[353](投稿)『自分の頭で考える日本の論点』(出口治明)について

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ペンギンドクターより

最近読んだ本の中で、お勧めの本を一冊紹介します。
 出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(2020年11月25日第1刷発行、419ページの幻冬舎新書)です。著者は1948年三重県生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。ライフネット生命創業者。京都大学法学部卒。1972年日本生命に入社。ロンドン現地法人社長。国際業務部長などを経て2006年に退社。同年、ネットライフ企画を設立、代表取締役社長に就任。2008年に免許を得てライフネット生命と社名を変更、2012年上場。社長・会長を10年務めたのち、2018年より現職。著書多数。
 出口さんは1200以上の世界の都市をめぐり、1万冊以上の本を読んだと言われている人です。私が読んだ彼の本は『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史』(Ⅰ・Ⅱ)(新潮社)です。
ただしこれらの本を読んで「なるほど、凄い知識量だな」とは思いましたが、もっと彼の本を読もうとは思いませんでした。上記の新書についても駅ビルの書店で見かけていたものの手には取っていませんでした。ところが、朝日新聞の広告であの「佐藤優」がこの本を推薦していたので、買うことにしました。長くなりますが、検討されている論点を列挙します。

論点1 日本の新型コロナウイルス対応は適切だったか
論点2 新型コロナ禍でグローバリズムは衰退するのか
論点3 日本人は働き方を変えるべきか
論点4 気候危機(地球温暖化)は本当に進んでいるのか
論点5 憲法9条は改正すべきか
論点6 安楽死を認めるべきか
論点7 日本社会のLGBTQへの対応は十分か
論点8 ネット言論は規制すべきか
論点9 少子化は問題か
論点10 日本は移民・難民をもっと受け入れるべきか
論点11 日本はこのままアメリカの「核の傘」の下にいていいのか
論点12 人間の仕事はAIに奪われるのか
論点13 生活保護ベーシックインカム、貧困対策はどちらがいいのか論点14 がんは早期発見・治療すべきか、放置がいいのか
論点15 経済成長は必要なのか
論点16 自由貿易はよくないのか論点17 投資はしたほうがいいか、貯蓄でいいか
論点18 日本の大学教育は世界で通用しないのか
論点19 公的年金は破綻するのか
論点20 財政赤字は解消すべきか
論点21 民主主義は優れた制度か
論点22 海外留学はしたほうがいいのか〔付録〕自分の頭で考えるための10のヒント

 以上22の論点について「基礎知識」と「自分の頭で考える」と二つの項目で述べています。「基礎知識」が大変役に立ちます。簡潔でかつ要所を抑え、しかも政治的にも偏りがなく網羅的に述べられています。「自分の頭で考える」では彼自身の意見も述べていますが、説得力のある文章です。
 ただ、重要な論点がひとつ抜けています。それは「原発をどうするか」です。意図的に抜いたのかどうか、わかりません。難しい問題ですが、喫緊の課題です。

原発について]

 私の現時点での「原発をどうするか」については、異論のある方もいらっしゃると思いますが、以下のような考えです。
原発の新設はしない。
◍既存の原発は、安全性を審査したうえで再稼働し、耐用年数が切れたものから順に廃炉にする。
◍近い将来に原発ゼロを目指すが、研究用に原子力発電所を含む原子力研究所は残す。それは、素人考えではありますが、周辺国の核兵器保有という現実にも対応する必要があると思うからです。原子力研究は必要です。ドイツが原発をゼロとすることを決めたのは見事な決断ですが、ドイツには長いグリーンエネルギー(クリーンエネルギー)追求の歴史があります。今回の原発ゼロの決断はその蓄積のゆえだと思いますが、現実には隣国の旧東欧諸国から原発による電力を購入するという方法をとるとも聞いています。想像ですが、隣国の原発にドイツ資本が関与している可能性がありそうです。 
日本においては、民主党政権でも菅直人首相が自ら原子力発電所の売り込みに画策した事実があります。また、あの立花隆が1971年に出した本『思考の技術――エコロジー的発想のすすめ』の“新装版”中公新書ラクレ(2020年8月10日発行)の146ページに、彼は「化石燃料に代わってうまく原子力エネルギーに乗りかえないといけない」と書いていました。当時私もそう考えていました。無知な私はともかく、慧眼な立花隆でも原子力の平和利用としての原発を疑ってはいませんでした。そしてこの50年ぶりの再版としての新装版においても、上記の文章はそのまま残されています。菅総理とは違います。 
廃炉には長い年月がかかります。今ある原発を稼働させつつ順次廃炉にもっていくことが、現実的だと私は思っています。
 また、これは世界的な懸案ですが、「核のごみ」をどこに捨てるかという問題も放置はできません。北海道の寿都町神恵内村がそのきっかけとしての「文献調査」に手を挙げたのは政府・電力会社の得意な「お金で釣る」政策であることは確かですが、政府批判だけしていい状況ではないと私は思っています。 出口さんが、「原発をどうするか」という問題を避けたのは、やはり自分自身の解答を持ち合わせていなかったのではなかろうか、と私は推測します。