[1305](寄稿)医療あれこれ(その88)ー2 認知症の話

ペンギンドクターより

その2
 以下は認知症の話です。
 先日、歯科疾患と認知症との関連について歯科医師からの主張をお送りしましたが、認知症については、数多くの予防策が登場しています。私自身は、どれもそれなりに意味のある主張だとは思いますが、残念ながら決定的なものはないと考えています。なぜなら生物にとって避けがたい現象すなわち「老化」が関係しているからです。歯医者さんの主張はもっともだと思うのですが、歯周病を治療すれば認知症が防げると声高に言えるほどの意味があるのかというと、?……と首をかしげざるを得ません。ただし、75歳になって私は自分の歯で咀嚼できていますから、歯科医師とくに歯科衛生士さんには感謝しています。
 以下の7つの生活習慣もまことにもっともな主張です。先日、糖尿病の指標であるHbA1cがいくつで認知症が増えるかという論文の解説がありましたが、10%以上とか極端な高値でした。これほどコントロール不能の糖尿病の場合、HbA1cの他にもいろいろな要素が絡んでいるでしょうから、データとして意味があるか疑わしいと思いました。
 また私は16年ほど前になりますが、N市のH病院院長の時、定期的に、病院に通院している患者さんやご家族に「市民講座」を企画し実行していました。検査技師や放射線技師あるいは薬剤部などの人々を講師にして、お互いの勉強のために企画したものです。私自身も、講師としていろいろなお話をしていました。ある時、地域の老人会のような集りで話してくれと言われて、標題は「認知症の予防法」でした。最初は引き受けました。私としては、基本的に「認知症そのもの」の予防法はない、つまりいわゆる「アルツハイマー認知症」の予防法はないけれども、「脳血管性認知症」には対処法はある(後述の大西医師の7つの習慣のうち6つは関係しています)……というつもりでした。ところが老人会を主導している嘱託ナースが、日常生活で例えば「日記をつけるとか……」という注文をつけてきたので、残念ながらそういう予防法はないと伝えても、老人が喜ぶからお願いしますと譲りません。結局断りました。
 あれから20年近くが経過して、多くの研究が行われてきましたが、一般の人々にわかりやすい予防法が可能になったか、疑問です。私の母で言えば、2001年9月11日のアメリ同時多発テロでの繰返し放映された高層ビルの崩壊と逃げ出す人々の映像で、認知症が急速に悪化したように感じました。結局人さまざまなのかもしれません。 
つづく