[1176](寄稿)医療あれこれ(その77)−2

 
ペンギンドクターより
その2
 

 
 75歳になった私の周辺では、多くの人々が亡くなったり病を得ています。年賀状にも昨年多くの喪中の知らせが届きました。また受取った年賀状も「今年で最後とします」という文面が散見されました。お互いの近況報告が「年賀状だけ」というのも多いので、ちょっと残念ではありますが、私も来年の年賀状で最後にしようと女房と話しました。考えてみれば、75歳は十分老人です。日本人の現在の「健康寿命」はご存知のように、男性72歳、女性75歳あまりです。「平均寿命」は男性82歳、女性88歳を超えたという情報もあります。ここで横道にそれます。
 
 佐藤優プーチンの野望』(潮新書、2022年6月6日初版発行、潮出版社)の93頁につぎの文章があります。
 <ロシアの人口問題で特徴的なことは、男性の平均寿命が短いことであろう。1994年ロシア男性の平均寿命は57.3歳まで落ちてその後若干上昇したが、ここ数年再び下降し2002年は58.5歳となった。この年、ロシア女性の平均寿命は72.0歳であるが、先進国で男女差が14歳以上の国は世界中に存在しない(通常は4-7歳である。日本の場合、2003年男性78.4歳、女性85.3歳でその差は6.9歳である)。この要因の最大のものは、ロシア男性に潜在的に存在するアルコールに対する過度な依存症にあると思われる>(遠藤洋子『いまどきロシアウォッカ事情』東洋書店、2006年)
 プーチンが大統領に就任(注:プーチンの大統領就任は2000年)した後、ロシア人男性の平均寿命が低下したのは、おいしいウオトカが大量に生産されるようになったからだ。ウオトカの生産量が増えると国民の政治意識は低くなり、政権にとって統治が容易になる。プーチンがウオトカを用いた「愚民政策」を採っていたと私は見ている。
 
 佐藤優のこの本は彼がこの20年余りに発表したプーチン関連の意見をまとめたものです。ご存じのように潮出版社創価学会系の出版社です。彼自身は敬虔なカルヴァン派キリスト教徒です。彼は1960年生まれでまだ62歳と若いのですが、慢性腎不全にて週3回4時間ずつ血液透析を受けています。また前立腺がんも見つかっています。死期を意識して仕事を選択していくとのことですが、明晰な頭脳を維持してどこまで魅力的な書物を出し続けられるか気になるところです。
 
 私にとってロシアという国はある意味で魅力的な国ではありますが、私の理解を超えた国でもあるようです。トルストイドストエフスキーを生んだ国ですが、ロマノフ王朝が君臨しその後レーニンスターリンを生んだ国です。ゴルバチョフ書記長を生みはしましたが、ゴルバチョフの人気が失墜したのは、アルコール依存症を減らそうとウオトカの制限をしたからだと言われています。うちの女房は、歴代の政治家で自分が信頼できるのは「周恩来ゴルバチョフメルケル」だそうです。しかしゴルバチョフはどうみてもソ連・ロシアのトップとしては異端だったように思います。
 
 どうしてもロシア関連の文章になってきますが、平均寿命・健康寿命に戻しましょう。75歳いや70歳を超えるといろいろな病気が出て来ます。私は今、週2日検診業務を仕事にしていますが、受診者を診察する時にチラリと受診者の人がどんな病気をしたかという欄を見ます。そして私に興味がある病気なら、その人の番号を手帳にメモします。そして後で、その人のカルテを見るのです。これが大変勉強になります。私の勤務している病院は「地域がん診療拠点病院」ですから、各種のがんの治療を自らやっていますから、現在のがん診療の実際がわかります。また内科では循環器の専門医がいますので、第一線の治療もわかります。整形外科や呼吸器内科・外科もある程度わかります。そうして臨床から離れた今も診療の実際を勉強しているわけです。
 先日も言いましたが、医師国試のクイズ(日経メディカル)は基礎的な問題ですが、他のネットワークのクイズでは、専門医が解説をしてくれてやっと理解できるようなクイズもあります。いい勉強です。
 そして、ここが重要ですが、高齢になると、クイズに出てくるようないろいろな病気が大変身近な自分自身が体験する病気となってくるわけです。皮膚科も然り、心不全・呼吸不全・眼科・耳鼻科然りです。
 単なる医師の知るべき病気としてでなく、自らの今後を決める病気の知識と考えると、他人事ではありません。予防できる病気が数あるわけではありませんが、健康法は出来るだけ励行して、少しでも頭をスッキリさせて世界の動きに遅れないようにしている毎日です。
つづく