[1294](寄稿)医療あれこれ(その87)ー2 電子カルテについて

ペンギンドクターより
その2
 ここで話題を転じて私の勤務する病院特に検診センターの電子カルテについて述べます。紙カルテと併用していたので、無駄が多く、私の仕事は5月からの新しい電子カルテの導入で2割程度仕事時間が節約できたとお話しました。具体的には新しい電子カルテの導入で、その電子カルテのメーカーの社員が3月頃から移行をスムースにするために常駐していました。病院には情報企画課がありますが、その部門と密接に情報交換をして準備してきました。しかし、外部会社も病院内の事務も実際の診察や検査のことには精通していないので、私の勤務する検診センターでは、若くて有能なナースを抜擢して、具体的な診療結果の入力項目を作る仕事をしてもらったのです。検診センターでは対象者は病人ではありませんから、診察や検査結果はパターン化できます。それでも相当程度の知識が必要です。それを有能なナースはうまく処理してくれました。
 今の私は、(火)(木)の午前中だけですが、上部消化管レントゲン写真の読影があるので、朝は8時前に仕事場に行き、電子カルテを立ち上げて、テキパキと仕事ができるようになり、以前より仕事が楽しくなっています。以前のデータなどもクリック一つで参照できるのですから。
 昔、近所の開業医の外来を手伝っていたときは、ボロボロでばらけそうな紙カルテを開き、どこに何が書いてあるのやら、まったくチェックなどできず、私にとって初めての患者さんなら、一から以前はどんな病気をしたのか、聞くことから始まるしかなかったのですから。電子カルテなら、スクロールすれば簡単に以前患者さんがどういう状態だったか、すぐにわかります。
 
 電子カルテ礼讃ばかりでは、不公平かもしれません。ここで電子カルテで苦労した話をひとつしましょう。
 もう7年ほど前だったか、私たちの同級生のHさんが胃癌になって手術したことはみなさんご存知でしょう。紆余曲折はありましたが、妹さんがO市在住でもあって、私がかつて勤務していたA医大外科の胃がん担当の教授に頼んで手術してもらうことになりました。教授は、私が血気盛んで食道・胃の手術をしていた頃にY大学を卒業して入局してきた医師でした。噂では評判もよかったので、頼むのに躊躇はしませんでした。「手術させてもらうのは光栄です」などと言い、外来日ではないのに、朝9時に医局検討会を中座して外科外来に行きますので、患者さんにそこに来てもらってください。事務には話しておきますとのことでした。
 ところが、これだけではダメなのです。昔なら、外来に紙カルテの予備が何枚もあって、保険証番号とかは診察後でも記入できるのですが、電子カルテではそうはいきません。まず電子カルテそのものを作る必要があります。A医大の玄関が開くのが8時少し前だとして、初診の患者さんは沢山いるはずですから、玄関を入ったところに、案内担当がいて、整理券を配布しています。そこで私はHさんには8時半ごろに大学病院の玄関に来るように伝えたものの、私自身は8時前に大学の玄関に行き、整理券をもらいましたが、予想通り30番ぐらいでした。田舎の大学病院受診の患者さんは朝早いのです。8時半になると、8人ほどの医事課の事務員がちょっと高い台の上に陣取って、整理券番号順に患者さんを呼びだして、保険証を確認、紹介状があればそれを確認……要するに電子カルテを作るのに時間がかかるのです。紹介状があれば、どこから紹介状があり、その紹介先には、本日来院されたことを返信する必要がありますし、紹介状があるなしで費用も違いますから、このチェックは欠かせないのです。
 そうこうするうちに、時間は経過しますから、来院したHさん夫妻と私はやきもきしていましたが、結局8時45分ごろに私が脇から前に出て、「教授が9時に外科外来で待っているから、よろしくお願いします」と割り込みました。すると、その話は通じていたらしく、その後はスムースでした。何とか外科外来で9時に教授とHさんを面談させることができました。
 つまり、相手は機械ですから、流れに逆らうことはそう簡単ではないのです。
 今はもっと複雑になっています。セキュリティの関係もあり、後でその日の検査が都合が悪いといって、日時をちょこちょこと変えるわけにもいかないのです。依頼した医師自身が変更する必要があるわけです。
つづく