[880](寄稿)今回は「元外交官佐藤優」についてお話します


ペンギンドクターより
その1

皆様
 立て続けですが、今回は「元外交官佐藤優」についてお話します。
 とは言うものの、一応COVID‐19関連の意見も添えないと格好がつかないので、転送します。山登一郎名誉教授の主張は以前にも紹介しました。MRICではお馴染みの方ですが、よく勉強されています。(編集者註:次回紹介します。)前回、中村祐輔医師の本について紹介しましたが、日本の政府の新型コロナ対策の立ち遅れの根本的な原因はPCR検査の少なさに起因していると私も思っています。そりゃそうです。病気というものは診断してから治療および蔓延対策が始まるものです。誰にも自明のことです。
 ウクライナについてもまずは情報収集です。ロシアの歴史、ウクライナの歴史も必要でしょう。NHK-BSではこのところプーチンのドキュメンタリーが幅を利かせています。2016年12月のアメリカからのドキュメンタリー「プーチンの道 その権力の秘密に迫る」が放送されていたので、録画して昨日観ました。廣瀬陽子氏の本以上に、プーチン政権の腐敗が取り上げられていました。その時点でどこまで真実かは疑問符がつくものの、説得力はあります。

 さて、佐藤優です。私は彼の本を110冊以上読みました。彼のファンと言ってもいいでしょう。従って彼に対する私の評価は割り引いていただいた方が賢明です。まずは彼の略歴を述べます。2012年末ごろに私が「佐藤優」という存在を初めて知った本『獄中記』(岩波現代文庫、2009年4月16日第1刷発行)からの略歴を示します。
佐藤優:在英日本国大使館、ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、95年より外務省本省国際情報局分析第一課。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。05年2月執行猶予付き有罪判決を受け、09年最高裁で判決が確定し、外務省を失職。『国家の罠――外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞、新潮文庫)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞新潮文庫)ほか多数。
 今、駅ビルの書店で平積みになっている『佐藤優の集中講義 民族問題』(文春新書、2017年10月20日第1刷発行)からの略歴には次のように書かれています。
佐藤優:1960年東京都生まれ。作家。同志社大学大学院神学研究科修了。元外務省主任分析官。著書に上述の2冊の他に『私のマルクス』『交渉術』『人間の叡智』『世界史の極意』『サバイバル宗教論』『宗教改革の物語』など多数。

 二つの本の経歴だけでもユニークさはある程度推定できますが、私の読んだ彼の本のなかでは、単著も多いほかに数多くの対談があります。その対談相手を列挙します。(カッコ内は職業)。順不同ですが、対談数の多いと思われる人物から始めます。ただし、彼の著書は私の持っている本の数倍はあると思いますので、絶対数ではありません。

 手嶋龍一(外交ジャーナリスト)、池上彰(ジャーナリスト)、宮崎学(作家、元共産党系ゲバルト部隊長)、宮家邦彦(元外交官)、片山杜秀(思想史研究家)、橋爪大三郎社会学者)、五木寛之(作家)、井戸まさえ(元民主党衆議院議員)、杉山剛士(浦和高校校長)、藪中三十二(元外務省事務次官)、立花隆(評論家)、山内昌之歴史学者)、山口二郎政治学者)、佐高信(評論家)、加藤陽子歴史学者)、福田和也(文芸批評家)、竹村健一(ジャーナリスト)、中村うさぎ(作家、エッセイスト)、的場昭弘マルクス主義系経済学者)、山崎耕一郎(労働運動専従、社青同元委員長)、竹中平蔵(経済学者)、副島隆彦(評論家)、斎藤環精神科医)、亀山郁夫東京外国語大学長)などです。

 いろいろな人が対談相手になっています。佐藤優の引き出しの多さがわかると思います。どの対談でも相手の意図をうまく引き出していて、大変興味深い本に仕上げています。ただし佐高信については、現在、佐高信佐藤優というタブー』という本で佐藤が1000万円以上貰っているという事実無根の情報を書かれたとして「名誉棄損」で訴訟を起こしているようです。また立花隆との対談『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』(文春新書、2009年10月20日第1刷)では、お互いの主張がかみ合っていないという感じを私はもちましたが、裏話として立花隆の「形而上学は認めない・・・・・」とかいう発言があって、この本の作製は無理かなと一時的に悩んだそうです。
 また、佐藤優は現在「末期腎不全」と「前立腺がん」にて闘病中ですが、この1月には大学病院に入院中という情報もあったと記憶しています。前立腺がんは予後のいい癌ですが、血液透析をせざるを得ないような末期腎不全が絡むと、治療法はむずかしくなります。末期腎不全の場合、腎移植が最もいい治療法で、実際奥さんから生体腎移植も考えたようです。しかし、術後免疫抑制剤を使うことになるので、もし転移がある前立腺がんの場合、移植は不可能となるだろうと素人の私でも考えます。今後どういう治療になるのか、経過が気になります。

 ロシアのウクライナ侵攻に関して、佐藤優の意見がどのようなものか、私は知りません。彼は原則的にSNSは使わないと言っていましたから、病気のこともあるし、沈黙をしているのかもしれません。マスコミの記者や編集者たちは、当然彼の意見を知りたいと思いますから、いずれ出て来るとは思います。

 私が持っている彼の本のなかで、ロシアの評価やウクライナ関係にはいろいろあります。
 上述の今書店で平積みになっている本から始めますと、
 ●『民族問題』では、147-173ページに「第五講 民族理論でウクライナ問題を読み解く」という項目があります。2017年10月20日発行の本ですから、ロシアを一方的に責める本ではありません。歴史的な背景がある程度理解できるといった本であり、ロシアのプーチンについて述べていることを期待して購入した人は落胆するでしょう。でも勉強になる本です。
 ●亀山郁夫佐藤優『ロシア 闇と魂の国家』(文春新書、2008年4月20日第1刷)は、「第1章スターリンの復活」でプーチンについて述べています。前述の2016年12月のアメリカの放送の腐敗したエリツィンプーチンの描き方とは異なっています。好意的とは言えませんが、全体としてロシアを批判しつつもロシアを愛する二人の本だと思います。
 ●五木寛之佐藤優『異端の人間学』(幻冬舎新書、2015年8月5日第1刷)は、「第二部 見えない世界の力」の中で「ウクライナ危機のポイントはガリツィア地方にある」と「第二次大戦後のウクライナの混乱」という項目があります。ガリツィア地方は西側でここのウクライナ人はナチス・ドイツにつきました。結局ソ連ウクライナが併合されるとカナダに亡命してそこに120万人のウクライナ人がいて、今もウクライナ語を喋っています。カナダで喋られる言語は英語、フランス語、三番目がウクライナ語です。この項目を読むとロシアのウクライナ侵攻の背景がわかるような気がします。
 ●山内昌之佐藤優『悪の指導者論 なぜ今、「独裁者」ばかりなのか』(小学館新書、2017年12月4日第1刷発行)は、「第3章 歴史家にして希代の語り手 ウラジーミル・プーチン(ロシア)」(143-198)で、プーチンを取り上げています。佐藤によれば、プーチンは数兆円の不正蓄財を許した首相メドベージェフをこの時点で警戒していると述べています。 全体としてプーチンをそれなりに評価しているような論調です。そして佐藤優の情報収集の広範かつ深さに驚嘆します。
 ●佐藤優地政学入門』(角川新書、2021年11月20日初版発行)は、「第二講 ハートランドの意味」のなかに、『ロシア人の国境は「線」でなく「面」』という項目があります。そこで「カルパッチャ州」に言及しています。カルパッチャ州はウクライナの一番西側、ハンガリースロバキアポーランドルーマニアの国境と接しているところです。ここはウクライナの一部ですが反ウクライナで、なおかつ強力な親ロシアです。ここの人たちは自分たちのことを、988年にキエフ・ルーシにキリスト教が導入されたときのロシア人の末裔だと思っています。ここにはカルパチア山脈があって、問題を複雑化しているようです。・・・・・・

 以上、佐藤優の本の一部を引用しました。いろいろ読んで断片的な知識を得ても、全体としてロシアとウクライナのイメージは固まりません。KGB出身のプーチンが普通の意味でヒューマニストであるはずはありません。汚職・腐敗にまみれていることは明らかでしょう。どうなるか、私としては私なりの情報収集を続けるとともに、日々を大切に生きていく他はないようです。週二日の健診の仕事は、幸い「余人をもって代えがたし」と言われていますので当分は続けます。
 そうそう追加です。佐藤優浦和高校社会党系の社青同「協会派」に入り、資本論を完読しています。ただし、同志社大学学生となり二年生の時に社青同を抜けています。熱心なキリスト教カルヴァン派の信者でもあります。猛烈な勉強家であり、立花隆が「知の巨人」と言われたとすれば、佐藤優は「知の怪物」とも言われています。
 では、きょうはこのへんで。ミスがあるかもしれません。その節はご容赦ください。