[1419]ガザ危機、酒井氏の提案

 

 2日の東京新聞こちら特報部」欄で「ガザ情勢深刻化 酒井啓子千葉大教授に聞く」という特集が組まれています。

 そのなかで酒井さんが「日本が果たす役割は大きい」という見出しで「独自のスタンスで停戦案」を出すことを提案しています。4次にわたる中東戦争を経て1993年オスロ合意(註)が結ばれた後の日本の関わりについて酒井さんは次のようにいいます。

 「和平を実現したオスロ合意以降、中東での日本の無償援助はパレスチナが最多だった。ガザへの医療、教育支援をはじめ、水道の敷設も行った。その成果と言えるインフラや病院などがまさに今、空爆で破壊されている。日本政府は声を上げる時期に来ている」

 そしてこう言います。

 「国際秩序は崩れかけているが、国連中心主義は日本外交の原則の一つだ。中東外交で独自のスタンスに立つ日本だからこそ、紛争終結に向け世界が足並みをそろえるため、停戦案を独自に練り直すなど取れる行動があるかもしれない。」

 イスラエルによる無差別空爆と地上侵攻をうけ虐殺がつづく今、とにかく停戦しなければなりません。

 しかし酒井さんの提案を誰が実施するかといえば岸田政権では不可能です。この特集記事の下に「デスクメモ」が遠慮気味に小さく載っています。

 「岸田首相は1日の国会で、ガザ攻撃が国際法違反か判断を避けた。9月に国連の会合でロシアのウクライナ侵攻を『国際法の明白な違反』と非難したのと大違いだ。『法の支配に基づく国際秩序』が外交の重点ではなかったか、二枚舌のような態度の先で市民の命が奪われている。(北)2023•11•2」

 岸田首相は「力による一方的な現状変更に反対する」と今でも語っていますが、イスラエルは反対の対象から外しています。アメリカの動向に右にならえです。

 政府はアメリカの対中国軍事体制のフォローを東アジアで差配しはじめました。岸田首相は3日にフィリピンで自衛隊とフィリピン軍の相互乗り入れ「円滑化」協定を結ぶ段取りづくりをする予定です。

 日本の労働組合のなかで地道に停戦の声をつくっていかなければなりません。

 私は民族間の憎悪の根深さに絶望的な気持になります。しかしパレスチナ問題は民族問題が基底にあるとはいえ、米英をはじめとする西側の資本主義大国と中国•ロシアの東側の資本主義国のそれぞれの資本家階級の危機とそれが外化した国家間の対立と抗争のはざまで生起したこととしてとらえるべきだと思います。

 ウクライナ戦争では「力による現状変更反対」を名目とした帝国主義的介入、パレスチナではイスラエルの入植容認というアメリカのダブルスタンダードが貫徹されている中東の秩序。イスラエル資本家階級の右派政治エリートによるパレスチナ暴力的占領支配にたいするアメリカ資本家階級の庇護、アラブ諸国家権力のイスラエル政府との宥和。パレスチナ人労働者民衆の我慢できない貧窮の進行の中で台頭した反米反シオニズムイスラム原理主義ハマスのゲリラ攻撃。ヒステリー化したイスラエルのガザ破壊戦争。

 労働運動の責任は大きいと思います。

 現状を根底からのりこえていくべき営為が問われています。

(註)オスロ合意

 1948年、ユダヤ人が委任統治国イギリスの承認のもとでパレスチナイスラエル国をつくりました。その翌日、パレスチナ人を追い出し建国したイスラエルとそれを認めないアラブ諸国の間で第1次中東戦争が勃発しました。それ以降イスラエルが国土を拡大し入植をすすめるなか、3次にわたる中東戦争が繰り返されました。 

 1987年からイスラエルの占領に抗議するパレスチナ人のインティファーダ(投石抗議)が展開され、それをきっかけとして1993年にパレスチナ解放機構アラファトイスラエルの首相ラビンの間でオスロ和平合意がなされました。

 互いの存在を認め、将来的にパレスチナ国家とイスラエルが共存する「2国家解決」を目指し、ヨルダン川西岸とガザにパレスチナ自治区ができたのですが、和平に反対するユダヤ人青年によってラビンは暗殺されイスラエルは右傾化し「2国家解決」は壊されていきました。