[1334](寄稿)医療あれこれ(その90)ー2 血圧の話ほか

ペンギンドクターより
その2 
 さて、この間、夜中にトイレに行こうとベッドから急いで起き上がって歩き出した途端、棒のように前に倒れそうな感じになって慌ててそばの壁につかまりました。意識はあるのですが、バタンと前に倒れそうな感じは5秒ぐらい続きました。その後ゆっくり手すりを伝って、何とか排尿をすませました。ベッドに戻ってから、両手両足を上げ下げしましたが、特に麻痺などはありませんでした。
 これは「起立性低血圧」です。私は現在少量の降圧剤を内服しています。他には何ものんでいません。この文章を書いている今、血圧は103/63 脈拍76です。血圧を下げ過ぎという人もいるかもしれませんが、悪くはないでしょう。脈拍は年をとってきて、少しずつ増えてきています。昔は60台のこともありましたが、今は70台ならよし、80台のこともあります。徐々に脈拍が増えてくると、お迎えが近づいているという研究もあるようです。仕方ありません。
 この血圧ですが、収縮期と拡張期つまり上の血圧と下の血圧の差が大きいのが老人の特徴です。例えば上が150で下が50などという老人がいれば、この人は動脈硬化が著明ということになります。こういう人は起立性低血圧は必発で、よく引っくり返る傾向があります。わかりやすい言い方をしましょう。心臓の左心室が収縮して全身特に脳に血液を送ります。収縮した後の左心室は拡張して次の血液がたまるのを待ちます。その間左心室は休んでいるといってもいいでしょう。しかし、臓器特に脳は血液がまったく来ないのは困ります。つまり血圧がゼロでは困るわけです。そこで動脈には柔軟性があって、拡張期すなわち休んでいる時も、動脈は縮んで血圧を維持します。しかし、老人では、この動脈の柔軟性が失われるために、拡張期すなわち心臓がちょっと休んでいる間は、血圧がドンと下がることになります。こういう血管の柔軟性が失われた老人では、急に立ち上がると脳に行く血流が急激に減少して引っくり返るということになります。
 といったわけで、私も立派な「老人」になりました。何事も急いでやることなく、ゆっくりとした動作でいいから確実にするという方針でやりましょうという結論です。
 ◍「排便回数と便の固さが認知症と関連――日本人4万人の研究」
 ケアネット配信 2023年7月12日
 中年期以降の排便習慣と認知症との関連について、国立がんセンター中央病院の清水容子氏らが解析した。介護保険の認定記録を用いたコホート研究である。
 50~79歳の参加者で2006~16年の認知症の発症を調べた。
 男性 1万9396人 認知症1889人
 女性 2万2859人 認知症2685人
 
 排便回数1回/日と比較した。信頼区間95%(CI)は省略。それぞれ男 女の順です。 
 
 2回/日以上  1.00 1.14
 5~6回/週  1.38 1.03
 3~4回/週  1.46 1.16
 3回未満/週 1.79 1.29
 
 便の固さ 正常便と比較
 硬い便       1.30 1.15
 非常に硬い便 1.84 2.18
 
 ▼いかがですか。私が面白いと思ったのは、まずこの研究を国立がんセンターが行なったということです。私の推定を言えば、大腸がんと排便回数・便の固さとの関連研究をしていたのだが、その副産物で認知症との関連がわかったということかと思います。また今、様々な分野で、腸内細菌が話題になっています。免疫も大腸がんも腸内細菌が関わっているかもしれません。NHKBSのヒューマニエンスでよく話題になっています。
 ついに認知症も腸内細菌の影響下にあるのか……と思います。興味深い結果です。
 もうひとつ、重要なことは、この報告では、便秘が認知症の「原因」だとは言っていません。「関連」と言っています。これは重要なことです。以前転送した歯周病認知症についても現状では「原因云々」ではなく「関連」としておくことが良心的ではないでしょうか。