[1443]「AIと私たち」についてーその5 「大企業が囲い込むネットと生成AI」

承前

 前回で問題の焦点が生成AIの私的所有の問題に移されました。インタビューアーが次のように質問しています。

ーーAIを利用すればするほど私企業が利潤を上げる、と。

大澤「元ギリシャ財務相で経済学者のヤニス•バルファキス氏は現在の資本主義を『テクノ封建主義』と呼んでいます。確かに、世界では異常なほど格差が拡大している。アマゾン創業者のジェフ•ベゾス氏やマイクロソフトのビル•ゲイツ氏ら米国の超富裕層が数十億人分の資産を所有しているように」

私の意見∶現在の資本主義を「テクノ封建主義」と呼ぶのはまあイメージは湧きますが封建主義ではないでしょう。AIを利用すれば労働の生産性は向上します。したがって労働力と生産諸手段を私的に所有している資本家はどんどん利潤を得ます。

 大澤氏は「そんなプラットフォーム企業が行っていることは、いわば『囲い込み運動』です。自分たちで発明したわけでもないのに、勝手にコモンズ、共有物であるインターネットという土地を囲い込んで『私有地』としている。」と言います。簡単に言えば資本家はネット上のデータを利用して労働者に商品を生産•販売させ、膨大な搾取によってますます儲けていくということでしょう。

 インタビューに戻ります。

ーーこの道を進み続けると、格差はさらに広がりそうです。

大澤「ええ、私的に所有されたAIは、格差を極大化させる恐れがある。しかし、生成AIが利用しているのは、ネット上にただで落ちている知識の合計です。だから本来、生成AIは誰のものでもないはずで、いわば人類の共通財産として民主的に管理されるシステムを作り上げるべきではないでしょうか。その時、私的所有を基本とする資本主義とは違う枠組みが必要になるでしょう」

私の意見∶「••••••だから本来生成AIは、誰のものでもないはず」というのはいささか短絡的です。大澤氏の気持ちはわかりますが、しかし資本主義社会で生成AIを資本家が私的所有するのは自由でしょう。生成AIは労働の生産性向上のために資本家が開発し生産過程に導入したのです。

 インタビューアーが疑問をもって聞きます。

ーーAIを共有物にすると言っても、一体誰が管理するのですか。国家同士がこれほど争い合っているのに。

私の意見∶これは大澤氏の意見にたいして当然出される批判的質問です。大澤氏は次のように答えます。

大澤「これは、もちろん夢みたいな話です。でも、例えば核兵器について考えてみてください。核爆弾が開発された時に国際管理を進めればよかったのですが、現実はそうはならず、冷戦の脅威の方が前面に出て核開発競争が起きてしまった。生成AIも、人類共通の利益であると同時に脅威でもあるわけですから、国益や私企業の利益に左右されるのはまずいでしょう。」

私の意見∶核爆弾は戦争に勝つためにアメリカが開発したのですから、国際管理と言っても空理空論です。生成AIも資本家が労働の生産性を向上させるために開発したのです。本質的には国益や私企業の利益のためという階級性が刻印されているのです。人類共通の利益であるというのはAI技術を超階級化する誤りです。

大澤氏はつづけて言います。

「人類が積み上げてきたコモンズの上に成り立っている生成AIは、私的所有を超える方向性を考える契機となります。現状では夢物語ですが、AIの国際管理は遠い将来、世界連邦のような体制につながるかもしれない。」

私の意見∶主語と述語が反対です。各国で資本主義体制を倒し世界連邦のような体制が打ち立てられた時にAIの国際管理が実現される可能性がでてくるというべきでしょう。

 労働者階級が国家権力を掌握することを抜きにしたコモンの量的拡大を言うのは確かに夢みたいな話です。コモンの量的拡大の直接的延長線上に革命を展望するのは夢想に過ぎません。

 40年まえ、ソ連邦の衛星国ポーランドで自主管理共和国の実現を夢みた労組「連帯」のイデオローグ、ヤツェク•クーロンを思いだしました。工場•地域を労組が自主管理しその量的拡大によって自主管理共和国を樹立するという理想がポーランド労働者に浸透しました。しかしその夢はソ連とその代理人ヤルゼルスキ将軍の弾圧によって壊滅させられました。私は日本の地でクーロンのサンディカリズムを批判しつつ支援の声を上げましたが、闘いは敗北しました。