[216]最高裁判決、非正規労働者への待遇格差「不合理ではない」❗️❓️

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労働組合員より

 非正社員労働者が退職金と賞与の待遇格差を不当として闘っていた二つの裁判で、10月13日、最高裁は不当にも「非正社員に退職金、賞与がないのは不合理ではない」という判決をだしました。また、10月15日には最高裁が正社員と同じ仕事をしている非正規社員に扶養手当、有休などの労働条件で待遇格差をするのは不合理であるという判決をだしました。これは郵政非正規労働者の闘いの成果です。
 13日と15日の判決は、2020年4月1日にパートタイム・有期雇用労働法が施行された後の判決として、これからの非正規労働者の賃金をはじめとする労働条件改善の闘いに大きな影響を与えるものとなります。この労働法は中小企業には2021年4月1日から施行されることが決まっており、最高裁判決が判例となって多くの非正規の労働者の労働条件に影響を与えるのは必至です。

 パートタイム・有期雇用労働法とは、同じ会社で同じ仕事をする正社員とパートや契約社員派遣社員などの非正規労働者との間で、「基本給」や「賞与」などのあらゆる待遇の不合理な格差を禁止することを定めています。「同一労働同一賃金」といわれる考え方にもとづいていますが、13日の最高裁判決は、経営者に非正規雇用労働者の賃金を抑制するために格差の合理的な理由づけをすることを促しているかのようです。
 この法の施行によって雇用主は、実施する雇用管理の改善などに関する措置の内容を、パートタイム労働者だけでなく、有期雇用労働者にも説明しなければならなくなり、非正規雇用労働者は、正社員との「待遇差の内容や理由」などについて、雇用主に説明を求めることができるようになります。労働条件の策定と説明をどうしようかと悩んでいる経営者にとって13日の最高裁判決は道しるべとなるでしょう。

 
最高裁判決――非正規雇用の退職金、賞与がないのは不合理とはいえない


①10月13日最高裁契約社員に退職金を支払わないのは不合理とはいえないという判決を出しました。
 退職金については東京メトロの子会社「メトロコマース」で働いていた契約社員の女性労働者4名が約10年間駅の売店で働いたのに、正社員には支給される退職金が契約社員には支給されないのは不当であり労働契約法20条に違反するとして裁判に訴えていました。東京高裁の判決は退職金の25%にあたる賠償金を支払うよう命じましたが、最高裁で否定されました。


 労働契約法20条とは簡単に言うと、正社員労働者と契約社員労働者との間で、不合理に労働条件を相違させることを禁止するルールです。20条は2018年にパートタイム・有期雇用労働法に移されました。

参考:労働契約法第20条(パートタイム・有期雇用労働法に移行)

第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、 不合理と認められるものであってはならない。


 最高裁は、売店の正社員と契約社員の仕事は「おおむね共通する」が正社員はエリアマネージャーにつくこともあるなど一定の違いがあることを認めました。また、退職金は「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保」という目的もあるので契約社員に退職金がないのは不合理とはいえないという判断を示しました。正社員確保という退職金の目的があれば非正規には支払わないという経営者の裁量を認めるというものです。

 ただし5人の裁判官のうち1人は「退職金は継続的な勤務への功労報償という性質も含み、契約社員にも当てはまる。仕事内容に大きな違いもなく、労働条件の違いは不合理だ」と述べました。(朝日新聞10月14日朝刊参照)


 大阪医科薬科大学で2年間秘書としてフルタイムのアルバイトで働いていた女性労働者が、ボーナスの支払いを求めた裁判で13日最高裁は、正社員との仕事内容の一定の違いがあるのでボーナスゼロは違法とはいえないと判断し、正職員の60%の支払いを命じた大阪高裁の判決は逆転されました。
 大阪高裁は、大阪医科薬科大はボーナス支給を正社員にたいしてほぼ一律に支給しており、成績や仕事内容にかかわりがないので、働いたこと自体が重要視されていると判断してフルタイムで働くアルバイト職員にも支払いを命じたのです。ところが最高裁は「仕事の内容の違い」――正社員は病理解剖に関する遺族対応や劇毒物などの試薬管理などをする――があるからアルバイトにはボーナスはなくてよいという判断を示したのです。
 最高裁はこの判断をだすために理由をさがしているといっても過言ではありません。

 メトロコマースと大阪医科薬科大の非正社員に退職金、賞与がないのは不合理ではない、という判決は、パート・有期雇用労働法の経営者的な運用法をさし示したものとして私たちは強く抗議しなければなりません。
 私は裁判闘争を闘った労働者のみなさんの闘いの意義を受けとめていきたいと思います。


日本郵便訴訟、契約社員の待遇格差不合理――10月15日最高裁判決


 最高裁は、扶養手当、夏休み冬休み・病気休、年末年始勤務手当、年始祝日手当など正社員と契約社員との格差は「不合理」という判断を示しました。
 郵政非正規労働者の闘い(郵便産業労働者ユニオン)は当面の勝利をかちとりました。この判決は労働組合の闘いを通じていかされるならば、約19万人の郵政非正規労働者と全国の2000万人の非正規労働者の労働条件改善に大きな影響を与えるものとなります。わたしたちの職場でも郵政ユニオンの闘いと連帯して非正規労働者の待遇改善を実現していきましょう。
 
 しかし会社側の動きには注意しなければなりません。
 すでに日本郵便最高裁判決を待つまでもなく2017年の東京地裁、2018年の大阪地裁で、住居手当、年末年始手当の支給格差違法判決を受けて、賃金源資を増やさなくても済むようにその振り分け方をかえてしまうという対応をしはじめました。たとえば、日本郵便は2018年5月、転居を伴う転勤がない正社員の住宅手当の廃止を労働組合JP労組)に提案し合意しました。これでコストを浮かせ契約社員の手当に充てるということです。


労働組合の闘いにかかっている


 賃金抑制の対象を契約社員から正社員にかえることを労働組合が認めてしまってはダメなのです。労働組合はほんとうに格差是正を実現するために非正規社員と正社員の垣根をこえた組織化をやるべきなのです。

 裁判はそもそもお上の土俵なのですが、13日の最高裁判決で、裁判所は現実的にも労働者の立場に立ってはくれないということをあらわにしました。裁判に頼っていてるだけは労働者は勝てません。そのことを承知の上で裁判を活用していかなければならないと思います。

 10月16日の朝日新聞編集委員の沢路氏が言っています。

「労組の役割 重要に」
 「賃金は本来、労使交渉で決めるものだ。今年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法で、企業は、求めがあれば待遇差の理由を説明しなければいけなくなった。非正社員の声をすくい上げて待遇改善を求める一方、待遇を合わせるために正社員の労働条件を一方的に悪化させることは防ぐ――。労働組合の役割が、ますます重要になる。」

 企業防衛主義になっている労働組合のリーダーは、こういうことを新聞記者に言われ、忸怩たる思いをもたなければいけないのではないでしょうか。
 同一労働同一賃金要求にたいして経営者は、一方では非正規と正規の仕事の内容の違いをつくり格差を正当化すると同時に、他方では賃金原資の非正規と正規の労働者への振り分け方を変えていきます。こうして同一労働同一賃金要求はからめとられていくのです。

 そもそも派遣労働者をはじめ、今や全労働者の40%になる非正規の雇用形態は、賃金コストを抑制するために1990年代から2000年代にかけて経団連をはじめとした資本家・経営者が導入したのです。そして政府が法的整備をして非正規雇用を広げることを可能にし、格差社会をつくったのです。その結果社会総体において生活苦に陥る労働者が増大し社会不安の大きな要因になっているのです。コロナ危機はそれに拍車をかけています。

 労働組合としては、経営者にたいして非正規労働者の賃金格差撤廃、正社員労働者の賃金抑制反対を要求し、政府にたいして派遣労働法撤廃を要求して闘うべきです。労働条件の格差是正を裁判所にお願いする運動に解消するのではなく労働組合を主体として様々な形態の運動を展開しなければなりません。そして運動の展開を通じて組合の団結を強化していかなければなりません。

 読者のみなさん、新型コロナ感染はヨーロッパで第二波に入ったようです。アメリカ、インドの感染症の広がりは高止まっています。日本でも全く終息の感じはありません。失業が増え、賃金をはじめとした労働条件は悪化する方向に向かいます。私たちは団結して政府・資本家のわたしたちへの危機のしわ寄せに立ち向かわなければ生活を守ることはできません。

 結局裁判に頼るしかないという労働運動の現状をのりこえ労働者の団結した力をつくりましょう。


1848年にカール・マルクスは次のように言いました。

「大工業と世界市場とが建設されて以来、ブルジョア階級は近代的代議制国家において、ひとり占めの政治支配を闘いとった。近代的国家権力は、単に、全ブルジョア階級の共通の事務をつかさどる委員会にすぎない。」(『共産党宣言』)


 こんにちの日本の労働運動は労資協調主議におちいっています。そして労働運動総体が低迷し、経営者と対立した場合には裁判(司法権力)に訴えるしかないということは否めません。既成の労働運動の限界をのりこえていきましょう。

全国の労働者は団結を!