[1606](寄稿)医療あれこれ(その108)ー1 前立腺がんについて

ペンギンドクターより

その1

皆様

本日より、大型連休の後半が始まりました。私は(火)(木)の午前中仕事をしているのですが、今年一年(火)(木)が祝日に当るのは一日もなく、4月30日(火)5月2日(木)と仕事をしました。検診受診者はいつもより少ないものの高齢者を中心に人間ドック受診者がみられ、それなりにセンター職員は忙しくしていました。私の場合、内科診察が25名ほど、いつもの40名前後より楽で、おかげで相変らずチンプンカンプンのヘーゲル精神現象学』に目を通す時間はありました。
 
前立腺がん」です。前回の文章にひとつ訂正があります。79歳で前立腺がん治療を開始し84歳で死亡した男性の経験の文章の中で、PSA(前立腺特異抗原)の値がゼロと書きましたが、理屈から言ってもゼロになることはないと気づきました。「ゼロに近く低下」と訂正します。PSAは、がんのため前立腺全摘をすれば、ゼロになります。しかし、ホルモン療法・化学療法では、完全にゼロになることはないと言えるでしょう。私の経験は、在宅医療の方向で 受診された前立腺がんの患者さんが、高血圧等で来院して投薬を続け最後は在宅で亡くなった患者さんから見せてもらった検査結果の推移です。したがって記憶は曖昧なので訂正しておきます。ただし、前述のようにがんのため前立腺全摘をすれば、PSAはゼロもしくは測定不能とされます。その患者さんが、検査結果でわずかでもPSAの値が測定可能となることは、前立腺がんが再発して来たということになります。つまり、どこかに転移していたか、前立腺の周囲にわずかでも浸潤して手術で取り切れなければ、PSAが増えてくるわけです。もうひとつ、こちらは追加ですが、前立腺がんに罹患した著名人に「平成天皇(現上皇)」がいらっしゃいます。術後10年以上お元気なので、完治と言えるのでしょう。彼の主治医は定期的にPSAをチェックしていたはずです。あるいは今もチェックしているかもしれません。
 
 さて、わたしの「前立腺がん」ですが、その後の経過をお話します。4月19日(金)に人間ドックを受診し、腹部エコーで前立腺に「影」があり、すぐに検査室にPSAの値を問い合わせて、PSAが7.41であり、昨年の値1.8から急増していたので、午後には健診センターから自宅に電話があり、4月26日(金)にY記念病院の泌尿器科部長の外来を受診しました。
 結論を先に言っておきます。部長は「PSAの値は上がったり下がったりするので、もう一度期間をおいて採血しましょう」ということでした。確かに自転車に乗ってもPSAが上昇するというのは知っていましたから、異論はなかったのですが、お互いの自己紹介と昔病理をやっていて低分化の前立腺がんの生検診断もしたことなど、控えめにいろいろ話しました。センターの技師と元事務長の尽力で、すばやく外来を予約してくれたことも当然話しました。すると、部長が言うには、「前立腺の影は、腫瘍というより前立腺肥大と前立腺結石であり、前立腺が炎症を起こしてPSA値が上昇したのではないか」とのことでした。私としては、「前立腺がんならここで先生にロボット手術をしてもらいたいと思っているし、一応MRIなどの検査も受けておきたい」と伝えたところ、私が午前中の仕事に来る5月16日(木)の午後にMRIと採血、5月24日(金)に部長の外来の再診予約としてもらいました。
 私は、さすがに泌尿器科の専門家だと思いました。
 当日の診察では、背臥位で直腸診(肛門から直腸に指を入れて、前方にある前立腺を触診する)を受けて、左側の前立腺がちょっと硬い感じとのことでした。前立腺はエコー上通常の数倍に腫大しているとのこと、「我々の前立腺エコー検査とはちょっとやり方が違うのですが・・・・・・」と言っていました。といったわけで、前立腺の針生検は後日検討となりました。
 
 ここで超音波検査(エコー検査)について素人ではありますが、簡単に述べます。私自身はエコー検査の経験は乳腺エコーと甲状腺エコーの経験があります。前立腺エコーの経験はありませんし、腹部エコーの経験もありません。しかし、今若手の医師に最も習熟しておくべき検査は何かと問われれば、それはエコー検査だと断言できます。なぜなら、患者さんにかける負担がなくて、大変広く深い情報が得られる検査だからです。たとえば、内視鏡検査ですが、受ける本人は辛い検査です。医療事故も起こります。CTやMRIは病院でなくてはできませんが、エコーの小型は持参して在宅医療の現場でも可能です。エコー検査で小さな胎児の性別も早くからわかります。胎児にエコーの害がないのは証明済みです。今救急医療の現場でもエコー検査は大変多く使われています。しかしそれだけに、エコー検査はその習熟度、つまり医師によって技量の差、読影力の差が問われる検査です。
 
 今回の私の前立腺の「影」ですが、すばやい判断で私は助かったりました。ただし検査してくれた彼女の紹介状のための診断としては「前立腺肥大と前立腺腫瘍の疑い」とのことでした。間違いではありません。ただ、部長の診察時にそのエコー像を見ると、「影」の中に、小さな点状の高エコー像およびその後方に尾を引くものがあり、カルシウムの沈着すなわち結石とも考えられました。こういう結石があれば、X線によるCTでは、乱反射して映像がわかりにくいのでMRIが周囲も含めての前立腺の状況判断には最適だと思います。以上、私の初めての泌尿器科受診は「前立腺がん」の確定診断には至りませんでしたが、無事に終わりました。泌尿器科部長とのコミュニケーションもできましたし、ガンなら、ここでロボット手術する方向で迷いもなくなりましたから、気が楽になりました。MRIやPSAの数値によっては生検をすることになるでしょうし、経過観察ともなるでしょう。どちらでも部長の考えに沿って私の判断をしていくつもりです。なお、その後ネットで調べたことですが、前立腺結石というのは50歳以上の男性には結構見られる疾患で、前立腺肥大などと合併することが多いとのことです。原因はうっ滞した粘液などにカルシウムが沈着して結石となるようです。

つづく