ペンギンドクターより
その2
若い人々の感覚としては過ぎ去ったように思えても、完全には過去の問題となっていない新型コロナ感染症(COVID‐19)ですが、もう3年以上になるCOVID‐19は日常生活に大きな影響を与えてきました。そんな一例をお話します。
7月30日、千葉県在住の叔父から電話が入りました。叔父は母の弟です。大正14(1915)年生まれですから、もう98歳になります。コロナ前には年に一度、一月に年賀訪問をしていたのですが、コロナで中止していました。ただ、前述した新潟のお米を秋に贈っていたので、向うから「いつもありがとう」というお礼の電話があり、去年も義理の叔母(90歳すぎ)から二人とも元気なことが確認できていました。叔母は骨粗しょう症から椎体骨折を繰返し、車椅子の生活のようでしたが、二人とも認知症の兆候はないというのが、電話の応答から推測されました。
叔父の声は、もう数年ぶりでしたが、相変らず理路整然としていました。しかし、その言葉の内容は意外なものでした。
「昨年12月26日に家内が亡くなった。お風呂で心臓発作で死亡した。親戚には近くに住んでいる姪にだけは知らせた。他は知らせていない。ちょっと君の声が聞きたくなって電話した。今は一人暮らしで、おかげで毎日介護士さんやら昔より人の出入りははるかに多いよ……」とのことでした。もちろん息子と娘には知らせて葬儀はしたのだと思います。
私にとっては昔から親しくなじみ深い叔母でしたから、去年の暮なら、通夜か告別式には参加していたはずです。一年半前の別の親しかった従兄で娘さんから頻回にアドバイスを求められていた82歳男性の死去の際には、参加を依頼する電話があったものの、医療従事者である都合上断りましたが、昨年末であれば、出席していたでしょう。何しろそのふた月前に本人と話していたこともありましたし……。でも叔父が知らせなかった気持ちもわかります。もう90歳を過ぎていたのですから。息子は同じ千葉県でも車で一時間余り離れていて、姪は数十分ほどですから、お風呂場で倒れていた奥さんを見つけて、消防に連絡するとともに、近くの姪には連絡したのだろうと推測します。
「もう少し涼しくなったら、電話してから訪ねていくよ」と伝えて電話を切りました。
私ももうすぐ76歳。昔から親しかった年上の人びとが亡くなるのは当然でしょう。
コロナで失った3年余りの年月は、老若男女を問わず大きなものがあります。老人にとっては残り少ない人生を巣ごもり生活に甘んじざるを得なかったこと。大学生活を満喫する筈だった若者には、いろいろな弊害が残されたでしょう。
私自身はどうかといえば、テレビ特に
NHKのいろいろな番組を録画してみるようになったこと、毎朝医療従事者ネットワークの医療クイズを解くこと、極めて規則正しい生活を続けること、その結果、人と会うとか、宴会に参加することなどが億劫になってしまいました。
大江健三郎のいう「紡錘形の人生」の紡錘形が一気に早まった気がします。人とのつながりの紡錘形です。人生が短くなったという意味ではありません。
ひとつ、医療ニュースを。
●飲酒で発症リスクが上がるがん、下がるがん――女性80万人の前向き研究
英国オックスフォード大学のSarah Floud氏らの前向き研究である。UK Million Women Studyで調査した。
アルコール摂取量が増えると
■上部気道、消化管がん、
乳がん、大腸がん、すい臓がんのリスク増加
この関連は上部気道、消化管がんを除いて喫煙、
BMI(Body Mass Index)、更年期ホルモン療法による変化はなかった。
がん既往のない閉経後女性123万3177人、平均年齢56歳、1998年‐1999年の飲酒量の報告をがん発症の記録とリンクさせた。17年の追跡中に14万203人ががんを発症……。(以下省略)
女性だけの疫学です。膨大な数を調査しています。このような疫学には、
電子カルテの共有が必須です。デジタル化の重要性がわかる研究です。
最後に戯言です。このところ、コロナで電車に乗ることが極めてすくなくなっていますが、私は57歳でN市のH病院に勤務するようになってス
イカの定期券を購入しました。そのス
イカを今も使っています。ということは、18年ほど、私がス
イカを使った記録がどこかに残っているはずです。もし犯罪を私が5年前に犯したとしたら、その場所にス
イカを使っていったかどうか、すぐわかるはずです。下調べに行ったかどうかも……。また私は、
学生運動の時に、指紋も登録されています。
私は昔、月に一度宇都宮駐屯地の
自衛隊のパート医を頼まれてしていました。公的病院の院長時代です。医師がいなかったので臨時です。その後若い
防衛医大卒の
精神科医が私のあとを継ぎました。彼とは一度話して「これからは
自衛隊も
うつ病などの
精神疾患が増えるから頑張ってくれ」と元気づけておきました。また当時の保健担当の医療従事者トップは歯科医でした。女性でしたが、最初にあったときに、ちょっと気になることを言いました。私の学生時代の前歴を知っているようでした。
要するに、デジタル化の時代は記録が死ぬまでついて回るということです。それをどう扱うかは大事なことです。政府のデジタル化推進には当然その意図があります。しかし、デジタル化そのものは避けられません。
NHKの様々なドキュメンタリーなどを見、本を読めば、デジタル化の未来は明らかです。きょうはこのへんで。