[728](寄稿)子宮頸がんワクチン接種の圧倒的出遅れをどうする

ペンギンドクターより
その2

 転送する山本加奈医師の主張は今年8月7日時点のものであり、その後11月12日の厚労省の合同部会でHPVワクチンの積極的勧奨再開へと動き出しました。(その1参照)ニュースだけでもいいのですが、やはり山本医師の具体的な経験があるほうがわかりやすいと思いますので転送します。

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コロナ禍で子宮頸がんワクチン積極勧奨再開先送りで圧倒的出遅れをどうする?

この原稿はAERA dot.(8月7日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2021090600053.html?page=1

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈
2021年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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先日、子宮頸がん検診を受診しました。毎年受診しているので、検査歴は10年を超えました。検査せずいつの間にか、がんが進行している方が怖いと思い、毎度検査に行くのですが、何度やっても検査自体は慣れないものですね。大体、1週間後に結果を聞きに来るように指示されますが、結果を聞く直前まで「もし、がんだったらどうしよう」と気がきでなりません。

30歳を超えるようになり、身近な友人が子宮頸部異形成という子宮頸がんの前がん病変を指摘され相談に乗ったことや、若くして子宮頸がんになった方から相談受けることが増えてきた今、自分も他人事でないと感じることが増えてきました。

私は幸い、母の勧めで19歳の夏に4価のHPVワクチンを接種しました。「子宮頸がんを予防してくれるワクチンが接種できるようになったらしい。婦人科の先生のところで接種しておいで」と強く勧める母を尻目に、「子宮頸がんってなあに? どうしてワクチンまで接種して予防しないといけないの?」なんて思っていたように記憶しています。しつこく接種を勧めてくる母に負けて、重い腰をあげてようやく接種しに行ったというのが、本当のところです。

けれども今では、「接種しておいで」と何もわかっていなかった私の背中を押してくれた母に感謝しています。子宮頸がんの予防は、HPVワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診の受診に尽きるからです。

子宮頸がんのほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)に持続的に感染することで発症します。HPVには100種類以上の型があり、主に性交渉によって感染します。子宮頸がんの原因になる高リスク型は少なくとも13種類あると言われていますが、このうちのHPV16型と18型の2種類が子宮頸がんの原因の7割を占めています。HPV感染は、子宮頸がんだけでなく、肛門がんや中咽頭がんなどにも関連していることがわかっています。

HPV感染に関連しているがんを予防するために開発されたのが、HPVワクチンです。米国や英国、カナダ、ブラジルなどでは、女子だけでなく男子への接種がすでに推奨されています。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のPeter氏らが、アメリカの18歳から26歳の若年者を対象にHPVワクチンの接種率を調べた調査によると、2013年から2018年の6年間に接種率が22%から40%に上昇していたことがわかりました。男性の接種率は8%から27%と特に上昇しており、女性の接種率も37%から54%にまで上昇したこと、そして多くが13歳から17歳の間に、初回のワクチン接種を受けていたことも判明しました。

HPVワクチンの有効性と安全性については、すでに多くの研究結果が報告されており、HPVワクチンが子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するという医学的コンセンサスは確立されています。2020年の10月には、ウェーデンのJiayoa氏らにより、4価のHPVワクチン接種は子宮頸がんのリスクの大幅な低下と関連していたことがマサチューセッツ内科外科学会より発行されているニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)より報告されました。HPVワクチン接種が子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するだけでなく、子宮頸がんのリスクの大幅な低下をもたらすと判明した今は、世界では高リスク型である9つの型のHPV感染を抑える9価のHPVワクチンが標準となっており、多くの国で接種が進んでいます。

日本は残念ながら、接種がほとんど進んでいません。2013年、厚生労働省が副反応の懸念から積極的勧奨を中止してしまったからです。おかげで、HPVワクチンの接種率は1%を下回っています。多くの国で接種が進み、子宮頸がんに罹患する女性が減る一方で、日本では増加すら示唆されているのです。

HPVワクチンの積極的勧奨の再開が求められている中、8月末の会見で、田村厚生労働大臣からは「コロナがひと段落ついたら……」と積極的勧奨の再開先送りを表明しました。新型コロナウイルス感染症パンデミックが広まってはや1年半が経過しました。ワクチン接種が進んだイギリスは新型コロナウイルスと共生していく道を選びましたが、ゼロコロナになる日はやってこないと私は思っています。ワクチン接種が進み、病床を増やして受け入れできない状況がなくなれば、「ひと段落つく」のかもしれませんが、田村厚労相がどういう状況を想像して「コロナがひと段落ついたら」とおっしゃったのか?「ゼロコロナ」を想像しておっしゃったのであれば、再開先送りのまま、ということになるでしょう。

新型コロナウイルスワクチンも接種開始が遅れた日本。HPVワクチンも圧倒的に遅れている日本の状況を直視するときに来ているのではないでしょうか。

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