによる実効支配につながると警戒。ウクライナ国内では合意そのものがロシアに有利な内容との不満も出ていた。