ペンギンドクターより
その2
「添付ファイル」は塩野義製薬の新薬の認可についての報道をまとめたものです。
「添付ファイル」
塩野義、コロナ経口薬仕切り直し
●塩野義、コロナ経口薬仕切り直し、審議継続へ
同社が行う最終段階治験データを踏まえ、改めて議論することに
化学工業日報 2022年7月23日(土)配信 M3感染症、投薬に関わる問題
国産では初となる新型コロナウイルス感染症経口薬の実用化を目指していた塩野義製薬が正念場を迎えている。20日開催の薬事・食品衛生審議会(厚労相の諮問機関、薬食審)の合同会議(分科会長:太田茂・和歌山県立医科大学薬学部教授)は同薬の緊急承認について継続審議を決定。同社が行う最終段階治験データなどを踏まえ、改めて議論することとした。同部会でも最大の論点となった有効性を示せるデータを提出できるかが今後のカギを握る。
「異議なし」。2時間を超す白熱した議論の末、塩野義が開発中の新型コロナウイルス感染症経口薬「ゾコーバ」の緊急承認が全会一致で見送られた瞬間だった。
ゾコーバは塩野義と北海道大学との共同研究の成果として創製された抗ウイルス薬。新型コロナウイルスが増殖に必要とする酵素「3CLプロテアーゼ」を選択的に阻害する働きを持ち、これにより同ウイルスの増殖を抑え込むとしている。塩野義が実施した治験では、ウイルス量の減少が確認できたとしている。
実施した第2/3相臨床試験(P2/3)のP2後半段階での結果に基づき、塩野義は2月、ゾコーバの国内承認申請を行った。感染症が急拡大した時などにワクチンや治療薬を特例的に認める「緊急承認制度」が5月にできたことを受け、途中、同制度に基づく申請に変更。同制度による初の申請としても注目を集めていた。
だが、満を持して臨んだはずの6月の薬食審の医薬品第二部会は厳しい結果に終わった。20日に公開された議事録などによると、塩野義の治験では有効性を示す科学的根拠となる主要評価項目が達成できなかったことを問題視する声が相次いだ。
「臨床試験としては失敗であったため、(緊急承認の条件の一つである)有効性の推定はできていない」「ウイルス量が減少することで感染を抑えたり、重症化を抑えたりするとの主張は想像に過ぎない」。こんな意見が続出し、ゾコーバに対する肯定的な見方は一部にとどまった。このため、緊急承認の可否の結論を持ち越すこととし、同部会と上部組織である薬事分科会の合同会議へと場を移し、改めて審議することとなった。
20日の合同会議では、冒頭、事前審査を行った医薬品医療機器総合機構(PMDA)の藤原康弘理事長が概要を説明した。ウイルス量の減少などは認めたものの、提出を受けたデータからは「ぱっと見、差がないというのが普通の感覚」と語り、「有効性の推定を満たしていない」との見解を示した。そのうえで、11月にもまとまる見通しのP3の結果で再検討すべきだとした。
一方、参考人として出席した感染症専門家らからは、ゾコーバの臨床的議を認め、緊急承認を求める声が大勢を占めた。例えば、富山県衛生研究所の大石和徳所長は、主要評価項目が達成できなかったことなどに関し、軽症者の多いオミクロン株流行下での治験で差がつきにくかったと理解を示したうえで、「緊急承認は可能」と強調した。いわゆる“第7波”が到来していることを踏まえ、「症状緩和などに役立つ。インフルエンザ薬のように投与できる」との見方も披露した。
だが、こうした意見は少数派にとどまり、現場の医師らを中心に部会のメンバーからは否定的な意見が目立った。
有効性が推定できないことに加え、新たな論点として浮上したのが臨床現場での使いにくさだ。具体的には併用できない医薬品が多いこと、催奇性の恐れから妊婦らには投与できないことの二つで、特に後者に関しては「女性患者には怖くて使えない」(神村裕子・日本医師会常任理事)との声まで上がった。ただ、最終的にはP3など有効性が推定できるデータの提出があれば緊急承認の再審議ができるとして、継続審議とすることで一致した。
今回の結果については、塩野義は今後の方針などに関し、「対応を協議中でコメントできない」(広報)とするにとどめている。また、100万人分を買い上げるとの政府との合意がいぜん有効であることなどから、ゾコーバとワクチンで1100億円の売り上げを見込む2023年3月期の業績予想も、「現段階で見直す予定はない」としている。
新型コロナウイルス感染症薬の開発などを手がけたある製薬企業首脳は、「感染症を対象とした治験は難しい」と語る。とくに未知の感染症の場合、症状の進行や変化も見通せず、最適な臨床試験のデザインを組み立てるのが至難の業だという。株の違いによって症状が大きく左右される新型コロナウイルスではなおさらだ。
P3データの内容次第とはいえ、緊急承認への道が残った格好のゾコーバ。有効性を示すことのできる最終治験が組み立てられるか。塩野義の真価が問われている。
別のm3.com編集部からの報告をピックアップします。
2022年7月21日配信、佐藤夕(m3.com編集部)
●有効性の主要評価項目である12症状(倦怠感または疲労感、筋肉痛または体の痛み、頭痛、悪寒または発汗、熱っぽさまたは発熱、鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、息切れ〈呼吸困難〉、吐き気、嘔吐、下痢)合計スコアでは、プラセボと比較して有意差は見られなかった。しかし塩野義製薬は「オミクロン株に特徴的な5症状での症状改善」として、鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、息切れ〈呼吸困難〉、熱っぽさまたは発熱――の5症状に限った事後解析を行った。他にもCOVID‐19症状が快復(消失)するまでの時間の短縮などの事後解析結果を基に、「有効性は推定されたと考える」と報告した。
◍PMDA理事長の藤原康弘氏は事後解析について、「何度も解析すると偶然で有意になることがある。何度も解析する際は有意とするP値を小さくするなどしないといけないが、そういうことしていない」と発言し、事後解析の妥当性に疑問を呈した。
◍東京大学名誉教授の山田章雄氏は「治験の対象者はPCR陽性、あるいは初期症状が出てから120時間以内の患者。自然免疫でウイルス量が下がり始めている頃に投薬をしていることになる。感染のピークを過ぎている人しか見ていないのではないかという疑念が拭い去れない」との発言。
◍日本医師会常任理事の宮川政昭氏は「オミクロン株では、子どもは倦怠感や筋肉痛を示していることがある。塩野義製薬が提出した5症状が、本当にオミクロン株に特徴的な臨床症状なのか検証する必要がある」との発言。
同剤の安全性については、催奇形性リスクが指摘されていることやCYP3A阻害薬は併用禁忌となることなどから、実臨床での使用可能性に疑問を呈する意見が多く出た。
◍日本医師会常任理事の神村裕子氏は「妊娠している可能性がある女性にはとても怖くて使えない。既存の経口薬と薬効がほとんど同じなのであれば、なぜそちらではだめなのかと考える。『有効性がある』と言われても実際の外来では使いたくないと感じた」との発言。
◍日本医師会常任理事の宮川政昭氏は「有効性が『推定できる』と部会が結論付けたら、処方するかどうかは実臨床のなかで医師がきめなければならない。推定できたという段階では悩みながら使うのが現場になる」との発言。
◍千葉大学医学部附属病院薬剤部教授の石井伊都子氏は「催奇形性、相互作用の問題からこの薬は使いにくい。チェックシートなどでどの患者に使えるか明確にしないと使えない」との発言。
国内で現在承認されているCOVID‐19に対する経口治療薬は、メルクのモルヌピラビルとファイザーのパキロビットの2種類。国産初の経口治療薬承認とはならなかった。
◆緊急承認制度
感染症の流行時などに、医薬品などを迅速に実用化するため、暫定的に承認する制度。安全性の確認を前提に、一定の有効性が推定されることが必要となる。承認は2年程度の期限付きで、承認後に有効性が確認できなければ取り消しとなる。海外での使用実績などを基に、承認プロセスを短縮・省略する特例承認とは異なり、海外での実績がなくても審査の対象となる。
◆CYP3A阻害薬
ずいぶん多数の薬剤があるようです。エンペシド、クロトリマゾール、シメチジン、クラリシッド、ラベキュア、ボノサップ、フルコナゾール、テネリアなど私がよく知らない薬もあり、医師としてはチェックが難しいというのはわかります。間違えていたらすみません。(ペンギンドクター)
●ケアネットから引用します。
2022年7月22日付の村上和巳氏(医療・災害・紛争を専門とするジャーナリスト)の文章のピックアップです。彼はケアネットに「バズった金曜日」という連載を続けています。
……今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。……
村上氏の文章は臨場感があり大変「面白い」のですが、4ページもあり長いのでここではすべてはとり上げません。ただ審議内容を全面公開となると、各委員も明瞭な言葉できちんと意見を述べている感じがします。PMDA理事長の藤原康弘氏が塩野義製薬のやり方を否定的に断言して驚いたと村上氏の言葉にあり、村上氏のその部分とその続きをピックアップします。
……藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人監視の中でここまで製薬企業をディする(若者言葉で失礼)(注:否定する、disる)とは思いもしなかった。
このあとエンシトレルビル(ゾコーバ)の治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四栁宏氏(東京大学医科学研究所付属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人(注:うち2人四栁氏と岩田氏は塩野義製薬と利益相反あり)が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点での有効性の推定は可能という立場を取った。……
この参考人の人選・招致にも疑問が出た。島田眞路氏(医薬品第二部会委員で山梨大学学長)からである。参考人の二人四栁氏と岩田氏は塩野義製薬と利益相反があり(注:わかりやすく言うと塩野義製薬と利害関係がある。すなわち塩野義製薬から研究において金銭的なつながりがあると言うことだと思います)、大石富山県衛生試験所長は利益相反がないと明言した。しかし、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。
村上氏の結論としては「審議継続」に賛成のようである。そして最後に「ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている」と結んでいる。
●私としては、素人ながらも「審議継続」は妥当だろうと思います。とにかく弱毒のオミクロン株ですから、治療薬とプラセボ(偽薬)との間に有意差を見いだすのは難しい。また参考人3人とも緊急承認賛成の意見を述べているのは、人選に問題があると山梨大学学長の島田眞路氏(医薬品第二部会委員)が問題視しているのも納得である。
政府は当然国産の治療薬が欲しい。すでに政府は塩野義から「承認」を前提に100万人分の供給を受けることを決めているようです。塩野義としても開発費用が国から出ているので、当然必死でしょう。政府はコロナ対策として国産の新薬開発に成功したという実績が欲しいから、事務局としては参考人として3人とも「効果あり」とする「専門家」を招致したのでしょう。しかし、むしろそれが仇になったとも言えるかもしれません。
私も国産のコロナ治療薬が早く使えることは望ましいと思っています。外資系の薬剤と比較して、より有効でなくても非劣性(同等)であれば、国産の方がもちろんいいと思います。しかし効果がない薬の認可はすべきではないのは当然です。医療従事者ネットワークでは、「オミクロン株は風邪と同じだから治療薬などいらない」という無責任とも言えるが図星であるとも言える意見が多いようです。ただ、さらに変異して病原性が高くなった場合は、どうするか。未知の感染症の医薬品承認というのは本当に難しいですね。