[1026]危機に立つ“中流” その2

その2

 1991年から2020年までの30年間、日本の労働者の平均賃金はほとんど上がっていません。   

 OECDの「Average Wage(平均賃金)」によれば、G7各国の平均賃金(ドル建て)の推移はアメリカが約47·7%増加したのに対して日本は約4·4%で、イタリアもそうですが、ほぼ横ばいです。

 この30年間、雇用形態は派遣など非正規の雇用が全体の約40%となり、賃金制度も年功序列制から成果主義制度へと変えられてきました。その結果が統計にあらわれています。平均賃金は30年で1636ドルしかしか上がっていません。少子化労働力人口は減っているわけですから、日本の労働者全体の賃金総額はほぼ変わっていないと推論できると思います。

 要するに、日本の資本家階級は雇用形態や賃金制度を変え、労働組合の賃上げ闘争を抑え込むことを通して労働者階級の賃金総額を増加させなかったのです。同額の賃金原資を成果主義の名のもとに振り分け方を変えたにすぎません。その結果格差が広がりました。

 それは労働者階級に貧困を強いることになりました。NHKの番組は「中流」に焦点を当てています。中間層の貧困化の現実は、さらに低賃金の労働者層の生活の影を浮かび上がらせています。

以下、NHKスペシャルのまとめ記事の紹介を続けます。

今、“中流”は
 かつて「一億総中流社会」と言われた日本。企業で熱心に働き、消費意欲も旺盛な人々が経済成長を支えていました。
 
いま“中流”の意識はどうなっているのか。

 今回、NHKは、政府系の研究機関「労働政策研究・研修機構」と共同で、ことし7月から8月にかけて全国の20代から60代の男女を対象にインターネットで調査を行い5370人から回答を得ました。

まず、「イメージする“中流の暮らし”」について複数回答で聞いたところ、回答者のおよそ6割が「正社員」、「持ち家」、「自家用車」などを挙げました。
その上で「イメージする“中流の暮らし”をしているか」を尋ねると、「中流より下」が56%。

イメージするような暮らしが当たり前ではない。そんな時代になっているともいえるのです。
 
中流”の象徴ともされる正社員。その収入はこの20年余りで落ち込んでいます。

労働政策研究・研修機構によりますと、大卒正社員の生涯賃金は男女ともにピーク時に比べて3500万円以上減少したと推計されています。

賃金が減ると消費などに回せるお金も少なくなります。

労働政策に詳しい第一生命経済研究所星野卓也 主任エコノミストの試算では、家庭の可処分所得も減少しています。
可処分所得については、さまざまなデータがありますが、かつての日本のモデル的な家庭として「40代男性で妻が専業主婦、小学生の子ども2人」という世帯を設定。

その結果、1990年が576万円だったのが、2020年に463万円となり、年間113万円余り減少していました。

老後への不安

小沢さん夫婦がいま不安に思っているのは老後の生活です。
清さんの定年退職は5年後に迫っています。住宅ローンは、まだ900万円ほど残っています。蓄えは十分とはいえず、定年後も返済をしていかなくてはなりません。

妻の恭子さんは、平日の派遣の仕事に加え、土日には引っ越し作業のアルバイトも入れるようにしています。
 
すぐに生活が成り立たなくなるわけではありませんが、病気で働けなくなったり親の介護で出費が増えたりする事態に直面すれば、今の暮らしが維持できなくなるおそれもあります。

夫婦ともに、今後、働ける間は、働き続けようと考えています。
恭子さん(仮名)
「家計は自転車操業の状態で、体力があってまだ動けるうちに少しでもお金をためておきたいと思ってアルバイトに出ています。働けるところまで働くしかないという形に追い込まれている状態です。楽しみのために働くとかは全くないですね。今はなんとかやっていけますけども、心配しているのは老後。果たしてこのままやっていけるのか」

暮らしに余裕がない

正社員として働き続けても余裕のある暮らしを送れず、将来への不安が拭えない。

NHK労働政策研究・研修機構の調査でも、こうした人たちが、一定の割合を占めている実態が浮かび上がりました。
青木和洋さん(仮名)
「父親は結婚してマイホームを持ち車も持って子どももいる。父がお金をもっている方だと初めて気付いた感じがしています。今は全く豊かな未来が想像できません。
 
会社からの収入だけでは、将来にわたってして暮らすのは難しいのではないか。

 青木さんは少しでも収入を増やしたいと投資スクールに通い始めました。大事にしてきた友人とのつきあいもやめ、その分を株への投資に回しています。
青木和洋さん(仮名)
「頑張ったら頑張った分だけお給料は上がって行くものだと思っていましたが、周りの先輩からは『そんな頑張っても給料上がらないから』と言われました。ああ、そうなんだなって落胆しました。明るい未来が見えないというかモチベーションが上がりません。こんなはずじゃ無
かったのにと思ってしまいます」
今回の調査では、「よい人生を送るための条件として最も重要なこと」についても質問しました。
「真面目に努力すること」「よい教育を受けられること」「人脈やコネに恵まれること」などの選択肢から選んでもらったところ、「真面目に努力すること」をあげる人は60代では57%でしたが、20代では39%となり、若い年代ほど下がる傾向が出ていました。
 
私の意見∶
 青木さんのインタビューで、頭打ちになった賃金を補填するために投資をすると言われていました。今や岸田首相がNISA(少額投資非課税制度)を恒久化すると言いはじめています。
 私たちが頼りにできるのはしっかりした賃金闘争です