私はイギリスのエリザベス女王の国葬に長い列ができている様子をテレビで見て、日本では大きな反対デモが行われた元首相の国葬とはえらい違いだと思いました。
その長い列について、13日の朝日新聞のコラム「欧州季評」でブレイディみかこさんが書いています。
コラムの見出しでこう書かれています。
「女王の棺に並んだ『あの列』」
「困窮する庶民 連帯の機運」
この見出しを見て私はそういうことかとまた驚きました。
エリザベス女王の死後、イギリスでは「あの列」(The Queue)という言葉が流行語になっているそうです。(最長で24時間並んだ人がいたらしい。) 私はあの長い列に並んだ人々の表情に全くうんざりした感じが見られず不思議に思いました。大英帝国・植民地主義の元首とはいえ、エリザベス女王はよほど人気があったのかなと思いましたが、並んだ人々気持ちはそれだけではなかったようなのです。
ブレイディさんのコラムを引用します。
「順番が書かれたリストバンドを手首に巻いた人々が整然と並び、互いに励まし合い、助け合った。そんな人々の姿が繰り返しテレビやネットや新聞で伝えられた。
しかし、このデジタル時代に、どうしてあんな昔ながらのやり方で何キロも人々は並んだのだろう。
『オンライン申し込みのチケット制にするとか、方法は他にもあっただろうに』
実際に並んで女王の棺に一礼したという知人に言うと、こんな答えが返ってきた。
『それじゃ、あのムードが味わえない。あそこで友達もできたしね』
社会の分断を生んだEU離脱や長いコロナ禍の後で、連帯感への渇望もあったのだろうか。」
ここまで読んで、私はなるほど、そういうことかと得心しました。さらにブレイディさんは次のように言います。
「『あの列』に存在したというコミュニティー•スピリット(共同体意識)と、国葬の日に複数のフードバンクが休むと発表したときの貧困に苦しむ人々はどうなるのかという怒りの声の盛り上がり。それらは、一見、反対のもののようでありながら、実は『他者との連帯』という点で繋がっているように思えた。猛烈な批判の声を受けて、休まないと発表したフードバンクもある。女王が亡くなったからと言って物価高で貧困で苦しむ人々の空腹が満たされるわけではない。むしろ、国葬が終われば、暗雲のように英国を覆っている『コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)』に立ち向かわなければならない。少なくとも、トラス新首相は知っていたはずだ。」
ブレイディみかこさんの「欧州季評」は何度かこのブログで紹介したことがあります。7月のレポートではイギリスが「ヒート・オア・イート」といわれる「暖房か食事か」の時代になっていると伝えていました。(このブログ[948]食べられないほどの貧困)
今はさらにイギリスの労動者民衆の多くが物価値上げの中で苦しい生活を余儀なくされています。トラス新首相は減税政策を打ち出しましたが不評で政権は危機に追い込まれています。
その減税政策がイギリス庶民にどのように受け止められているのか今回の「欧州季評」がリアルに伝えています。
次回へつづく