[1465](寄稿)医療あれこれ(その98)−1 がんについて

 

ペンギンドクターより

その1

皆様
 季節外れの温かさと思ったら、今日は西高東低の強い冬型となり、北西風が吹き荒れています。朝のうちに防犯パトロールをすませて帰宅しました。年をとると寒がりになります。最近は、耳が遠くなりました。特に雑音が混じった場合、聴き取れなくなります。検診の仕事では、とくに不自由は感じませんが、テレビの録画を見る場合や台所仕事をしつつ女房に話しかけられるとダメです。聴き取れなくても聴き直すのが面倒で頓珍漢な返事を返すと、「認知症?」かと疑われることになります。仕方ないですね。
 11月に大学のクラス会があったのですが、私は参加しませんでした。
 今回は16人参加の予定だったようですが、結局13人になってしまいました。私は腰痛とアルコール控えめという状態なので不参加としましたが、運営の仕方などで幹事から質問を受けていたので、終了後、会の報告が来ました。それによると、急遽欠席となった3人の理由は、①コロナ感染後に不整脈が頻発してきたので、欠席(彼は心房細動でカテーテルアブレーションをした既往あり)。②10月に手術して回復途上(何の手術かは不明)。③転倒して頭をぶつけたので欠席(大事には至らなかったが、彼は50代でパーキンソン病の既往あり。ただし医療の進歩のおかげで種々の治療にて小康状態である)。
 その他、参加した連中の近況が記録された報告でしたが、その中に25年前の腎臓癌の再発で闘病生活を送っている同級生の話があったので、気になってはいたものの、「まだ元気なんだな!」と嬉しくなって、彼単独ではなく、幹事および皆様へと、私の近況をメールしました。すると、その腎臓癌再発のS君から私個人にメールが舞い込んできました。

 それによれば、以下のような状況でした。彼自身は喘息などアレルギーが専門で臨床的には呼吸器内科の患者さんを中心に診療しています。私との関係は、学生時代ですが、親密な麻雀友達でした。卒業後しばらく離れていましたが、いつだったか彼がA大学健診センター教授だったころに友人関係が復活し、B市のC病院ではパートで呼吸器外来を頼んでいました……。
 さて、腎臓癌ですが、50歳の頃に、偶然発見され片方の腎臓を摘出していました。10年が過ぎ、治癒と考えられていたのですが、珍しいことに手術後20年で再発したのです。
 ただし、20年後再発というのは乳がん・腎がんには時々あります。私は外科医ですから、腎臓癌の経験は実際にはありません。一方、乳癌ではあります。その女性は私の医師会役員の頃の事務の女性の母上でした。原発巣不明の腹腔内の癌で手術されたのですが、大学病院でも当初はどこから来たガンか分からず、開腹手術して、がんの一部を検査して20年前のガンだとわかったという経緯でした。手術前に私に聞いてもらえれば、「20年前の乳がんの再発!」と教えてあげられたと思いました。私の患者さんでも10年以上たって再発は結構ありますし、文献上も、乳癌では忘れた頃に再発というのがそれほど稀ではないからです。ただし、この事務員の母上はすぐに亡くなりました。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などはまだ一般的に使われていなかった時代でした。
 S君の腎臓癌ですが、再発が分かったのは、もう5年ほど前になります。私がB市のC病院の院長をやめたのはもう16年前になりますが、その後もS君とは家族ぐるみで断続的に付き合いがありました。だから、再発の件も聞いていました。4年ほど前のコロナ直前の私が幹事のクラス会に彼も来て、みんなの前で再発で抗がん剤治療していると述べていました。ただ、残された腎臓は片方だけであり、抗がん剤治療には副作用がありますから、「なかなか大変だな」と私は危惧していました……。
 先日の彼のメールですが、現在免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ)(発見者の本庶博士はノーベル賞受賞)を月に一回投与している。ただし、腎機能の障害があり、クレアチニンが4前後で、人工透析一歩手前の状態である。全身倦怠感が強く、運動などは出来ないので、家の中でごろごろしている状況。しかし週に一度、以前常勤で勤務していた民間病院(同級生が外科医で元院長)で元院長とともに、呼吸器疾患の患者さんのアドバイスなどをして仕事中とのことでした。あと5年もてばいいなと思っているとのことでした。
 
 女房にS君のメールのことを話すと物凄く喜んでいました。彼の奥さんは悪性リンパ腫の経験者であり、二人には娘が一人いて、医師になり、結婚して子どももいます。S君夫婦は私の那須の家にも来ましたし、昔、私たち夫婦を根岸だったか料亭「笹乃雪」にてご馳走してくれたことがあります。何とかあと5年生きて、男の平均寿命まで頑張ってほしいと思っています。

 

 以上を前置きにして、先日の高校同窓会のお話をします。
 Kさんですが、ちょうどテーブルの私のそばに座ったので、いろいろお話を聞きました。彼は前の会長ですから、多くの人が挨拶に来ますが、「今、抗がん剤投与中なんだ」と率直に話していました。淡々としていて、二次会の誘いが来た時、私が代わりに「行かない」と答えたつもりだったのですが、「行くよ」とのことで、私も彼が行くならと一緒に駅前の居酒屋にも繰り込みました。なかなか元気です。
 大腸がんの状況ですが、急増しているS状結腸なのか、上行結腸・横行結腸・下行結腸なのか不明です。Kさん自身そこまでは聞いていないようです。私がなぜこれを気にするかというと、アメリカで50歳未満のがん検診で、有効なのは「S状結腸内視鏡」というデータがあるからです。日本は技術的に内視鏡操作技術は優れていますが、外国では検診としての内視鏡はS状結腸までというところが多いようです。
 ここで横道です。
 がん検診の有効性という時、対象になるがんの数が多いことが条件になるでしょう。さらに、検診の方法が、安価でかつ危険が少なく、本人に苦痛を与えないということも必要です。また検診で見つけたおかげで、治癒したというデータも必要です。
 前回言いましたが、その意味で大腸がん検診は有望であることになります。
 
 Kさんですが、先日、皮膚に発赤が出てきて、消化器内科の主治医は「経過観察」だったのですが、よくならないので本人が気にして皮膚科へ回してもらったら、真菌(かび)感染症で、緊急入院(抗がん剤治療中の副作用)となったとのこと。そしていろいろ検査したが、真菌は皮膚のみで、肺などの内臓には異常がなく、先生もホッとしていたようです。真菌(かび)は、口腔内や消化管には常在しているので、抗がん剤治療中などの免疫力の低下時には、暴れ出すことがあるからです。
 この入院中に、時間の余裕があったので、大腸内視鏡を施行したところ、管腔の4分の3ほどを占めていた「がん」のあった場所が平坦になっていたとのことでした。ということは、こういうタイプなら、検診受診時の「便潜血反応」で引っかかるはずです。つまり、退職後も「人間ドック」を受けていれば、検便で引っ掛かり、内視鏡に回され、もっと早い時期に「がん」が発見されていたはずです。経済的に余裕がある人の人間ドックは受診して損はないというのが私の結論です。
 Kさんの真菌感染のその後ですが、抗がん剤を変更して続行、今度は髪の毛が抜ける抗がん剤になるとのこと、年末ごろまでにはさらに効果をみて、今後の方針を決めるとのことでした。
 Kさんも我々同年代の常として、医師を信用すると任せるという傾向が強いせいか、細かながんの状況や具体的な抗がん剤の名称・作用機序などには敢て踏み込まないように感じました。最近の傾向としては、絵なども含めて細かく説明し、抗がん剤の種類等の詳細も紙に書いて渡すのですが、私たちの同級生ではそこまで知ろうとする人はほとんどいないように思います。いいか悪いかは別として、私としては想像を交えてお話するしかありません。
 Kさんの「がん」が今後どうなるかはわかりませんが、少なくとも一時的に「消滅」という結果を示すことができるのは、間違いなく医療の進歩でしょう。私の現役外科医の時代は、大腸がんにこれほど大きな効果を示したデータはほとんどありませんでしたから。
 

つづく