[1489]中国EV企業トップのインタビュー

 日経新聞「月曜経済観測」に中国のEV開発大手、阿爾特汽車技術(IAT)宣奇武董事長のインタビューが掲載されています。中国は、不動産不況が続いており経済危機に苦しんでいます。習近平中国共産党100年周年で打ちだした小康社会の実現から共同富裕へという政策も最近は前面にだせなくなっています。

 新興資本家・宣奇武氏は不況の原因と打開の方向性を明確に語っています。中国資本主義のホープと言っていいでしょう「社会主義」とは無縁です。日経新聞インタビューの要旨を紹介します。

中国景気回復の芽は 生産過剰、企業の淘汰進む

IAT董事長 宣奇武氏 2024/1/8付日本経済新聞 朝刊参照

「2023年の中国経済は住宅販売や消費の低迷など失速が目立った。24年はどう動くのか。中国の電気自動車(EV)開発大手、阿爾特汽車技術(IAT)の宣奇武董事長に聞いた。

――中国の景気がなかなか回復しません。  

 『背景の一つに生産能力の過剰がある。中国は新型コロナウイルス禍で世界の生産活動が止まった時も生産を続け、供給網確保のため様々な企業が国内の能力拡大に動いた。コロナは収束したが消費は回復せず輸出もへった。供給過剰がデフレの一因となっている。』

ーー24年も続きますか。

 『激しいコスト競争は続く。今は過去の成長時の余力で耐えていてもいずれキャッシュフローが切れ限界を迎える企業が出てくる。今年は一層厳しい競争と淘汰が進む年となるだろう』

ーー中国のEV業界も約300社がせめぎ合い、価格競争を展開しています。

 『中国の消費をけん引してきたのは5軒や10軒のマンションを持ち、現金が足りなくなれば『1軒を売ればよい』という感覚を持つ層だった。不動産価格の再上昇は期待薄だ。今後はいかに『新しい消費』を生み出していけるかが問われる』『若者世代は新しいものには理性的にお金を使う。こうした消費者がこれからの中国経済を回していく。彼らに向け最先端で個性があり品質が高く安いものを出していけるかが勝負だ』」

 

 ここまでで中国経済の困難な現状と資本家の課題が簡潔に述べられています。次に具体的に何をするかということに移ります。

 

「ーーIATではどう取り組みますか。

 『生成AIによる開発システムをつくる。これまで3年はかかっていた量産までの期間を16カ月程度に短縮する。世界的にみても、こうしたシステムは中国のEV設計最大手として膨大なデータを持つIATにしか開発できない。今春には一部スタートする』」

 

 IATはEVを設計し生産する労働過程にAIを導入し労働者がそれを使ってEVを量産するといいます。労働生産性を2•25倍に高めるということです。

 すでに拠点がある米、日、東南アジアでEVを量産して売るという。ドイツに法人をつくり現地メーカーや中国企業の開発を支援するとともにヨーロッパの技術の導入も視野に入れているといいます。

 

EV開発に出遅れた日本の企業については?

「悲観論は間違い

ーー日本の自動車業界EV開発で出遅れました

 『日本のネックはサプライヤーにある。電動化•人工知能化した車には本来まったく新しい部品が必要だ。日本の自動車メーカーは多くのサプライヤーを抱えており、彼らに新しい車の部品開発も任せようとしている。そうしてできた車はコストや機能面で見劣りする恐れもある』」

 

 ガソリン車生産の下請け企業群を抱えている日本の自動車メーカーの生産構造にまで触れています。ガソリン車と種類がまったく異なるEV車の部品をつくるためには旧来のサプライチェーンでは技術面コスト面で不利な問題がおこるということです。

 聞き手の中国総局長桃井氏がインタビューの終わりに言います。

「ーー日本では中国市場への悲観論が出ています。

 『その見方は間違っている。···先がどうなるかはわからない。中国は中産階級だけでも2億〜3億人規模の巨大な消費市場だ。今は壁にぶつかっていても長い目でみるべきだ。25年には供給過剰も整理される。放棄してはいけない』」

 

 日本の資本家階級が中国の資本家に慰められ励まされています。この宣奇武董事長という人は典型的な資本家です。労働の搾取率を高めるために生産過程の主客両面の技術化を進め労働者を生産性向上にかりたてています。「社会主義」とは無縁なこういう資本家階級の人たちが中国の支配階級となっています。習近平がいう「社会主義現代化」とは鄧小平が導入した改革開放政策の推進過程で資本主義化した中国式国家資本主義のこんにち版です。 

 国家がレギュレイトする資本主義中国では宣奇武董事長のような資本家が国家の後押しをうけて合理化攻撃を労働者階級にかけてきます。労働者階級の闘いは止むことなくつづきます。

 日中の労働者階級がともにスクラムを組んでたたかわなければなりません。