[1607](寄稿)医療あれこれ(その108)ー2 検査結果の連絡システムについて

ペンギンドクターより

その2

 ここで、ちょっと横道にそれます。 私が勤務しているY病院および検診センターですが、当初は別の場所に3階建てでした。地域がん診療拠点病院です。放射線治療もできます。私が非常勤医として関わったのは、40年余り前ですから、今いる医師の中では一番古いのは確かです。昔の私を知っているのは私が連れてきた今も非常勤医師で働いている大学の同級生を除けば、院長ぐらいです。当時は検査室は民間会社に委託していて、立派な検査室はあるものの、委託会社が運営していました。それを解約してすべて引揚げてもらい、当初は検査技師二人だけで始め、しかも私が病理診断も始めました。詳細はここでは述べませんが、それだけに愛着がある病院です。
 民間病院の厳しさゆえでもありますが、検診センターの職員は、もちろん能力の差はあるものの、みな生き残るのに真剣です。つまり、私のドックの異常にすぐに対応してくれて当日午後には電話がかかってきたというのは、職員だからではありますが、一般の受診者でも同様なルートができています。通常の人間ドックや会社検診の結果は、受診者の多さの影響もあり、受診後4-5週後の報告になります。したがってもし緊急を要する異常が見つかった場合、別ルートに乗せなければなりません。例えば、胃のレントゲン写真で「ガンの疑い」があった場合、ひと月も放置していたのでは、「ドック受診者」はどう考えるでしょうか?・・・・・・ということで、私たちはダブルチェックをすばやく行い、受診者から「緊急の場合、連絡してもよいかと質問しておき、その場合どういう方法にするか」とあらかじめ聞いておいた方法で連絡するシステムにしてあります。具体的なケースがしばしばありますが、長くなるので省略します。

 もう昔のことで、今は改善しているはずですが、おなじK市のN病院では、こんなことがありました。私が外科部長で赴任していたころのことです。肝機能の明らかな異常があった人ですが、検査室の技師たちは自分で検査しているのですから、当然その異常に最初に気がつくはずです。しかし、その検査結果を通常通りに各科に返却するだけで、「警報」を発令することは無かったのです。そのことについて、当時の検査技師長は平然と「先生たちは検査結果をチェックしないのですね」とうそぶいていました。まったくひどい病院、システムです。なぜなら、普通に検査結果を返却すれば、事務ないし看護助手さんがその検査結果をカルテに貼るわけですが、その患者さんが翌日来院しなければ、その検査結果はそこに添付されたままになります。ですから、そういう大きな異常があったら、忙しくても検査室の誰かが、その検査結果を直接外来のナースか医師に手渡すべきなのです。あるいは電話連絡でもいいでしょう。こういうのを、公的病院の官僚的対応と言います。 
 もう一つ、私が管理職をしていた公的病院です。職員検診において、ある医師に腹部エコーで「腎臓に影」が見つかりました。要するに「腎がん」です。検査したのは技師長です。「腎がん」という自信はなかったのでしょうが、「異常がある」とはわかっていました。そのレポートを書いた後、その技師長は通常のルートに乗せておしまいでした。その医師は産婦人科の医師でもあり、年齢は40代だったでしょうか、自分が腎臓に異常があるなどとは考えもせず、検診の報告書を見ずに放置し、一年後同じ職員検診でようやく「腎がん」の診断で手術となりました。その技師長もまた公的病院の官僚的職員の典型でした。つけ加えると、私が副院長で時代の変化を読み取り、「医療安全員会」を組織し、「医療インシデント・アクシデント」はすべて報告をあげるようにと伝えたときに、「今までは隠せと言われていたのに180度転換ですね」とこの技師長は私に言っていました。この公的病院の実態がわかるコメントでした。私はこの技師長に個別に文句をつけることはしていません。一部を除いて時代の変化を読み取る職員はほとんどいなかったのですから、病院システムの問題でした。 

 今もよく問題になっていることですが、消化器科に受診して、腹部CTを撮影したところ、たまたま肺下葉に腫瘍らしい陰影が映っているというコメントを放射線診断医がつけ加えたものの、主治医はその内容を十分確かめることなく、肺がんが進行して死亡したというケースが報告されます。他科受診で撮影されて偶然見つかったケースにしばしば見られる医療ミスです。これを解決するには、猛烈な忙しさと思われるCT・MRI読影の診断医を補助する担当者ないしAIなどにより、悪性疾患の可能性がある場合、それがリストアップされて主治医に直接連絡がいくシステムの構築が望まれます。  
 
 さて私の「前立腺がん」は上記のように、とりあえず時間的な推移を見守るというのが現状です。しかし、いろいろなガンを見てきた者として、私なりに「前立腺がん」として夜中に考えたことを少し述べてみます。
 前立腺がんは、一応治療を開始すれば5年生存率が100%近いがんです。ただしこれは「がんセンター」や「がん診療拠点病院」を中心とする病院の統計ですからすべてそうとは限りません。他病死も多いはずです。実際に高齢者が多いので、薬物治療を開始して、一度薬物が効いても効果が見られなくなったら、さらに治療を続けることなく、在宅医療の方向で、私が以前在職したクリニックに送って来るケースが多いと、先日降圧剤と花粉症の薬を貰いにいった時院長が言っていました。そういう例外もありますが、予後のいいがんであることは確かです。 
 それで私は「まあ、あと5年すれば平均寿命の81歳になる。あと5年しかないから、やりたいことをしておこう」と思うような気持にはならない。いろいろ医師としてもやることはやったし、また60歳過ぎてからの読書を中心として旅に出る生活も十分してきている。諦めていた孫もできた。どこまで元気に育つかはわからないが、今のところ元気である。春になって、町内の防犯パトロールで30分ぶらぶらして今週は雑草の「アメリカフウロ」と「カタバミ」の写真を撮り、名前を決定できてわが「花ノート」が豊かになった。旅と言っても外国旅行へ行く気はない。ドイツに1年半いて友人もできたが、今は音信不通で訪ねて行く気もない。一番やりたいこととすれば、HとIへ行って、ぶらぶら散歩することぐらいだな。今年は母の23回忌だから、一度は菩提寺と相談しなくちゃ・・・・・・。 
 私の日常で、私が一番やりがいと思っているのは、皆さんに送信しているような医療情報通信を二週間ごとぐらいに書けていることかもしれません。いいストレスになっています。 
 悟るという心境には程遠いのですが、日常の繰り返しを続けていくつもりです。では。

つづく