[948]食べられないほどの貧困

 
 作家のプレイディみかこさんが朝日新聞『欧州季評』で英国の「食べられないほどの貧困」をレポートしています。
 英国は「ヒート・オア・イート」の時代になっています。ヒート・オア・イートとは暖房か食事か、どちらかを選ばなければならないほどの生活苦のことです。5月に放送された英国のテレビ番組で年金生活者が生活の困窮を訴えたといいます。
 夫を失くして公営住宅に住んでいるエルシーさんという女性は、光熱費が17ポンド(約2800円)から85ポンド(1万4千円)に上がり倹約のために一日一食にするだけではなく、暖房費を節約するために高齢者無料パスを使って一日中バスに乗っているのだそうです。
 「グッド・モーニング・ブリテン」というこのテレビ番組で当時首相であったジョンソンがインタビューを受け、エルシーさんの生活苦を聞いた彼は「申し上げておきたいのですが、(ロンドン市長の時代に)24時間の無料パスを導入したのは私です」と言いました。彼が辞任に追い込まれた背景には、このような態度への英国国民の反感もあったのだとプレイディさんは指摘しています。 
 これは光熱費と物価高による、「コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)」を象徴する出来事として英国の世論を沸かせたといいます。

英国に広がる貧困

 英国では貧困家庭の児童は公立校の給食費は無料になりますが、いまやイングランド北東部では公立校に通う子どもたちの3分の1がその対象となっており、イングランド全体でも22.5%が対象となり、4年前の13.6%から大きく増加しているといわれています。
 今年4月にチャリティー団体のザ・フード・ファンデーションが発表したデータによれば、約730万人の英国の成人が、過去1ヶ月間に食事をしなかったり、手に入れられなかったりしたことがあったと答えています。そういう人は今年の1月には470万人でした。
 
労働者たちは行動をはじめた

 文字通り「食べられないほどの貧困」が広がってます。プレイディさんは言います。「幸運な1%の富裕層なら別だが、99%に属している人間はあまねくその影響を受ける。もはや貧困対策は人助けではない。自分自身を助けることなのだ。」
 プレイディさんは次に労働者の闘いをレポートしています。「労働者たちは物価上昇に見合う賃金を求めて行動を始めた。6月には過去30年間で最大規模の鉄道ストライキが行われた。教員やNHS(国民保健サービス)の組合も賃上げ交渉次第ではストの可能性を示唆しています。一斉にストが行われたら、伝説的な1926年のゼネラル・ストライキの再現になるという声もある。」

 ストライキから距離を置く野党労働党

 労働党のスターマー党首は、ストライキに関与しないように閣僚に呼びかけています。そして影の外務大臣デビット・ラミーは「政権を担おうとしている真剣な政党は、おおっぴらにストを指示することはしない」と言い物議を醸したそうです。

 英国の議会野党も議会主義の立場に立っているためゼネラルストライキを秩序を乱す行為として本能的に忌避しているのだと思います。
 日本の野党も同じ場面に立てば多くは同じような対応をするでしょう。もっとも労働党の議員のなかには党首の方針に不満をもつ者もいて、プラカードを手にした鉄道労働者と共に立っている写真をツイッターに投稿した議員もいるそうです。鉄道ストに世論は支持と不支持が拮抗しており、34歳以下の若い世代では支持が圧倒的に多く、NHSのストに英国の半数の人が支持すると答えているそうです。
 
 プレイディさんは「『労働者の党』を名乗る政党が生活苦にあえぐ労働者の闘いを支援しないとすれば、若者たちにどんな印象を与えてしまうだろう」という危惧をのべています。そして、ウィリアム王子がホームレス支援誌「ビッグイシュー」を売っているほど2022年は特殊な年であるにもかかわらず、「労働党はそのムードの受け皿になる気があるのかないのか」と最後に怒っているのです。

 日本の労働者も物価値上げの波を受けても低賃金のままでは生活苦が深まります。日本の労働組合はイギリスの労働者と連帯して立ち上がらなければなりません。