[1121]アメリカ下院議長選、議長を決められない

 共和党過半数を握った下院の議長選で、議長を1回の投票で選出できない100年ぶりの事態に陥りました。同党のマッカーシー院内総務の議長就任に反対する議員がでたためです。

私の意見∶
 議長が1回の投票日で決まらないのは100年ぶりと言われていますが、保守強硬派が造反した2023年のこの事態は共和党内のトランプの力の低下を映しています。  

 アメリカのウクライナ政策という観点から言うと、ゼレンスキー政権にたいする支援の翳りのシグナルがアメリカ議会内から出はじめているように私は感じます。
  
 議長選の報道の紹介に戻ります。
 3日には下院議長選の投票が3回実施されましたが、本命視されていた共和のマッカーシーは1~2回目は203票、3回目は202票にとどまリました。共和党は下院で222議席を持っていますが、約20人の造反が出て下院過半数218に届きませんでした。 4日に投票を再開し、出席議員の過半数を得る候補が出るまで繰り返すことになります。
 1回目の投票で下院議長を選出できなかった直近の例は1923年で、3日間におよんだ9回目の投票で決まったそうです。 
  マッカーシーは西部カリフォルニア州出身で、現在57歳。トランプ前大統領に近く、中国には厳しい強硬派です。マッカーシーの党内対抗馬となったジョーダンに賛成票を投じたのは約20人。下院に30~40人ほどいる保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」に所属する議員が多いといわれています。  

 フリーダム・コーカス議長のペリーはマッカーシーについて「現状を変革する意欲を示せなかった」と断じました。 
 英フィナンシャル•タイムス電子版はトランプとマッカーシーのやりとりを次のように伝えています。
 
 米メディアによると、マッカーシー氏は「トランプ氏は(議長就任に)支持を表明しており、今夜話した」と語った。トランプ氏の支持をテコに保守強硬派に賛成に回るよう促したが、現段階で大きな効果は出ていない。トランプ氏は自身が立ち上げたSNS(交流サイト)で3日にマッカーシーと電話したと明かした上で「偉大な共和党下院議員全員がケビン(・マッカーシー)に投票し、勝利する時が来た」と投稿し、賛成に回るよう求めたといいます。
  
 マッカーシーは年明け早々に反対派を取り込むため譲歩案を示したがうまくいきませんでした。米紙ニューヨーク・タイムズによると、5人の議員が賛同すれば議長解任の臨時投票などを実施できるように下院の運営規則を改める案を含んだ。しかし、反対派はひとりの議員が提案すれば解任するかどうかを決める採決に持ち込めるよう求めて決裂した。

 私の意見∶
 反対派はマッカーシーが認められない要求をぶっつけて自派の他の強硬な要求を認めさせようとしているかのようです。英フィナンシャル•タイムズの次のような分析は間違ってないと思います。

ーーロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援などバイデン政権の政策にも波及する。対ウクライナの巨額予算を縮小すべきだとの立場をとる保守強硬派が発言力を強めれば、上下両院の多数派が異なる「ねじれ議会」でハードルが上がった政策実現は厳しさを増す。ーー

(参照∶日経新聞1月4日ウェブ版)

私の意見∶
 昨年の暮れ、バイデンはゼレンスキーと会い「必要な限り」支援を続けると約束しましたが、米下院がウクライナ支援を認めない限り支援を続けるのは難しい局面に立たされています。
 共和党、とりわけ保守強硬派はウクライナ支援を渋っています。
 私はアメリカ下院の混迷はウクライナ戦争のこれからの形に大きな影響を及ぼすものになると思います。
 ウクライナ戦争の帰趨は帝国主義国家アメリカ総体の利害•思惑に規定されていることを忘れてはならないと思います。ロシアによる昨年2月の侵攻開始後、アメリカの軍事支援の総額は11月末の時点で190億ドル(約2兆6600億円)となリました。ゼレンスキー政権は12月のバイデンとの会談でアメリカの支援を受け民主主義を守るために戦うことを表明しました。
 ロシアのウクライナ侵略を起点としてなお続くウクライナ戦争。それぞれの支配階級内部の対立を抱える米欧日、露中の利害損得が絡みウクライナ戦争は泥沼化し犠牲が拡大するばかりです。ロシア軍は撤退し、親米ゼレンスキー政権による戦争の継続はやめるべきです。

 私たち全世界の労働者階級は、アメリカ資本家階級の政府のウクライナ戦争への形を変えた介入にはこれからも警戒しなければならないと思います。
 私はそういう意味でアメリカの下院議長選の行方に注目しています。