[1257](寄稿)医療あれこれ(その84)ー1

ペンギンドクターより
その1
皆様
 本日は午後から雨が降り始めてすこししのぎ易くなりました。昨夜は午後9時に寝るとき、室温が29℃もあって、今年初めて冷房を入れました。27℃に設定しましたが、それで十分涼しく助かりました。年を取ると、許容できる気温の閾値が狭くなります。つまり、室温が20℃以下になると、足元が冷えて薄い蒲団を巻きつけてパソコンに向かいます。暖房を入れても足元が冷えるのですが、4月末に女房に急かされて炬燵を撤去されたので、已むを得ません。
 
 年を取ると、いろいろなことがわかってきます。先日亡くなった大江健三郎に『小説のたくらみ、知の楽しみ』(新潮社昭和60年4月15日発行)という本があります。これは新潮社の小冊子『波』の1983年4月から1984年12月に掲載されたエッセイをまとめた本です。その本の146ページに以下の文章があります。
 
……そこで僕は、「生の紡錘形」理論、という持論をのべたのです。生のはじめ、肉親をのぞけばこの世への係累はないにひとしい。知人、友人がすこしずつ出現し、増殖し、ある程度まで来ると、メムバー交替はあっても増減なしの現状維持となる。それからしだいに係累を切って——切られて、ということでもあるにちがいないが——ゼロにいたるまで人間づきあいを縮小し、ひそかに死ぬ。このような人間関係の総体の見とり図を、「生の紡錘形」理論と呼ぶのだと。……
 
 大江健三郎の本は「難解」ですが、時代を表していると思っています。上記の「生の紡錘形」理論というのは面白く、私も納得させられます。彼の上記の発言は大江がしょっちゅう「絶交」してばかりいるので、谷川俊太郎に「どうしてそうするのか」と尋ねられて答えたのだそうです。
 先日、大学の同級生から今後のクラス会の開催方針について意見を求めるメールが入りましたが、私は「意見はありません。お任せします」と返信しました。内容は省略しますが、いささか医師同士のクラス会がわずらわしくなってきたのです。それに、「開催方針」については10年以上前に一度私が検討して皆と相談していたからです。75歳を迎えて、今さら分裂したクラス会の修復など、もう私の出る幕ではありません。もちろん「絶交」するエネルギーもありません。
 
 もうひとつ。chatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)(文章生成モデルの略称)が話題になっています。
 進化形であるGPT‐4が2023年2月に実施された第117回医師国家試験の画像なし問題262問を必修問題(合格最低ラインは80.0%)で82.7%、基礎・臨床問題(合格最低ラインは74.6%)で77.2%のスコアを獲得し、合格最低ラインを満たしたとのことでした。なぜ不正解となったかを検討して、不正解の56問のうち、33問(58.9%)では「医学知識の不足」が、17問(30.4%)では「日本特有の医療制度情報」が、4問(7.1%)では「数学的誤り」が要因となっていたようです。
 いずれ満点に近い点数をとるChatGPTが登場するでしょう。何せコンピューターの記憶力は抜群ですから。
 雑駁な話はここまでで、以下はピロリ菌のお話です。
つづく