[1270](寄稿)医療あれこれ(その85)ー2

ペンギンドクターより
その2
 岸田政権が「異次元の少子化対策」を打ち出しています。財源はともかく、結構なことだと思います。先日一冊の本を読みました。窪田新之助・山口亮子『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書、2023年5月10日第1刷発行)です。著者は農業ジャーナリストです。いろいろ現状に対して目を開かれました。内容はいずれ紹介する機会もあるでしょうが、「少子化対策」で「人口増」を期待することは無理です。昔読んだ藤正巌・古川俊之『ウェルカム・人口減少社会』(文春新書、2000年10月20日第1刷発行)ではありませんが、昔から人口減少はわかっていたことです。因みにこちらの著者二人は医学部卒です。
 要は人口減少を前提として、移民や知力・体力の衰えた高齢者も有効に働ける環境を作ることです。引きこもりの人びとに社会に再登場してもらうとすれば、やはり自然との共存でしょうか。……。私の妄想が広がります。
 
 私の日々の仕事に関係していることでいえば、新しい電子カルテが導入されて、仕事に要する時間が減りました。全体としては医師の仕事が増えたのですが、医師である私の仕事の記録が大変スピードアップして仕事時間は2割程度減少したと感じています。何しろ検診センターでは紙カルテと電子カルテ二重登録だったのですから。
 例えば、受診者が食道・胃・十二指腸のバリウムの造影を受けると、放射線技師のチェックの後に、検診センターの事務員が一階に出かけて紙の報告書を回収して、それをもらって私がレントゲンの読影をしていたわけです。ところが、今は電子カルテの受診者一覧を開けば、レントゲン撮影が終了したというマークをみて私が診察のあいまに電子カルテの報告欄に記入することができます。……。医師の仕事は増えたとしても、効率は向上しているので、事務員は別の仕事が可能になります。あるいは人減らしも可能になります。有能な事務員は電子カルテのメンテナンスをしてくれています。
 また、昨年まで勤務していた「在宅医療主体のクリニック」でも往診時は紙カルテでした。電子カルテには事務員が転記していました。そういう無駄な仕事は2000万円の設備投資で、往診先で医師やナースが患者さんのそばで端末に入力すればいいはずだったのです。有能な事務員がおかげで2人も辞めて行きました。もう20年も前にそういう端末は出来ていました。転記のミスも防げます。
 日本の人口減少社会は現実です。人口が減少することは、いいことです。人類は多すぎます。食もエネルギーも消費しすぎです。世界的に見れば、人口増加のいわゆる発展途上国が発展すれば、人口は減少してくるはずです。もちろん、現実はそう簡単ではありませんが……。
 この話はこのへんで。 
つづく