[459]2021春闘バラバラ決着の方向

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 3月17日春闘は大手企業の集中回答日を迎え、ベアゼロで妥結するところも多くでました。読者のみなさんのなかには労働組合員の方もそうでない方もおられることでしょう。また、労働組合員であっても大手企業の組合ではない方もおられることでしょう。 2021春闘の現状が意味するものは、私たちが生きている時代のいまを象徴するものであり、考えておく必要があると思われます。
 朝日新聞は2021春闘を17日の朝刊で「ベアゼロ続々 春闘賃上げ2%割れか」と見出しをつけて報じています。
  「今年は新型コロナウイルス禍を踏まえ、労働組合の要求も抑えめだったことから、賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)はゼロでの妥結が相次いだ。賃上げ率は昨年まで7年連続で2%台だったが、今年は8年ぶりに割り込むとの見方が強い。」
 電機、自動車など製造業大手でつくる金属労協傘下の54組合のうちベアを獲得したのは17日現在で29組合にとどまるといわれています。    
 なぜこういうことになったのでしょうか。

 たたかう前に「賃上げ自粛」の方針を掲げた「連合」  
 
 もちろん連合の指導部が「賃上げを自粛する」と表現しているわけではありません。方針書では、ベアを統一要求とするのではなく定期昇給の確保が前面にだされているのです。これは賃上げ闘争の「自粛」を意味しているということです。
 2021年『連合白書』の「1.賃上げ要求 (1)月例賃金」で次のように書かれています。
 「すべての組合は、定期昇給相当(賃金カーブ維持相当)分(2%)の確保を大前提に、産業の『底支え』『格差是正』に寄与する『賃金水準追求』の取り組みを強化しつつ、それぞれの産別における最大限の『底上げ』に取り組むことで、2%程度の賃上げを実現し、感染症対策と経済の自立的成長の両立をめざす。」
 わかりにくい文ですが、要するに定期昇給確保を追求しベアはやれる産別でやる、(やれないところはやらない)ということです。
 ベアを第一の要求としていた2020春闘方針からは後退しているのです。
 2020年の『連合白書』の「1.賃上げ要求 (1)月例賃金」では「①すべての組合は月例賃金にこだわり、賃金引き上げをめざす。」といっており、ベアを前面におしだしていたのです。
 金属労協の高倉明議長は「経営側は『先行き不透明』を強調し、交渉は難航した」といっていますが、今春闘方針は「賃上げ自粛」といわざるをえないのです。
 新型コロナ危機のなかで、生産、流通を制限した資本家・経営者が経済危機の犠牲を労働者に転嫁して乗りきろうとしているときに、たたかうまえに傘下労働組合員に賃上げ自粛を強いたのが連合指導部です。観光、飲食、鉄道、航空、アパレル産業などで働く労働者に、賃金抑制と希望退職という名の解雇の攻撃がかけられているときに、賃上げ要求を後景化させ春闘を萎縮させてはならないと思います。
 「自粛」の方針にもとづいて闘いに取り組んだ結果が17日までの妥結状況なのです。この現実は大手だけではなく日本の労働運動全体に影を落とすことになります。そして労働組合のない職場で働く労働者と経営者の力関係にも大きく影響を与えるのです。
 
  経団連に「自粛」を見抜かれた連合

 経団連は毎年、経営者の春闘対策を「経営労働政策特別委員会報告」という冊子で明らかにしています。2021年のレポートで連合の春闘方針をとらえて次のようにいっています。
 「2021闘争方針は、前年と同様、月例賃金の絶対額の引き上げにこだわるとしているものの、『賃上げ環境は例年とは大きく異なる』との認識を示している。このことは、月例賃金の『底上げ』に関する記述において、その冒頭に『定期昇給相当分の確保』を大前提として掲げている点に象徴的に表れている。さらに、2020闘争方針ではベースアップ分として『2%程度の賃上げ』を要求していたのに対し、2021闘争方針では『それぞれの産業における最大限の底上げ』などに取り組んだ結果の目標として『2%程度の賃上げ』を実現すると記述している。」(91~92頁)
 これを読めばわかるように経団連は、連合のコロナ下における賃金闘争の実質的な「放棄」を見透かしているのです。そして続けてレポートは連合の闘争方針を次のように評価しています。「コロナ禍によって経営環境が大きく様変わりしたことを踏まえた対応といえる」と。
 私は経団連にこう言われて連合傘下の組合員として怒りを感じます。労働組合はコロナ危機のなかだからこそ、経営者の賃金抑制や解雇、雇い止めの攻撃にたいしてたたかわなければならないのです。
 労働組合は経営者にたいして団結してたたかうべき必要性と必然性を感じた労働者が結集する組織的団結形態です。しかし現在組織率は17%に落ちこんでいます。日本の労働運動は資本家、経営者の組合破壊や組合内部の労使協調的な力によって骨抜き化されたり、もっぱら野党の票田として機能させられたりしています。指導部が今春闘のような方針を掲げ続けるかぎり、組合員は増えることはないでしょう。
 今春闘の現状は、閉塞した日本の社会を働くものの将来にむかって突破していく可能性を秘めているとはいえません。労資協調主義にもとづく企業防衛のための労働運動をのりこえていく力をつくっていかなければなりません。
労働組合より