[1009](寄稿)新型コロナワクチンの4回目接種の「5ヶ月間ルール」の緩和を

ペンギンドクターより
その2
 転送するのは、4回目ワクチンについてのお奨めの主張です。高橋謙造教授も最初私は酷評しましたが、以後勉強されたようで主張がしっかりされてきたように思います。参考になれば幸いです。
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 ハイリスクの方々を守るために、新型コロナワクチンの4回目接種の「5ヶ月間ルール」の緩和を
 
 帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造
 2022年9月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
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 バイデン大統領も新型コロナワクチン接種を年一回にしていく方針を示し、世界的にはパンデミックの終焉を迎えつつあると実感します。しかし、それに至る一つの大きな壁はこの秋冬に予想されるいわゆる第8波です。第7波では感染者数は多かったものの、直接的なコロナによる死亡は世界的にも以前より低いものとなっており、その要因はワクチンと治療薬の普及です。現在日本では4回目の新型コロナワクチンは3回目接種完了から5ヶ月以上の間隔をあけて接種することとされています。しかし、このいわゆる「5ヶ月間ルール」は科学的根拠に乏しく、またワクチン接種の現場を混乱させています。なぜならば、今秋冬に予測される第8波において、高齢者等のハイリスクグループを護るには、遅くとも年内11月までには、追加接種を完遂させておく必要があるからです。ワクチン接種に積極的な自治体では、今夏に4回目の接種が完了していますので、5ヶ月ルールを厳格に守っていては、ハイリスク者への接種が間に合わない可能性もあります。その根拠に関して、以下に検討します。
1.新型コロナの流行には季節性がある?
2022年7月頃から始まったこの夏の新型コロナ第7波は、ようやく全国的なピークアウトを迎えつつあるようです。これまでの流行の推移を見ると、コロナの流行は、夏、冬の2回感染のピークがあり、地域的に近く、季節性も似ている韓国などと比較しても似たような傾向にあります。
 
 またこの傾向は、新型コロナウイルスの類縁ウイルスである風邪コロナウイルスの流行形態を国立感染症研究所のデータで見ても、やはり、夏、冬のピークが見られます。
 
 したがって、今年の11月頃には新型コロナの再流行、つまり第8波の可能性が非常に高いと考えられます。
 しかし、世界の趨勢がウイズコロナに向かっている現在、行動制限の強化はナンセンスです。ウイズコロナとは、コロナウイルスが日常生活に及ぼすリスクを許容しつつ、できる限り通常の生活、仕事、事業等を取り戻すことですから、感染対策の基本を守りつつ、現在人類が持つ最大の武器、ワクチンを活用して、第8波に備えていく必要があります。
 
2.ワクチンの効果には限界がある?
 世界有数のトップジャーナルであるNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に、イスラエルからのファイザーワクチン4回目の接種効果の論文が掲載されました(2022年5月掲載:参考文献1)。
 この論文では、4回目接種での60歳以上高齢者の重症化予防効果は持続したものの、感染予防効果は短期でした。この論文により、4回目接種での60歳以上高齢者の重症化予防効果は持続したものの、感染予防効果は短期でした。この論文により、4回目接種の効果に疑問が投げかけられたのは記憶に新しいところです。しかし、論文を読み込めば、重症・死亡には明らかに効果はあり、感染予防効果もあることは間違いありません。つまり、何も新たなワクチンを待つ必要はなく、既存のワクチン接種を進めることでも、高齢者等を護ることはある程度可能になるのです。
 さらには、2022年3月に Nature Medicineに掲載された論文では、NEJM誌論文とは全く異なる知見が提示されています(参考文献2)。
 この論文では、ワクチン接種回数を重ねるほど、ウイルスに対する中和抗体(感染自体を予防する免疫抗体のこと)が上昇するという知見が述べられているのです。この論文では、4回目接種以降に関しては推測のデータが提示されていますが、科学的に考えれば非常に納得の行く知見です。つまり、ワクチン接種による免疫増強に加え、自然感染による免疫増強もあることで、感染予防が期待できるのです。
 
3.いつワクチンを接種すべきか?
 この「いつ?」に関しては、2つの要素が重要です。
 まずは、流行を予測した対応です。これまでの流行波を見ると、2020年の第3波は11月から、第6波は2022年の1月から始まっています。これらを鑑みれば、年内の遅くとも11月までには追加のワクチン接種を完遂しておく必要があります。
 もう一点、「いつ」を考えるときに、世界的な科学的コンセンサスも勘案しておく必要があります。この点で参考になるのが、Nature誌が2022年8月19日に掲載したNews Explainer(ニュース解説)記事です(参考文献 3)。
 この記事によると、” How long should I wait between COVID-19 vaccine boosters? (COVID - 19ワクチンの追加接種を受けるのに、どのくらい間をあける必要がありますか?)”との問いに対して、
” It’s best to wait at least four months between doses.”
と回答しています。つまり、ワクチン接種の間隔に関しては、研究者の見解はほぼ一致しており、接種の間に少なくとも4ヶ月待つのが最善であるとのことです。また、「追加接種を受けすぎてもいいのか?」という問いに対しても、「接種間隔が適切である限り、個人の立場からすれば「多すぎる」ということはない」とも回答しているのです。これらをまとめると、ワクチンの追加接種は、「4ヶ月程度の間隔を開けて、流行が始まる直前までに受けた方がいい。」という回答になります。しかし、実際には、第8波に備えることを優先するのであれば、4ヶ月あいてなくとも、ワクチンを受けることを優先する方がいいと考えます。
 
4.日本の「5ヶ月間ルール」は正しいのか?
 日本においては、専門家や厚労省の検討により、「5ヶ月間の間隔をあける」との決定があり、現在でもこのルールが適用されています。しかし、このルールは、現状を反映していないことは明らかであると考えます。ルールを作った段階では、世界的なコンセンサスはまだ生まれていなかったのですから、過去の判断を責めるべきではありません。しかし、現在、科学的知見が「4ヶ月間隔」に収束しつつあるのですから、これに従って行くべきです。実際に、ワクチン接種に積極的な自治体においては、6-7月頃に4回目接種を終了することで、第7波でも地域での死亡者数をゼロに抑えていますが、こういった自治体では、ルール通りに5ヶ月の間隔を取ってしまえば、次の接種を第8波流行の前に完遂させることが難しくなります。今冬に関しては、行動制限の緩和により、インフルエンザ流行の再燃も懸念されます。日本医師会も、コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種を推奨しています(参考文献4)。
 このような状況において、新型コロナワクチン接種が進まなければ、医療現場はさらに混乱する可能性があります。したがって、繰り返しになりますが、新たに開発されたワクチンを待つ必要はなく、既存のワクチンでも11月中には接種を受けておく必要があるのです。日本では、これまでも、ワクチン接種展開の遅れ(菅首相、石原大臣の活躍で事なきをえました)、第7波での医療従事者への接種遅れによる医療従事者への感染拡大など、先進国としてはあるまじき失態を演じてきました。科学的な判断に基づいて、積極的に動く必要があります。あらかじめ生じうる事態を推測して、その事態回避のためにCOVID-19ワクチン接種を進めていくことが必須なのです。(了)
参考文献1. Protection by a Fourth Dose of BNT162b2 against Omicron in Israelhttps://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2201570?query=featured_coronavirus2. Boosting immunity to Omicronhttps://www.nature.com/articles/s41591-022-01727-03. Which COVID boosters to take and when: a guide for the perplexedhttps://www.nature.com/articles/d41586-022-02221-w4. 「インフルとコロナワクチン、同時接種OK」日本医師会が呼びかけhttps://digital.asahi.com/articles/ASQ807FTCQ80UTFL01W.html------------------------------------------------------------------------
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