[1130](寄稿)医療あれこれ その73−1

ペンギンドクターより
その1
皆様
 はや1月も半ばとなり、心なしか日が長くなったように感じます。公園の「蝋梅(ロウバイ)」もちらほら黄色い花を開いています。我が家では道路に面した窓の目隠し代わりになっているアブチロンがいつもと変わらず「チロリアンランプ」の花を咲かせています。この花はブラジル原産とも言われていて、私は駅前の駐車場の金網にからみついて咲いていたのを、近所の人が「たくましい樹木で枝を挿し木にすると簡単に根付くから折って持って帰ればいい」と薦めてくれました。その後駐車場の金網からは撤去されましたが、今は私の家で生きているということになります。実際に逞しい樹木で根付くとぐんぐん伸びて支持棒がなくて地表を這う場合は、地面に触れたところから根を出します。一年中咲きます。ただし、新しい枝にしか花をつけないので、適宜剪定する必要があります。枝を挿し木にすると簡単に鉢に移植できて、女房は近所のおばさんが希望したので進呈していました。その目で見るとあちこちに植えられています。明るい色の乏しい冬も、サザンカとは違った冬の色どりを与えています。
 
 年末年始もあったという間に過ぎました。恒例の年末の神社仏閣参りは車で一時間以内の場所はほぼ行き尽くした感があり、昨年師走は出かけませんでした。
 それよりも、12月26日に班内の91歳の女性が亡くなったという連絡が入り「班長」の私たち夫婦は、ちょっと忙しい思いをしました。91歳とはいえ、認知症もなく元気で自分の身のまわりはすべて自分でするという老人でした。もとは酒屋さんでしたが、それはもうずっと昔に廃業されていました。ご主人は糖尿病でこちらは20年以上前に亡くなっています。4世代同居でした。12月22日の夜、いつもように入浴したのに、出てこないので家人が見に行ったら亡くなっていたという経過です。すぐに救急車を呼び、近所の病院に担ぎ込まれました。こういう場合、普通は警察の検視が必要ですが、たまたまこの人はその近所の病院がかかりつけで、前日その病院で「めまい」のため、MRIを撮影していました。異常はなかったのですが、恐らく主治医が「脳卒中」という診断でもつけて死亡診断書をすぐに書いてくれたようです。まさに見事な「ピンピンコロリ」でした。
 「ピンピンコロリ」は老人にとって理想のように言われていますが、実際にはなかなかそううまくいきません。長寿社会の現在、「認知症」という厄介な病態が待ち構えています。特に女性はアルツハイマー認知症が多く、どうしても施設入所を依頼せざるを得ません。私の母の病態を繰返すことはやめますが、上野千鶴子さんの「おひとりさまの老後」関連の本がよく売れるのはよく理解できます。エーザイ認知症関連の新薬がアメリカでまた認可されたという情報がマスコミをにぎわせていますが、本当に認知症に有効なら、まさに朗報です。
 また今回の急死について思うのは、近くに「かかりつけ」の病医院をもっておくことの有効性です。私も人知れず急死していたというケースで、警察と現場へ「検視」に赴いたことがあります。東京都内なら「監察医務院」の登場でしょうが、その地域以外では、だいたいは警察官(慣れた人が多い)と医師とで現場に行きます。私が登場する時は、大体の状況は調べてあって、私は警察官に「事件性はある?」と聞くと、だいたいは「ありません」という答えが返ってきます。いろいろなケースがありますが、数多いなかには、後に家族から不審を指摘されるようなこともあるようで、いつもいい加減でいいというわけでもありません。私なりにいろいろ想定しながら、死体をチェックしていました。在宅医療の現場に行くと、それぞれの生々しい人生がありますが、死体の現場でも、様々な人生が想像されて、ある意味で日本の現実がうかがわれるように思いました。
つづく